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第一章 戦いの烽火

 眠りの片隅(かたすみ)で目覚ましの音を聞いた気がした。目を開くと、暗い天井が視界一面に広がっている。半分夢心地で首を傾けると、ベージュのカーテンが光をまとっている。

 枕元の目覚まし時計を引き寄せて時間を確認する。もう朝だ。

「起きるか」

 目覚ましを止めて、立ち上がる。

 カーテンを開いて、急激な明るさに目を細めた。窓の外には道路があって、車が走っている。近くの酒屋ではもう仕事の準備を始めているらしく、店の前でビール瓶のケースを運んでいる男性の姿があった。

 うん。いつもの朝だ。

「さて、飯にするか」

 寝巻きのままで一階に下りると、早速台所へと向かう。

 家は典型的な日本家屋で、廊下(ろうか)や階段は黒い木目(もくめ)がむき出していて、踏めばギシギシと音を立てる。客間と居間は畳敷(たたみじ)きの和室で、客間には(かぶと)なんかが飾ってある。一年くらい前には掛け軸もあったが、管理が面倒なので今は押入れにしまっている。

 一人で暮らすには、ちょっと贅沢(ぜいたく)すぎる気がする家だ。

「いただきます」

 三十分で作った今日の朝飯。ほうれん草のおひたしに焼き魚、昨日の残りのお味噌汁と、即席サラダ。新聞を(かたわ)らに置きながら、さくさくとご飯を食べていく。一人暮らしを五年もやっていると、嫌でも家事を覚えるらしく、掃除、洗濯、料理に至るまで、男だろうと一通りのことはできるようになるものだ。これでも家庭科は、そこらへんの高校生よりはできる自信がある。

「ごちそうさま」

 朝食を食べ終わって、居間の掛け時計に目を向ける。新聞を読みながらの食事だから、いつものようにもう八時を回っている。

 あまりゆっくりしている時間はない。さっさと食器を洗う。最近だと、自動食器洗い機というものが出ているらしいが、家にはそんな便利なものはない。欲しいような気もするが、そこまで積極的ではない。父親が残してくれた家だ、あまり自分の都合で変えたくない。父親が帰ってきたときに家の中身が変わって驚かせるのは悪いと思うし、何より昔のままであることが、雪火夏弥(ゆきびかや)に父親と過ごした日々を忘れさせない、という意味合いもあったりする。

「忘れ物ないよな」

 玄関で最後の確認をする。

 洗い物を終えてから二階でブレザーに着替えて、鞄を持って下に降りた。教科書は入れたし、筆記用具も入っている。朝飯と一緒に作った弁当も忘れていない。

「じゃ、行ってきます」

 誰も返事をしない玄関に声をかけて、夏弥は家を出た。朝の八時一〇分すぎ、六月の初めは春を駆け抜けて暖かい。まだ夏というほどではなかったが、空は見事に晴れて気持ちがいい。


 父親が死んだのは、五年前。小学五年生になったばかりの、まだ寒い時期だった。その日のことは今でもよく覚えている。その頃はまだ、父親と一緒に下の居間で寝起きしていた。春だっていうのに、みぞれが降った日だ。

 寒くて寒くて、仕方なかった。ずっと布団(ふとん)の中で(もぐ)っていたかった。そのときは目覚ましなんてかけていなかったから、父親が起こしてくれるまでずっとそうしているつもりだった。

 けれど、いつになっても父親が起こしてくれないから、夏弥は不思議に思って布団から起きた。時計はもう七時半になっていた。いつもなら七時に起こしにくるはずなのに、父親の声はちっとも聞こえない。

 隣を見ると、父親はまだ布団に(くる)まって眠っていた。父親を起こそうとして触った手が、異常に冷たかったのを覚えている。本当に、その日の気温のように冷えきっていた、白い肌。

 ――あれが、雪火夏弥が最初に見た、人の死だった。


 家から高校までは、歩いて二〇分。通学路には同じ高校の生徒たちが、同じように学校へと向かっている。あの角を曲がって少し先に大通りがある。あの角はちょっと変わっていて、ここからは見えないが、少し先に川に向かう坂道がある。その坂を登っていくと、わりと賑やかな町へと続いている。

 角にはミラーがついていて、その下に女子生徒が一人立っていた。

「おはよう。雪火くん」

「おはよう。水鏡(みかがみ)

 柔和に笑う彼女に、夏弥は手を上げて(こた)えた。

 彼女は水鏡言(みかがみあき)。「水鏡」と書いて「みかがみ」、「言う」と書いて「あき」だ。夏弥の通う高校のクラスメイトで、一学期の中間前のときは隣の席だった。名前が珍しかったから何度か話をしているうちに、彼女が夏弥の家の近くに住んでいるとわかって、今では毎朝一緒に登校している。

 髪はセミロングで、笑うと白い頬がぽっと赤くなる可愛らしい女の子だ。美人だから男子の中でも人気があって、けれど本人は内気な性格のためか積極的な男子と接するのは苦手らしい。

 二人並んで高校へと向かった。

「やっぱり水鏡は早いよな」

 夏弥の高校はホームルームが八時五〇分に始まる。家を出たのが一〇分で、歩いて二〇分くらいでつくから十分余裕がある。いつも早いくらいの時間に家を出ているのに、水鏡はいつも夏弥より早く待ち合わせ場所に来ている。

 水鏡は困ったように首を(かし)げる。

「そうかな」

「そうだよ。だっていつも俺より早いじゃん。今日こそは俺が一番のりできるかと思ってたのに」

「そんなことないよ。あたしもさっき来たばかりだもの」

 笑顔で答える水鏡に、夏弥は不満そうに(まゆ)を寄せる。たまには水鏡よりも早く待ち合わせ場所に着いて彼女を驚かせてみたいと思っているのだが、それが叶ったことは一度もない。

「水鏡って、朝早いの?」

 水鏡は少し考えるように顔を上に向ける。

「どうかな。朝起きるのは六時半頃だから、普通だと思うけど」

「げっ。俺より三〇分も早い」

「あ、でも。ご飯は七時一〇分くらいだし。家を出るまでテレビだって見てるから」

 慌てたように手を振る水鏡。一人暮らしをしている夏弥としては、自分より早く朝起きている人がいることはどうも釈然(しゃくぜん)としない。しかし、これ以上早く起きるのは夏弥にとって容易なことではない。他に削れる時間はないかと思案して、ぼそりと呟いた。

「うーん。もうちょっと簡単な料理にでもするかな」

 水鏡は気になったように目を輝かせる。

「雪火くんって、自炊(じすい)しているんだよね」

「うん。そう」

「偉いな」

 飾り気のない、純粋な好意だった。

 夏弥は少しだけくすぐったい気がして(かばん)を肩にかけた。

「別に偉くなんてないよ。一人暮らししてたら、料理作ってくれるのは自分しかいないし」

 水鏡は首を振る。

「一人で生活しているだけでもすごいよ。あたしなんか、まだ親のお世話になっているから」

 水鏡は照れたように苦笑する。

「あたしも、時々は料理するんだけど。まだ簡単なものしか作れないよ」

「あ。最近お弁当だけど、それ手作り?」

 水鏡とは席が近かったときから一緒に昼食をとっている。昼の時間は、男子は男子、女子は女子というグループで食べる生徒が多いが、夏弥と水鏡はわりと自然に一緒に食べている。

 水鏡は頷いた。

「うん。雪火くんのお弁当を見よう見まねで、頑張ってるんだ」

 半分はお母さんが作ってくれたんだけど、と水鏡は恥ずかしそうに笑った。

 二人が話しながら歩いていると、後ろから大声が上がった。

「カヤーっ!」

 自分の名前を呼ばれて、夏弥は振り返った瞬間に、視界が揺らいだ。

 背後から強烈な衝撃を受けて、夏弥はそのまま地面に倒れた。夏弥は顔をしかめて地面にうずくまる。

 水鏡は呆然として倒れた夏弥を見て、それからさっきまで夏弥が立っていた場所に堂々と現れた人物へと目を向けた。

 教科書とか、そういう学校に必要なものが一切入っていない平らな鞄をリュックよろしく両腕に通して背負っている、なんとも奇妙な男がそこにいた。髪はショートで、針金のような髪は真っ直ぐ空に向かっている。左右の耳に二つずつピアスがついていて、校則違反なのだがこの男は気にしない。

 男は清々(すがすが)しいほど(さわ)やかに、横で固まっている水鏡に挨拶をした。

「よう、水鏡。おはよう」

「お、おはよう……」

 水鏡は困ったように、それでもこの男に挨拶を返した。

 夏弥は背中をさすりながら、自分を()り飛ばした男に向かって鋭い視線を送る。

「って、いってーな。なにしやがるんだ、幹也(みきや)

 いきなり夏弥を蹴り飛ばした張本人、麻住(あさずみ)幹也は今気がついたように夏弥を見下ろした。

「おう、夏弥。いたのか」

 まるで悪びれたところのない幹也の態度に、夏弥は湧き上がる怒りを抑えながら立ち上がった。ブレザーは土埃(つちぼこり)で汚れて、見えないがおそらく背中には幹也の靴の跡がしっかりと残っている。

「思いっきり人の名前呼んでおいてなにを言うんだ。おまえは」

 夏弥の当然の文句を、幹也はさらりと受け流す。

「いやー、急いでたもんだから全然気付かなかったな。あれだ、水鏡が見えたからつい条件反射ってやつだよ。条件反射」

 幹也は(なぐ)りたくなるほど爽やかな笑顔で言い切った。いや、実際夏弥はこの無礼な男を殴りたくて仕方がない。

 そんな二人を眺めながら、水鏡は苦笑する。

「朝から元気だね。麻住くん」

「おうよ」

 威張(いば)るように胸を張る幹也。

 夏弥はまだ治まらない胸の(くすぶ)りをぶつけたくて仕方なかったが、夏弥の開きかけた口を幹也が(さえぎ)った。

「さ、お二人さん。あんまりのんびりしてると、校門閉められるぞ」

 夏弥のクラスのホームルームは八時五〇分に始まるが、学校の規則としては四五分までに着席していなければならなくて、四〇分には生徒指導が校門を閉める。今のやりとりで大分時間を使ってしまったのか、水鏡は自分の時計を見て驚いたよう目を丸くする。

「あ、本当だ」

「っていうわけだから、俺は急ぐぜ」

 最後まで爽やかなセリフを残して、幹也は颯爽(さっそう)と駆けていった。

 麻住幹也は夏弥と水鏡と同じクラスで、席替えをした今でも夏弥の近くの席にいる生徒だ。加えて、幹也は陸上部なので、彼に走られたら二人には追いつくことも止めることもできない。

「ば、待てこのヤロー」

「あ、二人とも待って」

 夏弥が走りだして、水鏡も慌てて二人の後を追う。どんどんと小さくなっていく、学校指定鞄を背負った幹也の後ろ姿を見失わないように――。

 こんなにも穏やかで、それでいて騒々しい、これが雪火夏弥のいつもの朝の始まりだった。


 走ったおかげで三人は校門の閉まる時間にぎりぎり間に合った。夏弥と水鏡は校舎に入る手前で息を上げていたが、幹也はウォーミングアップでもしたように元気なものだった。

 自分を蹴り飛ばして、なおかつ二人を走らせた元凶(げんきょう)でもある幹也に文句の一言も言ってやりたかったが、さすがに息が上がっていたのでやめにした。夏弥は水鏡を気遣(きづか)いながら教室へと向かった。

 ホームルームも終わって、一時間目は走ったために体中が熱くて、二時間目は疲労から眠気が襲ってきて、我慢するのに必死だった。

 一方で、幹也は夏弥の目の前で二時間目、三時間目を眠って過ごして、四時間目は一応起きていたがマンガを読んで過ごすという不健全極まりない時間を過ごしていた。

 そんな時間も終わって、今は昼食の時間。

 授業が終わると同時に、幹也は(すさ)まじい速さで教室を飛び出して、五分後にはビニール袋を片手に夏弥の前に戻ってきた。

「よう、夏弥。飯にすんぞ」

「へいへい」

 夏弥は自分の鞄から弁当の入った包みを取り出した。目の前の幹也は自分の机を後ろに向けて夏弥の席とくっつける。手に持っていたビニール袋を置くと、中からカツサンドとトマトサンド、焼きそばパンにイチゴオーレを取り出した。

 さっき購買部で買ってきたのだろう。普通に購買部を往復するだけなら五分で事足りるが、今は昼食の時間だ。昼飯を買うために生徒たちが集まって、下手をすれば二〇分もかかってしまう。廊下を走ってはいけないのだが、この不良陸上部員にはそんなもの関係ない。美味しそうに焼きそばパンに食らいつく幹也を眺めながら、夏弥は溜息を()いた。

「はぁー」

「なんだ夏弥。溜息なんて吐いて。なんか悩みか」

「ああ。なんでまたおまえが近くの席なのかと思ってな」

 中間試験が終わって、夏弥のクラスでは席替えを行った。今まで近くにいた水鏡は教室の扉側で、夏弥は窓側の一番後ろ、夏弥の前には幹也が座っている。

 幹也は夏弥の問いに気取ったように答えた。

「それはな、『運命』と書いて『さだめ』と読ませるあれだよ。俺たちは出会った瞬間から戦いを()いられたライバルなのさ」

「そんな運命(さだめ)、あってたまるか」

 夏弥がちょうど弁当箱を開けた頃に、向こうから水鏡がやって来た。

「二人ともお待たせ」

 水鏡は近くの席に座って、夏弥と幹也の机の間に弁当箱の包みを置いた。水鏡の弁当の中身を幹也は興味津々に凝視(ぎょうし)する。

「ほう。水鏡の弁当、今日も美味そうだな」

 水鏡は照れたように笑った。

「ありがとう。でも雪火くんのほうが美味しそうだよ」

 夏弥も水鏡の弁当を(のぞ)いた。

 夏弥のものより一回り小さいお弁当箱には、ちゃんと栄養のバランスを考えたものが入っている。ご飯とおかず、野菜の配分は一人暮らしをしている夏弥の目にも理想的に見えた。

 幹也は焼きそばパンを飲み込んでトマトサンドを開きながら首を振る。

「わかってないな、水鏡は。男子にとっちゃ、女子の作った弁当だってことに意味があるんだよ」

 そんな恥ずかしいセリフをしれっと言ってのける幹也。水鏡は照れたように俯いてしまった。見ているだけの夏弥も妙に居心地が悪い。

 水鏡は恥ずかしそうに目を泳がせる。

「あ、うん。でも、あたしはお弁当箱に詰めただけだし。自分で作ったのはこのベーコン巻きだけだよ」

 水鏡の弁当箱の中を見ると、確かにベーコンが巻かれたアスパラが入っている。卵焼きとミニトマトの間にちょこんと座っていた。

「え、マジで。それもらっていい?」

 なんの躊躇(ためら)いもなく言ってのける幹也。

 水鏡は驚いたように目を白黒させる。

 ――夏弥は我慢できなくて、幹也を殴った。

 鈍い音が幹也の頭の中を震わせる。

 頭をさすりながら幹也は夏弥を睨む。

(いて)っ。なにすんだ夏弥」

「そりゃこっちのセリフだ。あんまり調子に乗るな」

 女子相手に、君の手作り弁当食べていい、なんて軽口を叩くことは、夏弥の常識が許さなかった。

 さすがに反論のできない幹也は、それでも未練があるのかチラチラと水鏡の弁当を見ている。困った水鏡は咄嗟(とっさ)に答えた。

「あ、大丈夫だよ。食べたかったら食べてもいいよ」

 水鏡の言葉を聞いた瞬間、幹也は()えた獣のように目を輝かせる。

「うほ。マジで。じゃあいただくー」

 (はし)なんて持っていない幹也は、なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく手掴みで水鏡の弁当からアスパラのベーコン巻きをかっさらった。

「…………」

 夏弥はもう何も言えなかった。

 こんなやつと関わってしまった運命とやらを呪いさえした。

 硬直してしまった夏弥に、水鏡は笑顔で弁当箱を差し出した。

「雪火くんもどう?」

 夏弥は折角の水鏡の好意を断るわけにもいかなくて、美味しそうにアスパラのベーコン巻きを食べる幹也を一瞥(いちべつ)してから、箸を伸ばす。

「ああ、いただきます」

 夏弥も幹也と同じように味見をする。

 二人の食べる様子を交互に見ながら、水鏡は不安と期待の目で訊ねた。

「どうかな?」

 即答したのは幹也だった。

「うん。美味しい。マジ、美味しい。やっぱ水鏡の作るもんは格別だわ」

 水鏡は嬉しそうに笑った。

「雪火くんは?」

 夏弥は少しおいてから答えた。

「ちょっと塩がききすぎてるかな。火加減がいまいち。ベーコンが焼きすぎ。あと、胡椒(こしょう)をもう少し()すといいかも」

 夏弥の真面目な返答に、幹也が不満そうに口を(とが)らせる。

「おいおい、夏弥。折角の水鏡の料理にケチつけるなよ」

「ううん。いいんだよ。参考になったから」

 水鏡は笑って二人を(なだ)める。

 それから三人は食事をしながら雑談(ざつだん)をしていたが、水鏡が思い出したように口を開いた。

「そういえばさ、またあったんだって。神隠し」

 夏弥はピクリと箸を止める。水鏡の声の雰囲気からそれを感じ取ったのだ。

「それって、例の?」

「わからないけど。でも、また衣服だけ残されていたみたい」

 水鏡はそれ以上語らない。夏弥もどう答えたらいいかわからず黙ってしまう。

「なになに?何の話?」

 深刻な空気の中で一人意味のわかっていない幹也がとぼけたような声を上げる。幹也はイチゴオーレのストローをくわえたまま二人の顔を(うかが)う。

 夏弥は(あき)れたように幹也に答える。

「おまえ、ニュースぐらい見ろよ。また夜に人が消えたって話だよ」

 今、ここ白見(しらみ)町では奇妙な事件が起こっている。

 夜、人が消えるのだ。ほとんどが人目につかない路地裏に衣服やカバンなんかが残されているだけで、人だけが忽然(こつぜん)と姿を消す。

 初めの頃は鞄や財布など、身につけていたものだけが落ちていたので、ただの誘拐犯の仕業(しわざ)とされていたが、さすがに服まで落ちていたら、それは異常と言わざるをえない。

 メディア等では事件当初から様々な報道がなされていて、犯行の意味や犯人の目的など憶測(おくそく)が絶えない。

 幹也はずずずと音をたてながら、思い出したように頷いた。

「ああ、あれか。またあったのか?」

「そうらしいよ。新聞には調査中ってあったけど」

「物騒な世の中だよな。そんな事件がすぐそばにあるんだから」

 夏弥の言葉に、水鏡は頷いた。

「そうだね。夜なんて怖くて出歩けないもの」

 夏弥はちらりと水鏡を覗き見た。俯いた水鏡の手はわずかに震えている。本当に怖いんだろうなと夏弥は思った。

 重たい空気を一蹴(いっしゅう)するように、幹也は気楽な声で言った。

「なーに。まだ死人は出てないんだろ。そのうち警察がなんとかしてくれるさ」

 幹也は空になった紙パックをビニール袋に放り込んで、最後のカツサンドを食べ始めた。水鏡は笑って答えて、けれどその表情にはまだ不安の色が残っている。夏弥には幹也のような楽観的なことも言えず、だからといって水鏡の不安を(ぬぐ)うだけの気の()いたセリフも言えないので、仕方なく食事を続けることにした。


 放課後になると、生徒たちのほとんどはすぐに学校を出て行った。部活で残るものも少なく、人数が少なくては部活動もできなくてすぐに打ち切られる。

 一人きりの教室で、夏弥はただ窓の外を眺めていた。美術室は夏弥のクラスよりも遥かに高い五階にあって、ここからは校庭を通り越して町の景色がよく見える。

 夕暮れ時。

 少しずつ空が(あかね)色を()びていく。

 空に落とした(あか)いインクがゆっくりと広がっていくように、空は光り始める。

 日中は直視することさえできない太陽が、夕方になると地面に沈んでいって、輪郭(りんかく)がオレンジ色に染まって、その形がはっきりとしてくる。

 全てのものに決まった形などない。時間の流れの中で全ては移ろい、変わっていく。その変化が夏弥は好きだったし、同時に怖くも思う。

 夏弥は持っていた筆を置いた。目の前には窓の外の夕焼けと、自然を切り取ったキャンバスがあるだけだ。キャンバスには所々空白があって、まだ完成には到達していない。赤と(だいだい)を基調とした、町の風景。

 夏弥は夕焼けを眺めながら、しかし思いは別のところにあった。

「なんで、あんなことをするんだろう」

 昼休み、水鏡が話していた神隠しの事件。そのことが、まだ夏弥の頭の中に残っている。

 夏弥は思った。

 理不尽に人を傷つけるのは悪いことだ、と。

 子どもの頃から思っていた。

 新聞を見れば毎日のように強盗事件や殺人事件が()っている。週刊誌を読めば嬉々(きき)として事件やスキャンダルが取り上げられている。

 ――どうして。

 こんなにも世界は理不尽なのか――。

 理由もなく、人を傷つける。

 犯人からすれば理由があるのかもしれないけれど、やられる側にはその理由がわからない。なぜ自分が、どうして自分が。こんなにも、世界は死に溢れているっていうのに。それは、とても悲しいことなのに。

 死を楽しむなんて、できない。

 理不尽に命を脅かすことなんて、誰にもできやしないんだ。

 ――それは、父親の遺言(ことば)でもある。

 決心を曲げてはいけない――。

「信念は曲げない」

 自分は、正義のヒーローなんかじゃない。

 けれど、自分が正しいと思ったことを譲るつもりはない。

 悪いことは悪いと思う。それすら失ってしまったら、自分が――。

 ガラガラっと、背後で扉が開く音がした。

 驚いて、夏弥は振り返る。

 女が一人、廊下に立っていた。女子生徒が着るブレザーではなく、(こん)のスーツだった。女の子というよりは、まさしく女性という単語がぴったりくるような整ったスーツ姿で、威厳(いげん)すら感じる。背はきっと夏弥よりも高い。すらっとしているというよりも、がっしりしているといったほうがしっくりくる。肉付きがいいといったら大概の女性は怒るだろうが、この人に限ってはぽっちゃりではなく、本当にがっしりしていて、男である夏弥から見ても見惚(みほ)れてしまう。幹也あたりが見たら、スポーツマンらしいと(うらや)ましがるだろう。

 伸ばした髪を無駄なく()わえているあたり、学校の先生というよりどこかの会社のキャリアウーマンみたいだ。

「こらーっ!もう下校時間だぞ。……って、夏弥か」

 ずかずかと美術室に入ってきた女教師は、夏弥の姿を認めて引き締めていた表情を途端に緩めた。

 彼女は風上美琴(かざがみみこと)。夏弥の担任で英語教師。年は――本人(いわ)く――ぴちぴちの二〇代で、実際の年齢は、(おおやけ)には秘密。ただし、夏弥は彼女のことについてはこの学校のどの生徒たちよりも知っているつもりだ。

「美琴さん。教師お疲れ様です」

「こら。今は風上先生でしょ」

 美琴は夏弥のそばまで来ると注意するように指を突き出す。

 彼女、風上美琴は夏弥の父、雪火玄果(げんか)の教え子だ。夏弥の父を大分尊敬しているらしく、教職に就いてからもよく雪火家に遊びに来た。父親が死んでからは、今までの恩を感じているらしく、夏弥の面倒を見に来てくれている。

 夏弥からすると、風上美琴はお姉さんのような存在だ。母親のように面倒見がよくて、小言も言うけれど、おっちょこちょいなところもあって、なにより親みたいな距離を感じさせない。自分の身近な人で、一緒にいられて気持がいい。風上先生は、夏弥にとって美琴お姉さんでもある。

 美琴は夏弥の前に置かれたキャンバスを興味ありげに覗き込んだ。

「綺麗ね。何の絵?」

美術室(ここ)から見える町の風景。夕方にしちゃったんで、この時間にしか()けないんだ」

「ふーん」

 相槌(あいづち)を打ちながら、それでも美琴の目は夏弥の絵画に釘付けだ。

 今はようやく夕方になったばかりで、この絵画の赤の濃さにはまだ到達していない。夏弥はちょうどいい時間帯になるまで、他の部員たちが帰ってしまった中、じっと待っているつもりだった。

「って、納得してる場合じゃないわ。もう下校時間よ。すぐに帰りなさい」

「でも先生。生徒手帳ではまだ下校時間になっていません」

 そんな子どもだましの言い訳で、この女教師が納得するわけがなかった。

「そんな言い訳が通用すると思ってるの。ちゃんとホームルームでも連絡したでしょ。今は色々と物騒だから、暗くなる前に下校しなさいって」

 そう。

 今、白見町で起きている事件。

 被害はどれも夜に起きている。学校側としても遅くまで生徒たちを残らせるわけにはいかないのだ。

 夏弥も、それを承知しているはずだ。

「でもこの絵を描くためには、どうしてもこの時間じゃないとだめなんだ。このままじゃ、いつまで()っても完成しない。学祭に間に合わせたいんだ」

 学祭に間に合わせたい、というのは正直、夏弥にとって重要ではない。ただ、こう言っておいたほうが説得力があるからだ。

 美琴は考えるように人差し指を(あご)()える。

「そっかぁ。美術部って、学祭で出展の枠があるんだっけ」

 なんとも中途半端な反応に夏弥は少しだけ呆れた。

「美琴さん。俺よりこの高校に長くいるのに、なんでそんな他人事なの」

「だって、学祭のときは毎年模擬店回ってるだけだから、校舎の中で何やってるかなんて知らないわよ」

 夏弥は想像してしまった。

 生徒たちが出している露店に、生徒たちと混じって食べ歩いている美琴の姿が思い浮かんだ。片手に食べ物の袋を抱えて、さらに美味しそうなものを見つけて惜しげもなくそれを買っていく、美琴の姿だ。

「なるほど」

 思わず納得してしまった。

 美琴はむっとして夏弥を睨む。

「ちょっと。なに納得してるのよ。言っとくけどね、食べ物の店ばっかり回ってるわけじゃないわよ。ちゃんと射的とかヨーヨー(すく)いとかも行ってるんだから」

 つまり、ちゃんと食べ物屋にも行っているわけだ。夏弥は美琴の言葉を軽い気持ちで流した。

 機嫌を直したのか、美琴は改めて実感したように呟く。

「でも。そっか。夏弥も今年から学祭に参加するんだ」

「それはそうでしょ。俺だってここの生徒なんだから」

「それはそうだけど。なんて言うのかな。巡り合わせって感じがするのよ」

 夏弥には美琴の言っている意味がわからなかった。

 夏弥が黙っていると、美琴はさらに言葉を続ける。

「ああ、でも。教師として一人の生徒だけを優遇(ゆうぐう)するわけにはいかないの。あたしが出て行ったら、ちゃんと帰るのよ。もうあたし以外にこの棟を見回る先生はいないんだから。七時には鍵をかけるわよ」

 そう、悪い生徒を注意する教師の口調で美琴は言った。

 それはつまり、鍵をかけるまではここにいてもいいってことですね。

「ありがとう。美琴姉さん」

「可愛い弟のためだもんね。……って、だから風上先生!」

 そんな注意を残して、美琴は美術室を出て行った。

「じゃ、遅くならないうちに帰るのよー」

「はーい」

 一人残って、夏弥は窓から外の景色を眺めた。美琴と話している間に時間が経ったおかげで、そろそろ描きだせる頃合いだ。

「そんじゃ、もう少し残らせてもらいましょうか」

 目に焼き付けるように、外の風景をよくよく観察する夏弥。

「ん?」

 不意に校庭を見下ろした夏弥の目に、一人の生徒の姿が目に入った。

「誰だろう。こんな時間まで」

 女子生徒だった。髪はポニーテールで、リボンの色からして夏弥と同じ一年生のようだが、夏弥には見覚えがない。

 夏弥みたいな例外を除いて、大体の生徒は下校時間になる前にさっさと帰ってしまうというのに。こんな時間まで女子生徒が学校をうろついているなんて、珍しい。

 夏弥が見ている間に、女子生徒は校舎の影に入ってその姿を消してしまった。落ちていく夕焼けと、迫りくる闇が町全体を包み始める。


「すっかり遅くなっちゃったな」

 高校を出るときにはもう暗くなっていた。

 美琴の好意に甘えて夕焼けが描けるギリギリまで粘って、その後で片付けをしていたら、結局七時をすぎてしまった。

「早く帰ろう」

 夜の時間が始まったばかりで、ほんの一ヶ月前までは人の姿だって見かけたはずだ。けれど、今では暗くなって人の姿を見かけることもない。電柱の蛍光灯や自販機の明かりが舗装(ほそう)された道を薄く照らす。夏弥の自宅へと通じる道は元々明かりが少なく、民家も離れている。六月のこの時間ではまだ明るいが、七時になればほとんど闇だ。話し相手もなく、夏弥は少しだけ早足で家路を歩く。

 家の前に来て、夏弥は向かいの酒屋を見た。普通ならまだ店を閉めるには早いが、ここのところ気味の悪い事件が続いているせいで客足が悪いのだろう、個人経営なのでもう店の明かりは落ちている。

 こんなときは外に出歩いていないで家の中にこもっていたほうが吉だ。家に辿(たど)り着いた安心感からか、急にお腹が減ってきて夏弥は台所へと向かった。

 そして、気付いた。

「うわっ。やべ」

 冷蔵庫を開けた夏弥は、そのまま固まった。

「買い物行くの忘れた」

 朝の時点で食材は底を尽き、今日は学校の帰りにスーパーに寄っていくつもりだった。急いで学校を飛び出してきたので、すっかり忘れていた。

「どうすっかなぁ……」

 サラダはあるが、ご飯に合わせるおかずがない。カップヌードルみたいなインスタント食品は体に悪いという美琴の言葉に従って、家にはカップ麺もない。さすがにサラダだけで今夜と明日の朝と昼を乗り切るのは、高校一年生の夏弥にはきつかった。

「仕方ない」

 着替えも後回しにして、夏弥は鞄だけ二階の自室に置くと、買い物用のバッグだけ持ってスーパーへと向かった。

 もっと近くにコンビニエンスストアもあるが、買い物癖が身に付いている夏弥は滅多に利用しない。スーパーは学校のさらに奥にあるので、学校を出るときに思い出していればこんな手間はかからなかったのだが、ここは自分の記憶力のなさを恨むしかない。

「よりによって、こんなときに」

 愚痴(ぐち)(こぼ)してみたが、大概悪いことは重なって起こるものだ。もうこうなったら諦めるしかない。

 すっかり日が落ちて、辺りはほとんど闇だった。民家が少なく、街灯もあまりない、普段も人通りが少ないが、最近は全くと言っていいほど人気がない。

「…………」

 音はない。

 ただ風が静かに肌をくすぐるだけ。

 ――誰かに襲われても、誰も助けてはくれない。

 夏弥は持っていた買い物袋を一回しして笑った。

「まさか」

 自分は男だ。そう簡単に襲われたりしないだろう。もしも襲われたら、逆に殴り返して返り討ちにしてやる。

「さ。さっさとすませるか」

 夏弥は橋を渡って、高校の前を通り過ぎる。

 このまままっすぐ行けば表通りに出るが、それではスーパーまで遠回りをしてしまうので、夏弥はいつものように高校のすぐ隣にある細い道を選んだ。

 車がギリギリすれ違えるかどうかの細い道で、街灯は数えるていどしかない。民家と空き地が交互に並んで、民家も高い塀に囲まれて暗い。どの家も他人のことなど無関心のように、そっぽを向いている。

 スーパーまで、あと一〇分。

 そこまでの時間が一時間にも延びたような気がする。

 自分の息遣いまで()き取れる、静寂(せいじゃく)

 まだ夏にはほど遠いはずなのに、この暖かさが妙にうっとうしい。

「え、えーと。今日の買い物は」

 気を紛らわせるために、夏弥は買い物の内容を口にする。

「牛乳と人参(にんじん)とピーマン。味噌汁用のしいたけと、えのきも買っておきたいな。最近高くなってきたけど、今日あたり安くなってくれないかな。ああ、あと、魚介類で安いのあったら、それも買っておこう」

 いろいろと考えているうちに、少しは気分も紛れてきた。

 道が二つにわかれている。

 このまままっすぐ行けばスーパーのある大通りに出る。道を()れて細いほうに行けば、民家が密集した入り組んだ道で、その手前には公園が見える。

 なにも迷うことはない。

 このまままっすぐ行って、買い物をすませて、さっさと帰って夕飯にしよう。もう七時半くらいになる。いい加減お腹も空いてきた。

 ――公園のほうから物音がした。

 夏弥の背筋を嫌なものが走る。

 咄嗟に立ち止まってしまう。

「…………」

 足が、動かない。

 金縛りにあったみたい。

 手が、震えてる。

 体中に鳥肌が立つ。

「…………」

 神経が張る。

 暗闇の中で、嫌でも耳に意識がいく。

 ――また、音。

「……!」

 体が跳ね上がるかと思った。

 上げそうになる声を、必死で飲み込む。

 ――ここで声を上げたら。

 命はない――。

「……」

 自分の、雪火夏弥としての直感が告げる。

 逃げろ、と。

 あれは、まずい。

 ――なのに。

 体中が恐怖に塗り潰されていくのに、頭の部分は殴りたいほど冷静だった。

 確かめる必要がある――。

 もしもそこにいるのが犯人なら、この理不尽な事件に終止符が打てる。

 もしも何もなかったら、自分の命は助かる。

 体は逃げ出したくて仕方がないのに、頭は夏弥に動けと命じる。夏弥の足は、その危険な()けに乗った。

「…………」

 息を殺す。

 公園の周りには夏弥の頭くらいまで植え込みがあって、中からは外の様子が見えない。下手に音を出さなければ、こちらのことがバレることはない。

 植え込みの隙間から中の様子を窺う。公園自体はそれほど広くなく、遊具もブランコとすべり台くらいしかない。

 人の姿はない。だが、これで安心はできない。この公園は道祖神(どうそじん)(まつ)られていて、その裏側に小さな空間がある。人一人が隠れるには十分なスペースだ。

「…………」

 公園の外周を周って、夏弥は道祖神の裏を通り抜ける。辺りに街灯はなく、植え込みの隙間から覗いた先はほとんど闇だった。

 ――そこに人の気配があった。

 暗すぎて、性別も体格もはっきりとしない。しかし、そこに不自然な影があることだけはわかる。それはぶつぶつと独り言を言っているようだが、小さすぎて何を言っているのかまではわからない。

 夏弥は、じっとその光景を凝視する。

 夏弥の理性が告げる。

 もう十分だ。誰かがいることはわかった。きっとあれが神隠しの犯人だ。あとは気付かれないようにここから立ち去って、警察に通報するだけだ。

 そう、冷静に判断できる。

 しかし――。

 今度は、夏弥の本能が体を縛り付ける。

 ――ここにいろ、と。

 あれを、逃がしてはいけない。

 ここで逃がしたら、大変なことになる。

 なんとかして、あれを止めないと。

 ――でもどうやって?

 わからない。

 そんなことよりも、早く逃げないと。

 ここに残っていたら見つかる。

「……」

 夏弥の理性と直感が互いに拮抗(きっこう)する。

 夏弥は自分の体がいうことを利かなくて、そのまま硬直しているしかなかった。

「……」

 人影がなにかを言っている。

 夏弥はよくよく耳をすませる。

「やった。ようやく解けた」

 言っている意味が、わからない。

 ただ、それがよくないことだけはわかった。

 ――逃げないと。

 瞬間。

 人影の奥に、さらに深い闇が見えた。

 なにもない。そこだけ穴が開いたような深淵(しんえん)

 奈落(ならく)の底に、夏弥は気配を感じた。

 ――奈落の底で、真紅の瞳がじっとこちらを見つめている。

「……!」

 夏弥は咄嗟に後退った。

 声は上げなかった。

 踏み止まった足も、音を立てない。

 ――ただ。

 振り回した買い物袋が植え込みを引っかいた。


 枝が音を立てる。

 この葉が舞った。

「!」

 影がこちらを見た。

「誰だ!」

「っ!」

 夏弥は走った。

 全速力。

 無我夢中。

 わけがわからない。

 とにかく走る。

 走って。

 走って。

 ただ、走る。

 自分はどこを走っている。

 どこへ向かっている。

 わからない。

 ただ、そこから離れたい。

 あいつから離れたい。

 捕まったら。

 ――殺される!

 自分でも驚くくらい、全力で走った。

 普段激しい運動などしない自分に、よくここまでの体力があったものだ。火事場の馬鹿力というやつだろうか。

「はぁはぁ……」

 ここまでくれば大丈夫だろうか。

 夏弥は立ち止った。

「はぁはぁ……」

 息が荒い。

 呼吸が苦しい。

 走ることがこんなに苦しいなんて。朝だって、幹也のせいで毎朝走らされているけど、それ以上に胸が締め付けられる。まるで後ろからナイフを突き立てられているように――。

「はぁはぁ……」

 夏弥は息を荒げたまま辺りを見回した。

 橋の上まで来たようだ。川の周りは遮るものがなくて、視界が開ける。街灯は少ないが、川の上を月の光が流れていく。

 夏弥は橋の上で息を整える。

「って、なにやってんだ俺。こんな見通しのいいところじゃ見つかるに決まってるだろ」

 振り返る。街灯が道の上を(ほの)かに照らす。光の中を、漆黒の影が(かす)めていく。

「っ!やべ」

 夏弥は慌てて橋を渡りきって、道を逸れる。

 咄嗟にいつもの帰り道に入ってしまったが、その失態にあとで気がついた。

「なにやってんだよ。この先は完全に裏道じゃねーか。なんで大通りに」

 行かないのか、と言っている余裕もない。

 振り返れば、影は橋を渡ろうとしていた。

「とにかく、どっかに隠れないと」

 夏弥は道を逸れた。

 そこには町の集会場がある。広さは学校の教室くらいで、夏弥自身ここに入ったことはない。とりあえず隠れるために、裏へ回る。

 奥は夏弥の背丈くらいの木々が()(しげ)っていて、小学校くらいの子どもがギリギリ入れるくらいだ。そんな狭い空間に、夏弥は無理矢理体をねじ込んだ。

「はぁはぁ……」

 夏弥は木の陰に体を隠す。

 ――今は、あいつをやりすごすしかない。

 体をじっとさせて、声も抑える。

「…………」

 静かだった。

 虫の音も、鳥の声も聞こえない。

 ただ、自分の鼓動の音だけ――。

 ――ドクン、ドクン。

 息を最低限に抑えて、音を立てないようにする。

 ――ドクン、ドクン。

 息苦しくて、鼓動がますます耳につく。

 ――ドクン、ドクン。

 足音は聞こえない。

 ――ドクン、ドクン。

 ここからだと、隙間から向こうの様子が見える。

 ――ドクン、ドクン。

 あいつは、来てない。

 ――ドクン、ドクン。

 行ってくれたか。

 ――ドクン、ドクン。

 だがまだ安心はできない。

 ――ドクン、ドクン。

 もう少しだけ待たないと。

 ――ドクン、ドクン。

 胸が、痛い。

 ――ドクン、ドクン。

 息が、苦しい。

 ――ドクン、ドクン。

 静寂。

 ――ドクン、ドクン。

 もう少しだけ、酸素を取り込まないと。

 ――ドクン、ドクン。

 呼吸を落ち着かせよう。

 ――ドクン、ドクン。

 胸が痛くて。

 ――ドクン、ドクン。

 もう、大丈夫か。

 ――ドクン、ドクン。

 少しだけ、様子を見る。

 ――ドクン、ドクン。

 誰も来ない。

 ――ドクン、ドクン。

 行ったみたいだ。

 ――ドクン、ドクン。

 夏弥は安堵の息を漏らす。

「はぁ……」

「――それで隠れたつもりか?」

 ――ドクン!

 心臓が高鳴った。

 背中を突き刺されたような感覚。

 首を絞められたような錯覚。

 夏弥は振り返った。

 ガサガサと、枝が揺れる。

 男が、見下ろしていた。

「…………」

 まるで、一つの絵画のよう。

 狭い空間を、影が覆う。

 空には、月。

 男は右手を振り下ろす。

 ――ナイフが心臓に刺さる。

 衝撃が、夏弥の胸を締め付ける。

「……っ!」

 あっさりと、夏弥の体はその場に倒れた。

 男は静かに、まるで観察するように夏弥を見下ろす。

「死んだか」

 一言残して、男は夏弥の視界から消えた。

「面倒なことになった」

 遠くで、小さく男がぼやいている。

 ああ、なんて無様――。

 男の足音が消えた。

 もうどこかへ行ってしまったらしい。

 ――それはこっちのセリフだ。

「――――っ!」

 夏弥は大きく息を吸った。

「はぁはぁ……」

 体を起して、胸の辺りを確認する。

 硬い感触が、確かに胸に刺さっている。

 ――あいつ。本気で殺す気かよ。

 黒いそれを、夏弥は無理矢理引き抜いた。

 嫌気がさして、そのまま投げ捨ててしまった。

「はぁはぁ……」

 呼吸を整えながら、がさがさと夏弥はブレザーの内ポケットから一つのお守りを取り出した。なにも書かれていない、袋だけの簡素なお守り。

 ――親父のお守りのおかげで、助かったのか。

 穴の開いたお守りを、夏弥は大事そうに見つめた。

「…………お守りって、本当に役に立つんだな」

 夏弥はお守りをズボンのポケットにしまうと、聴覚に神経を集中させる。

「もう、行ったか……」

 のろのろと()い上がって、男が消えたほうへと向かった。どうやら男は夏弥とは逆の道から入って来たらしい。どうりで、夏弥が見張っていたほうには気配がなかったわけだ。

 隙間から辺りを見る。人の気配はない。

 安心して、夏弥は道の上に出た。

 ――それがまずかった。

 建物の陰に隠れて、男がまだいることに気付かなかった。

 男が夏弥の姿に気付いた。

「なんで、おまえ……!」

「っ!」

 走った。

 夏弥はさらに人通りの少ない道へと走っていく。

 もうここまで来たら仕方がない。

 あの角を曲がって、そのまま一直線に走るしかない。

 この辺りは年寄りしかいないから、叫んだって誰も助けてはくれない。

「待て!」

 後ろから男の声が聞こえる。

 待ってやるわけにはいかない。

「はぁはぁ……」

 胸が苦しい。

 さっき刺されたせいか。

 息が上がって、もう走りたくない。

 でも、夏弥には走る以外になにも思いつかない。

 ――ここを曲がれば。

 ミラーが見える。

 あそこを曲がれば、家までまっすぐ。

 ――夏弥の頭上を、黒い影が飛ぶ。

 轟音(ごうおん)が鳴り響き、目の前のマンションが倒壊(とうかい)する。

「っ!」

 夏弥は急ブレーキをかける。

 あまりにも、現実味を欠いた光景だった。

 このマンションはもう人が住んでいないらしく、老朽化が進んでいたのですぐにも取り壊す予定だった。だからといって、それが目の前であっさりと崩壊(ほうかい)して、夏弥の帰り道を(ふさ)いでいる。この瓦礫(がれき)の山を乗り越えていくのは、さすがに無理だ。

「嘘だろ……」

 呆然として立ち止まる夏弥。

 帰り道は塞がれた。

 逃げる(すべ)は、ない。

「!」

 振り返った夏弥に、男は悠然として告げる。

「さあ、もう鬼ごっこはなしだ」

 男は右手を上げて、その上には黒い塊がゆらゆらと燻っている。

 ――魔法みたいだ、と夏弥は思った。

 こんなタイミングでマンションが崩れるなんて、悪い夢でも見ているようだ。

「…………」

「…………」

 じっと睨む夏弥に、男はなにも言わずに静かに見返す。

 その沈黙を最初に破ったのは、謎の男だった。

「おまえ、何者だ?」

 夏弥は奥歯を()んだ。

 ――それはこっちのセリフだ。

 夏弥が黙っているのをいいことに、男は聞きもしないことを勝手に喋る。

「俺は、心臓を止めたつもりだったんだが」

 ずきんと、夏弥の胸が痛む。

 ブレザーは裂けて、シャツには血が(にじ)んでいる。父親のお守りがなかったら、本当に心臓が止まっていた。

「ああ、そうか――」

 男は月の光を背にしてもわかるくらい、嫌な笑みを浮かべている。

「それなら、納得できる」

 一人納得して、男は右手を下げた。

「――おまえ、魔術師(まじゅつし)だろ」

 そう、男は言った。

 ――なにをいっているのか、わからない。

 含み笑いを漏らして、男は愉快そうに笑う。

「なら、話は簡単だ」

 理解の追いつかない夏弥に、男はあっさりと宣告する。

「おまえを殺す理由ができた」

 麻痺していた夏弥の頭が、冷や水を浴びたように一瞬で()える。

「なっ……!」

 夏弥は叫ぶ。

「なんでだよ。なんでそうなる」

 叫ぶ夏弥。

 当然だ。意味がわからない。

 夏弥は遅くに学校から帰ってきて、買い物を忘れたから夜遅くにスーパーへ行くために外を出歩いていただけだ。そして、偶然通りかかった公園で不審な男の姿を覗き見ただけだ。

 ――どこに殺される理由があるって言うんだ。

 だが男は当然のように告げる。

「おまえは俺の秘密を知った。そしておまえは魔術師。殺すには十分すぎる理由だ」

 夏弥は呆然とした。

 あまりにも呆気ない、死の宣告。

 こんなにも簡単に死ぬなんて――。

「ま。敵は少ないほうがあとあと便利だしな」

 男は再び右手を上げる。

 見えないマントを(ひるがえ)すように。手品師(マジシャン)じみた、気取った動作で。

 夏弥の体の中を、熱いものが駆け巡る。

 さっきまで体を支配していた恐怖は吹き飛んで、代わりに強烈な怒りが夏弥の中を走る。こんなに簡単に死んでたまるか。こんな理不尽に命が奪われてたまるか。

 理由もなく、人が死ぬなんて許さない。

「〝(ゲート)〟……」

 男の声が遠くに聞こえる。

 夏弥の頭は白熱したフィラメントのように真っ赤だった。

 ――しかし、夏弥は。

 この怒りを男にぶつけることができるのか――。


 男が言いかけた言葉は、その場で飲み込まれた。

 ――闇夜を閃光(せんこう)が照らす。

「…………!」

 男はさっと頭上を見上げて、それを目にした。夏弥はただ、強烈な光に目を細めるのがやっとだった。

 その後の動きは、まさに早業(はやわざ)だった。

 男は冷静に後ろに跳んで、直後、男がいた場所を赤い閃光が貫いて煙を上げる。

 夏弥がようやく状況を理解したのは、目が光になれてきて、男が跳び退いて憎々しげに空を見上げているのを見たときだ。

 夏弥も男に(なら)って上を見ようとして、彼女は舞い降りた。

 長い髪が空気に揺れる。その姿は、天女の羽衣のように美しかった。清楚なスカートが風の上を踊る。スカートの下から伸びる太ももは白くてつい目がいってしまう。街灯のない道の上に、スポットライトでも浴びせられているように辺りは明るい。

 夏弥と男の間に、女が一人立っている。

 ――あの子……。

 後ろ姿しか見えなかったが、その堂々とした立ち姿に夏弥は見覚えがあった。

 ――学校に残っていた、女の子。

 夏弥よりも小さい彼女が、今は妙に大きく見える。

 背中越しでもわかる。他のものを寄せ付けない強烈な気迫。

 彼女の声が、この異常に響く。

異邦者(いほうしゃ)か」

 誰に向かって言ったのではない。ただ彼女自身に納得させるだけのセリフ。

 ――それだけで。

 空気が温度を変えるように肌を刺す――。

 男を前にしたときとはまた違う緊張感が走る。

 彼女は(りん)とした声で男に問う。

「異邦の人。何故、国の人に危害を加える?」

 突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に、目の前の男は不服そうに顔を(ゆが)める。ぎりっ、と奥歯を噛む音が聞こえてきそうだ。

血族(けつぞく)か――」

 吐き捨てるように呟く。

 それが邪魔をされた怒りによるものなのか、突然の介入者を警戒しているのか、夏弥の目にはわからない。

 女は落ち着いた声で鋭く告げる。

「――答えなさい。凡人(ただびと)に手をあげるなんて、魔術師の(つら)汚しよ」

 男の顔が途端に崩れる。

一般人(ただびと)……?」

 声を殺して男は笑う。

 夏弥が見ていなかったら大声を上げて爆笑していそうだ。男は腹を押えて体をくの字に曲げる。

 女は怪訝(けげん)に目を(くも)らせる。

「なにが可笑(おか)しい?」

「おまえの目は節穴か。血族ともあろうものが。――そいつは魔術師だ」

 女の眉がぴくりと動く。

 彼女の背中しか見えない夏弥にその女の動揺は感じ取れない。

 女は冷静な表情を張りつけて男に訊く。

「なにを根拠に?」

「そいつは俺の呪術(じゅじゅつ)を解いた」

 即答する男。

 押し黙った女。

「そして、俺の秘密を知った」

 男は続けてこう言った。

「殺すには十分すぎる理由だ」

 今まで固まっていた夏弥は、その言葉にかっとなって叫んだ。

「待てよ!そんな理由で殺されてたまるか」

 男の秘密を知られたから殺されるなんて、そんな短絡(たんらく)な理由で殺されるわけにはいかない。夏弥は魔術師だとか、そんなわけのわからないものとは全く関係がない。

 叫んだ夏弥に、背中を向けていた女が横目でじろりと夏弥を見る。まるで観察するような、あるいはうるさいと思っているのか、あまりにも冷たい目だった。

 夏弥はそれ以上なにも言えず、黙り込んでしまった。

 女はすぐに男のほうへと視線を戻す。

「それはそちら側の失策(しっさく)でしょう。魔術師同士の争いは許可しない。ただし――」

 すっと、女は右手を上げる。

 女性特有の細く華奢(きゃしゃ)な手の甲に、その清楚(せいそ)さには不相応な禍々(まがまが)しい模様が描かれていた。まるで刺青(いれずみ)のように、刻まれている。

「〝エデン〟の意思なら、止める理由はないけど」

 ぞくりと、空気が(こお)る。

 針のような口調が一変して、優しい天女のような声で女は言う。しかし彼女の微笑みに優しさはなく、その笑顔は獲物を見つけた猛獣のように背筋を凍らせる。

 男は彼女の右手の甲に刻まれた模様に目を見張る。

「〝刻印〟……!そうか、貴様も神託(しんたく)を受けたのか」

 なるほど、と一人納得して男は笑う。男もまた、実に愉快そうに笑っている。

「いいだろう。この勝負預けよう。貴様が負けたら、そいつになにをしてもいいんだな」

「かまわない」

 あっさりと答える女。

 驚いた夏弥は咄嗟に叫ぶ。

「ちょ。なに勝手な……!」

「その代わり」

 女の声が夏弥の言葉を遮る。

「場所はこちらで指定してかまわない?」

「好きにしろ」

 女は数秒ほど思案して、こう提案する。

「明日の夜の十一時。場所はそこの川原でよろしい?」

「――決まりだな」

 男は唇を釣り上げて夏弥に向かって笑った。夏弥は初めて男の姿を正確に見た。

 この辺りでは珍しく、学ランを着ている。高校生だろうか、夏弥とそう年はかわらない。頭の後ろで髪を一本にまとめている。縛った髪は背中ほどの長さ。褐色(かっしょく)の瞳がどこか好戦的だ。

「よかったな。明日まで命が延びたぞ。ガキ」

 男がすぐに二人に背を向けて去って行った。

 右手を上げて、ひらひらと二人に手を振る。そのあまりにも自然すぎる馴れ馴れしい態度は、この場においては異質でそぐわない。男の右手の甲にも、奇妙な模様があることに気付いて、夏弥は目を細める。

「じゃあな」

 それだけ残して、男はその場から消えた。

 あっけなく、釈然(しゃくぜん)としない。

 夏弥は殺されずにすんだことに安堵(あんど)するよりも、怒りの矛先がいなくなって、すっきりしない。夏弥は突然現れて、勝手に話を進めた女に(いきどお)りを感じた。

「ちょっと、なに勝手に話進めてんだよっ」

 大股で歩み寄って、手加減もなしに女の肩を掴んだ。ぐいっと引っ張ると、女は見た目通りの軽い感触で簡単に振り向いた。

 彼女の目には驚きもなく、冷静だ。その静かすぎる視線に、夏弥は(かえ)って感情が(たか)ぶって仕方がない。夏弥の周りはこんなにも異常事態だっていうのに、どうしてこの女は顔色一つ変えないのか。

 ――額に衝撃が走る。

 反動で夏弥はその場に倒れた。

(いた)……!」

 額を抑える。

 眉間より少し上、そこが妙に熱かった。

 女は右手の(こぶし)を解く。

「元気そうでよかった」

 心配するというよりは、事実を確認するだけの淡々とした口調。

「――それで」

 女は倒れた夏弥を見下ろすように覗き込む。

 街灯はないはずなのに、まだ辺りはスポットライトを当てられたように明るい。女の、女子特有の白い肌に夏弥は心臓が止まりそうになる。

「あなたはなにを見たの?」

 彼女の瞳がまっすぐ夏弥を見つめる。

「ええっと……」

 お互いの息遣いが感じられるほど、近い。肌の色どころか、彼女の柔らかそうな弾力さえ一人占めだ。淡いブルーの瞳が夏弥の姿を映し出す。まるで水面に自分が映し出されているような気がした。

 夏弥は鈍っていく頭をフル回転させて、口を開く。

「白だったんだ」

 意味がわからず、彼女は眉を寄せる。

 二秒くらい経って、彼女の目が驚いたように見開く。その清楚な白い肌が見る見るうちに赤く上気する。

 一体どれほどの高さから飛び降りたのか。彼女が夏弥の目の前に降り立ったとき、下から吹き上げる風に(あお)られて、彼女のスカートは完全にめくれていた。

 飾り気の一切ない、純真な彼女の全てを物語るかのような清楚な白。

 ――夏弥の頭は、異常な状況から現実逃避するために、ついそんなことを思い出していた。

 彼女の羞恥(しゅうち)に赤らめる表情を見て、人間らしいところもあるのかと、夏弥は自然と笑った。たるみきった、下心丸出しの笑顔だった。

 その後の結果は、自業自得と言える。

「ばか!」

 彼女の強烈なフックが夏弥の顎を激しく打つ。

 頭蓋骨が鐘のように鳴り響き、女の子に殴られたという事実を認識するよりも先に夏弥の頭は背後の石段に激突する。

 打ちどころが悪かったのか、夏弥の意識はあっさりと闇の中に落ちる。

 ――ああ、どうして。

 薄れゆく意識の中で、夏弥はぼんやりと思った。

 悪いことって、重なって起きるんだろう――。


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