使い魔が欲しい
一歩。また一歩。近づく王座。
ここに座るためだけにどれほどの犠牲を払っただろうか。
俺が本当に手に入れたかったモノはこの「王座」だったのか。
信頼する臣下を失ってまで手に入れたかったモノは本当に「王座」だったのか。
わからない。わからないんだ。
なぁ、教えてくれよ、「兄さん」
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「っていう夢を見たんだって、マジでっ。」
そう叫ぶのは俺、「新谷天剣」。
正直なぜ両親がこんなキラキラした名前をつけたのか知らねえ。知りたくもないな。
「うるっさいわねえ、天剣。もう少し静かにできないの?まったく。」
やれやれと腰に手をあてるのは、俺の幼馴染(女)の「坂下手鞠」。
家が隣同士で同じクラス。いわゆる腐れ縁ってやつだ。
「これが静かにできるっかての。近い将来本当に王様になってたりしてっ。それにさ、俺<<天帝>>呼べるし。こい、<<天帝>>」
どこからともなく剣がでてくる。それは一言では言い表せないほど美しい一本の剣だった。
「もう、用もないのに呼び出すなんてかわいそうじゃない。ねぇ?<<天帝>>
ごめんなさいね。あなたの主はバカだから」
そう、俺たちの住む世界は選ばれし者が存在する。選ばれし者はほかの人間とは少し違い、特殊な力を持っているのだ。
俺は<<天帝>>を呼びだすことと、<<予知>>する能力を持っている。
って言っても俺の場合<<予知>>は一日先も読めない。読めるのは読みたいと思ったときから10秒先だけ。
「10秒先が読めるのって<<予知>>って言うのか?せめて一日先だけでも読めるようになりたい・・・」
「仕方ないんじゃない?天剣は要領悪いし。まぁ、私は生まれたときから「醒えるけどね。」
そうなんだよな。手鞠も能力者なんだよな。しかも能力者の中でも100人に一人といわれている<<神里眼>>を持っているんだ。
「それはおまえの両親も<<神里眼>>使いだからあたりまえだろ・・・それに比べて俺の両親は別に選ばれし者じゃなっかたぜ。そう考えたら俺、なんで<<天帝>>使いなんだろ・・・。」
俺の両親も兄貴も一般市民なんだ。そーゆー能力なんてまったく持ってなかったし。
「天剣はたぶん・・・グラシアによると、王の<<覇気>>と<<風格>>があるんじゃないかなって。」
「グラシアが言ってるなら信用できるな。」
「なによっ。私のことは信用してないってこと?」
「い、いや。そーゆーわけでは・・・」
グラシアは手鞠の使い魔の猫の名前。
今までに何度も助けてもらった。
(たとえば手鞠の作る激マズ飯から逃げるための言い訳とかを聞いたり・・・苦笑)
グラシアとは会話ができないのだが、そのかわり<<思念伝達>>という能力で脳内で会話することが可能なのである。正直めちゃくちゃ便利で助かっている。
「ま、いいわ。それより天剣。あなたも使い魔を作ればいいのに。本当にかわいいのよ?ほら見て、こうやって腕をこすりつけてくるところとかたまんないっ」
「お前は能力者の両親からもらったんだろーが。嫌味にしか聞こえないぞ。俺だって使い魔欲しいさ・・・」
「それもそうね。それじゃあパパとママに使い魔の作り方を聞きに行きましょ!きっと知ってるはずだわ。
あ、ところで天剣はどんな魔物がいいの?」
「どんな魔物がいるのか知らないけど俺はやっぱりオオカミだな!!あんなにつよくてかっこよくて気品を漂わせているやつなんていないぜ。」
俺は無類のオオカミ好きだった。動物園に行くと真っ先に見に行くのがオオカミなほどである。
「いいわね、天剣らしいと思うわ。それじゃ、早速パパとママのところに行きましょう。グラシア、お願いね。」
わかった、とでも言うように手鞠の腕に再度顔をこすり付けた直後、グラシアの毛が黒から白に、眼の色が金色から赤色に変化し、てくてくと迷いもせずに歩いていく。
グラシアも主である手鞠と同じように<<神里眼>>を使える上位魔物であった。
しかしその中でも特に珍しい「探したいものの場所を知ることができる」神里眼だった。
そうやって俺が丁寧に説明しているところに手鞠乱入。
「ちょっと天剣、さっさと来ないと置いていくわよ。
ほら、ボサッとしてないでパパとママのところに行くわよっ。」
「へいへい、わかりましたよー。」
そうして俺たちは手鞠の両親のところへ向かったのだった。
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<<said手鞠両親>>
「あなた、どうしましょう。天剣くん・・・いいえ、天剣様を向こうの世界へお連れしてもいいのかしら・・・。」
「仕方ないだろう。天剣様はもうこちらに向かってきている。
俺たちに天剣様をお止めする、そんな権限なんてない。こうなってしまっては仕方がないからな。天剣様を無事に向こう世界にお連れすることに徹しよう。」
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「よし!パパとママのとこにとうちゃーく!って言っても着いたのは私の家だけどね!」
・・・相変わらず広すぎるんだけど。手鞠ん家。俺の家がめちゃくちゃ見貧しく見える。俺の家だってこの辺ではかなり大きめなんだけど、手鞠の家は俺んちの比じゃないくらいに大きい。デカイ。
「そう?私の家そんなに大きいかしら・・・?天剣や他の人の家と変わらないと思うのだけれど…?」
…こいつまた天然嫌味発動してんな。どこからどう見れば俺ん家と同じくらいってんだ!?
もういいや。ツッコミ入れる気力さえも残ってねぇ。
「はいはいもういいや。それより早くお前の両親に会わせてくれ…。」
「りょーかい!梅?入る?パパとママ呼んで欲しいのだけれど?」
「まあ、手鞠お嬢様に天剣様!こちらでお待ちくださいまし。すぐにお呼びいたし…」
「その必要はなさそうね」
なるほど手鞠の言う通りその必要はなさそうだった。なぜなら…
「そんなところから覗いてないでこっちにきたら?パパ、ママ。」
「あはは、やっぱりばれてたか…」
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区切り悪いかもしれませんが、ここでストップ。