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最弱の竜は最強の竜狩りと恋をする  作者: しき
第三章 竜と竜狩り
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3-7.やるべきこと

 シヅルと名乗った少女は、クリフとロロの荷物を持って歩く。最初はクリフの荷物を全部持っていたが、装備だけは自分の手で運びたかったので返して貰い、代わりにロロの荷物を持ってもらった。


「ぶっちゃけ助かりますますー。めっちゃ重かったので」

「やっぱりー。ちょっとふらついてたよー」

「あらあら、ばれてましたかー。そういうのを隠すのも使用人の務めなんですが、やっぱりまだまだですですね」

「仕方ないよ。あれはちょっと重いからねー」


 独特な喋り方をするシヅルにロロは最初こそ戸惑っていたが、彼女と話しているうちにあっという間に慣れたようだ。今では普通に会話している。


「ところで、わたしたちはどこに向かうのでしょうか。戦士団の宿とは別方向ですですが」


 歩き始めてから少し経ったところでやっと気づいたようだ。クリフは用意していた言葉を口にする。


「そこには行かない。俺たちは友人が教えてくれた宿に行く」

「えー。もったいないですですねー。あそこすっごく豪華だからそっちにした方が良いですですよー」

「そっちの方が都合が良いんだよ。お前は黙ってついて来い」


 クリフは先頭にたって宿に向かう。アーデミーロで買ったアズルダの地図に目的地を記している。地図通りに進めば十分くらいで着く距離だった。クリフは人混みを分け、地図を見ながら進んだ。

 しかし十分どころかニ十分歩いても目的地に着かない。道を間違えたのか、それとも場所を間違っているのか。

 クリフはその場に立ち止まり、地図を何度も見て位置を確かめる。すると後ろから「迷いましましたかー?」とシヅルが顔を出す。急に近づかれて、思わず避けてしまった。


「驚きすぎですですよー。それで、道分かりますますー?」

「あ、あぁ。一応な」

「どれどれどれー」


 シヅルが地図を覗き込む。クリフたちが目指す宿の位置を見ると、「んー」と唸る。


「行きすぎちゃってますますねー。案内しましょうかー?」


 どうやら間違っていたようだ。これ以上迷って時間を潰すのも面倒である。クリフはシヅルに道案内を頼むことにした。


「……あぁ。すまんが頼む」

「お任せくださいさいー。けどその前にー」


 シヅルが明後日の方を指差して提案する。


「軽く観光でもしていきませんかー。せっかくの王都なんですからー、遊ばないのは損ですですよー」


 行為あっての言葉なのは理解できる。しかしロロを長く外にいさせるのは避けたい。もしかしたら竜狩りと出会ってしまうかもしれないことを考えると、迂闊に外に出歩けなかった。


「いや、先に宿に案内してくれ。それから少し頼みたいことが他にもあるから、そっちを任せたい」

「そうですですか。分かりました、ではこちらですです」


 シヅルは来た道を戻り始め、クリフたちはその後ろについて行く。その際、ロロの寂しそうな顔が見えた。クリフは頭を掻きながら脳内で言い訳を言う。仕方がない。いつどこに竜狩りが居るのか分からないんだ。呑気に遊んでいられない。


 シヅルの後をついて行って五分ほど、ケイトが指定した宿屋を見つけた。クリフたちは中に入って部屋を取る。二人部屋が空いていたのでそこに泊まることにした。部屋に入ると荷物を置き、クリフはシヅルに頼みごとをした。


「この街にいる竜狩りを調べて欲しい。名前や実績、あとはどんな能力かを知りたい。それを調べてくれ」

「良いですけど何でですですかー? 試験には直接関係なさそうですですけどー」

「いいからだ。必要経費は出すから、頼むぞ」


 クリフはあらかじめ小分けしていた貨幣が入った袋をシヅルに渡す。シヅルは堂々と中身を確認してから「分かりましましたー」と言って外に出た。

 これでやっと一息つける。クリフはベッドに寝転んで身体を休めることにした。


「ロロの部屋より広いねー」


 ロロは窓に背を向けながら言う。


「二人部屋だしな」

「それもそうだね……。一週間だよね」

「あぁ。試験が終わった翌日に帰るからな」

「じゃあ、それまで我慢だね」


 不安そうなロロの顔を見たクリフは、自然に励ましの言葉が口から出る。


「頑張れ」


 表情を変えないまま、ロロは頷いた。

 明日が早く来ればいいのに。クリフは心底そう思った。






「―――というのが、竜狩りの情報ですです。ご参考になりましたかー?」


 夜になって、シヅルが部屋に訪れた。すでにクリフたちは夕食を終えており、ロロは風呂に入っている。クリフもこれから風呂に入ろうとしたところだった。来てくれた手前風呂に行くわけにもいかず、クリフはシヅルの得た情報を聞いた。


 アズルダに滞在する竜狩りは四人。二人は別々の門を監視しており、一人は街のパトロール、残り一人は休息をとっている。どうやらローテーションで仕事を回しているようだ。


 彼らの経歴はまちまちである。十年ほど竜狩りを務めている者が一人、二人は五年で、もう一人は二年だ。黒竜の討伐数は、十年の戦士が三十二頭、五年の戦士が十頭と八頭、二年の戦士が三頭だ。皆経歴に相応した数の黒竜を狩っている。

 そして一番知りたかった人と黒竜の判別方法。シヅルの情報によると、差はあるものの全員が目を頼りにして判別するタイプの様だ。クリフの肩の荷が少しだけ下りた。少なくとも、部屋に閉じこもっていれば見つかることは無さそうだ。


 クリフはシヅルに「ありがとな」と礼を言う。


「色々と助かる。しかもこんなに早く情報が集まるなんて、ありがとうしか言えないな」

「いえいえ、こう見えてわたくし働き者ですですのでこれくらいどうってことありません」

「そうか。レイの言う通りで真面目なんだな」

「そういえば聞きたいことがあるんですですけどー」


 シヅルが興味津々な目でクリフに尋ねる。


「手紙でレイ様が友達が出来たと言ってたのですですが……本当ですですか?」


 わざわざそんな事を聞くのかと訝しんだが、レイの振る舞いを思い出して納得する。たしかにあの調子じゃあ、なかなか友達が出来そうにない。使用人からも心配されていたのだろう。


「あぁ。俺とロロ、あと他に二人いる」

「おー、本当でしたかー。それは良かったですです。もしかしたらわたくしたちを心配させまいと言ったのではないかと思いましましたので」

「それほどか……」

「はいはい。大人しくて口下手なだけでなく、少々世間ずれしている節がありましまして。友達が出来るか不安だったのですです」


 シヅルの言うことに一理あった。普段の会話でも意思の疎通が難しい時がある。最初に比べればマシになっているが、もう少し人と話すことに慣れて欲しいと思っていた。


「しかしあなた方がレイ様の友達とならば、より張り切ってしまいますますね。この一週間、わたくしをこき使ってください」

「そうか……。じゃあ一ついいか」

「はい。一つと言わず二つ、二つと言わず十、いえ百でもかまいませんよ」

「今は一つで良い。俺が試験で留守にしている間、この部屋でロロの相手になってくれ」

「この部屋で、ですか?」


 首を傾げるシヅルに、クリフは「あぁ」と頷く。


「ちょっとした都合で、ロロはこの部屋から出れない。あいつもそれを理解してるが、本来は活発な性格だ。一人で閉じこもってたらストレスが溜まるはずだ。だから一緒に居て気を紛らわせてやってくれ」


 シヅルはしばし考え込むと、「……追っ手に追われたお姫様かなんかですですか?」と訊ねた。「そんな認識で良い」とクリフは答える。シヅルはふむふむと頷いた。


「分かりましました。その使命、全うさせて頂きますます」


 使命。シヅルから出た言葉に、クリフは自然と笑みを見せた。自分以外が言うのを久々に聞いた気がする。

 クリフが最初に抱いた不安は、すっかりと失せていた。


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