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3.

3.

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 エゼルがランドルの家で酒を呑んでから、数日が経過していた。




「どうしたんだ? 今晩の食事はやけに豪勢じゃないか。肉料理なんて」


 ランドルは久々の肉料理に舌鼓を打っていた。




 夕食でのことだ。




「臨時収入があったのよ」


 彼の若くて美しい妻は金髪をふわりと掻き上げ、こともなげにさらりと言った。




 だが、ランドルにはそれがどういうことか、すぐに分かった。




「ナチスにユダヤ人を売ったのか?」


「そうよ。皆こうやって生計を立てているわ」


 妻の態度に悪びれた様子は微塵もない。それが当たり前で一般的なのだ。




 しかし、ランドルにはそれ以上の問題があった。


 「まさか」という一抹の不安が、その胸を横切る。




「どこの誰を売ったんだ?」


「そんなの、あなたには関係ないでしょう」




「大有りだ! 場合によっちゃあ、この家にはいられなくなる」


 ランドルは血相変えてテーブルを立ち、妻に責め寄った。




 もしも売ったのがエゼルならば、大変なことになる。




 いきなり顔色を変えた夫の意図が掴めず、何も知らないランドルの妻は戸惑いがちに白状した。


「な、何かと家にやってくる、ガリガリの汚らしいユダヤ人よ」


「……エゼルか」



「ユダヤ人とつき合うのはやめてって、前から言ってるでしょ。あなたがちゃんと約束してくれないからよ」




「馬鹿野郎!」


 恰幅のいいランドルが一喝すると、妻はびくりと身を縮こまらせた。




「勝手な真似しやがって。いいか、エゼルは親友だ。俺はあいつを逃がすための紹介状を書いた。あいつがナチス軍に捕まれば、俺たちの身元が割れて、ユダヤ人を手助けした罪で捕まっちまうんだぞ」




「なんですって?」


「今すぐ荷物をまとめろ。逃げるぞ」




 夫婦が慌ただしく動き出した時、玄関のドアが乱暴に蹴破られた。


 夜の風が遠慮なく吹き込んできて、ランドルたちは反射的に玄関を見やった。




 そこには、血塗られたハーケンクロイツの国章を携えた軍服の男たちが何人も立っていた。




 隠れる暇は、ない。


 妻がランドルの後ろに陣取る。




「ユダヤ人を匿っている村があるそうだな」




 ……ナチス軍。




 その銃口は全て、ランドルとその美しい妻に向けられていた。






【了】

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