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最弱の竜は最強の竜狩りと恋をする  作者: しき
第二章 竜の友達
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2-8.同行者

 レイの言葉に、一瞬、クリフは言葉を詰まらせた。が、間もなくして「そうか」と答えを返す。

 驚きはしたが、よく考えれば可笑しくない事態だ。たかが一人の戦士のために、わざわざ他都市の竜狩りの戦士をよこすのは非効率だ。しかもハーロックはクリフに好意的な態度をとっている。ならばクリフの事を知る竜狩りに頼るのは当然。そして今、アーデミーロの竜狩りはレイだけ。真っ当な人選であることに、クリフは自信を納得させた。


 ただ、気掛かりはあった。

 クリフはレイを見つめ返す。黒い瞳を見つめていると、レイは黙って視線を横に逸らした。


「試験の内容は?」

「それは、まだ聞いてない。ハーロックさんが適当な任務を選ぶから」

「いつやるんだ?」

「一週間以内に、始めるよ。その前日に教えてくれるから、それまでは待機、だよ」

「合格基準は?」

「それは、言えない」


 時折目線をクリフに向けながら、レイは答える。気まずそうな表情に、クリフは不信感を覚える。本当に何も知らないのか? クリフの進退を決めるという重大な役割を持つ竜狩りが?


 クリフが続けて問おうとすると、「何の話だ」とケイトが間に入る。同時に、この事は内密に進めるとハーロックに言われたことを思い出した。クリフは慌てて誤魔化した。


「次の任務の話だ。こいつと行くことになるから、その打ち合わせだ」


 ケイトはがっかりとした顔を見せる。


「なーんだ。マジっぽい顔だったから、なんかまずいことでも起きたと思ったのに」

「なんでがっかりしてんの。これだから戦闘狂は」

「うっせぇよ逃げ腰ヘタレ。ちゃんと任務で成果を上げろよ」

「任務を真面目にやったらすぐ死んじゃうんだよ。それに今回の活躍はボクのお蔭だ。さぁ褒めろ」

「モンスターに尻尾巻いて逃げる奴をだーれが褒めるか」


 いつもの口喧嘩が始まり、クリフは溜め息を吐いた。もう少し静かにできないのか。レイと話がしたいというのに。


 うんざりとしたクリフが二人を止めようとすると、その前にロロが声を上げた。


「ねぇねぇ。ロロ観光したいんだけど、案内してくれない?」


 場を無視した発言に、ケイトとクリフは唖然とする。しかし、ルイスだけは違った。良い顔をして「もちろんだよ!」と嬉しそうに答える。


「この街の良い所を余すことなく伝えよう! 観光地だけじゃなく、美味しい料理屋や品ぞろえの良い服屋も案内するよ!」

「ホント? ありがとね、ルイス」


 満面の笑みのロロを見て、ルイスはより一層声を張り上げる。


「あぁ、こちらこそありがとう! こんな可愛い子をエスコートできるなんて、ボクァ幸せだよ!」

「ルイスって面白いね」

「ははっ、ありがとう!」

「じゃあ、皆もいこっか」


 ロロはクリフたちに向かって言った。ケイトは威勢が削がれたのか、仕方なさそうに「はいはい」と返す。クリフはロロが恋人と誤解された事もあって同行したくなかったが、ロロから眼を離しているうちに変な事をしないかという不安が勝った。


「分かったよ。じゃあなレイ。また後でな」


 レイとの話は後にしよう。そう考えて別れようとした。


 しかし、ロロが怪訝な顔を見せる。


「何言ってんのクリフ?」


 ロロはレイに近寄って右腕を掴んだ。


「レイちゃんも一緒に行くんだよ」

「…………は?」


 驚きのあまり、間抜けな声が出た。ロロの言葉にクリフはもちろん、ケイトとルイス、そして当人であるレイも呆然としていた。だけどロロは気にせず、レイに話しかける。


「ね、良いでしょレイちゃん。一緒に行こ」

「え、あ、その……」


 ロロの強引な誘いにレイが困惑している。あの一匹狼のレイが戸惑う姿を見せている。クリフは笑い声を堪えた。


「ねぇねぇ行こー。レイちゃんと一緒だったらきっと楽しいのになー」


 小悪魔のような振る舞いに、レイは態度を決めかねずに戸惑っている。表情に乏しいレイが、コロコロといろんな顔を見せる。さすがのレイも、ロロが相手では冷静にいられないようだ。


「まぁまぁ、落ち着けよロロ」


 ロロとレイの間にケイトが入り込む。ロロは一旦レイから離れた。


「こいつは竜狩りの戦士だ。アタイら平戦士とは違った任務をしていて、それに追われる生活だ。この後も用事があるかもしれないぜ」

「あ、いや、無いけど……」


 ケイトの顔が固まり、ロロが嬉しそうな顔を作る。直後に、レイはハッとして、気まずそうな顔を見せる。


「あ、えっと……ごめんね?」

「……」


 沈黙で応えるケイトに対し、ロロがまたレイに近づく。


「ね? ね? 良いでしょ? 一緒に遊ぼ!」


 飼い主を遊びに誘う子犬のように、ロロがねだる。ぐいぐいと距離を詰め、お互いの顔が触れそうになるほど近づいた。


 するとレイは観念したのか、「分かった」と短く答えた。


「じゃあ、一緒に行く。良い? クリフ君」


 正直のところ気は進まない。しかし助けてもらったロロに恩がある以上、断るのも気が引ける。クリフは仕方なく承諾することにした。


「かまわない。じゃあ任務の話は後で―――」

「やったー!」


 ルイスが大はしゃぎで喜ぶ。突然の大声に、クリフは思わずルイスの頭を叩いた。


「いったー……何すんだよ!」

「お前こそ突然叫ぶな! 鼓膜が破れるだろ!」

「良いじゃん別に! 鼓膜を鍛えないのが悪いんだよ!」

「鍛えれるか! つーか、一人増えただけでいちいち大声出すんじゃねぇ」

「だって一度話してみたかったんだもん」

「いつでも話せんだろ」

「分かってないなー、クリフは」


 小馬鹿にするような顔でルイスが言う。


「レイほどの竜狩りに易々と話しかけれるの、戦士じゃクリフくらいだよ」

「は? そんなわけ……」


 クリフは記憶を掘り起こす。いつもレイを見かけるのは詰所と、たまに街中ですれ違うくらいだ。だけど毎回、レイが誰かと一緒にいることは無かった。一人で居ることが多いと知っていたが、まさかクリフ以外に接する奴がいないとは思わなかった。少しばかり、レイが気の毒に思えた。


「ほらほら、早く行こ。案内してくれるんだよね」


 ロロがルイスの腕に抱き着く。ルイスはたちまち顔を赤くし、今までで見た中で最高の笑みを浮かべた。


「うん行こう! そうしよう! ほら皆、早く行くよ!」


 ルイスが先導し、クリフたちはそれに続く。レイは反応が遅れて出遅れたが、すぐにクリフに追いつき横に並ぶ。ふと一瞥すると、レイの顔が微笑んでいるように見えた。





 

 その後、ルイスが主導して街を歩き回った。昨日クリフが案内できなかった観光地や、評判の良い料理屋や品ぞろえの良い服屋に入って観光を楽しんだ。各地を訪れるたびにロロは楽しそうにはしゃぎ、ルイスはさらに楽しませようと張り切っていた。饒舌に観光地を説明したり、食べ物を買ってきてあげたりと、まるでデートに張り切る彼氏のようだった。その間クリフはロロを監視しながらレイやケイトと話をして、それなりに観光を楽しんだ。


 夕刻になるとロロは観光を堪能しつくしたようで、満足そうな笑みを浮かべていた。


「今日は楽しかったー! ありがとね、ルイス」


 満面の笑みを向けられたルイスは、同じように笑顔で「こちらこそ、楽しかったよ」と返した。一行はたそがれ荘への帰路へと付く。その際、クリフはレイに話しかけた。


「レイ。今日は俺らの所で飯食えよ」

「え?」


 困惑するレイに、クリフは続けて喋る。


「ロロに付き合ってくれたことと、助けてくれた礼だ。ご馳走させてくれよ」

「お前が作るわけじゃ無いのに、偉そうだなぁ」


 ケイトが茶々を入れてくる。


「別にいいだろ。マリーなら快くもう一人前つくるさ」

「それもそうだな」

「で、どうだ? 任務の話もしたいから、来てくれると嬉しいんだが」


 観光中、クリフはルイスたちに言われた事を思い出していた。面倒事を起こさないように努力をしろということだ。


 今までクリフは、レイに対して敵対的な行動をしてきた。竜狩りとして名を上げるために、レイが邪魔だと考えていたからだ。だがこれまでの行為が、今クリフの障害になろうとしていた。直接害を及ぼすようなことはしてないが、心証は良くないはずだ。嫌われていることも考えられる。もしかしたら認定試験の合否に関わるほどかもしれない。クリフは今までの行いを後悔した。

 だが、このまま何もせずに認定試験には挑めない。だからクリフは今日を機に、少しでもクリフに対して良い印象をレイに持って欲しかった。敵を作らない、面倒事を避ける、そのための努力をしようと考え、レイを食事に招待した。レイが招待を受けるにせよ、断るにせよ、クリフの好意は伝わる。そういう狙いがあった。


 レイは数秒考えた後、表情を変えずに「うん」と頷いた。


「じゃあ……頂こう、かな」

「おう。じゃあマリーにも伝えないとな。折角の客だ。良いものを作って貰わないとな」

「だな。じゃ、アタイがひとっ走りして伝えてくるよ。こうも歩いてばかりだと退屈だしな」


 そう言ってケイトが走ってたそがれ荘に向かう。ケイトの足は速く、あっという間に背中が見えなくなった。ケイトが見えなくなった方を見ていると、レイが小声で何か言っていた。


 すぐに視線を向けるが、レイの口は貝のように閉ざしている。そしてまた、口元を綻ばせていた。


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