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青年のため息

ーー人は、自分の中心に描くモノが

ーー自分ではなく、他の何かであった時

ーー自分の命と引き換えにしてでも

ーー「真ん中」を守って行きたいのだろう。


第1() 「少年のため息」


…毎日、毎日同じ事の繰り返し…。

生まれてきた意味は、21歳になった今でも、全然わからない。

今思えば、僕が歩いて来た道は、誰もが歩いて来られる様な道で、誰もが歩きたいとは思わない様な道。

高校生の頃、母親に「僕はずっとこのまま、普通の道を歩いていくのかな?」と不満気に話した事がある。

母は微笑みながら「普通が一番よ?」と言ってくれた。


普通が一番…か。確かにその通りなのかもしれない。

でも、本当にその通りだと思って今歩いているのなら、何故僕はこんなにも満たされないのか。

多分…納得出来ていない僕がずっと心の中で、何かを叫び続けているのかもしれない。

大きなため息をつきながら、僕はコーヒーを飲み干した。


僕の名前は 雪車町 誠 (そりまち せい)

高校を卒業後、母の知り合いのおじさんから介護の仕事を手伝って欲しいと言われ、そのまま流れに流れて今も介護を続けている。

とは言っても、正社員ではない。

僕は所謂、フリーターだ。

だけど本当に他にやりたい事も見つからないし、この介護が一生と思ってるわけでもないからこそ、落ちるに落ちきらず、上がるに上がりきらない。

そんな日々を過ごしている。


そんな雪車町 誠は、もうすぐ出勤の時間なんです。

何も変わらない、いつもの「1日」

そのスタートラインに立つんですよ。

さあ、相棒のボロ自転車と共に出発だ。


季節は春の中頃、桜の花びらが風に舞っている。

そこになんの風情も感じない僕。

むしろ今日はやけに日差しが強く、暖かいというより少し暑く、汗ばむ陽気にげんなりとしていた。

道を行く途中、桜の花びらを見つめながら嬉しそうな表情している女性とすれ違った、勝手な思い込みだが、舞う花びらに特別な思いでも抱いているような、そんな表情だった。

職場へ到着、まあ、頑張ろう。


中へ入ると、所長と社員の上田さん、アルバイトで僕と同期の鈴村くんが居た。


誠「おはようございます」

鈴村「おー!ソリ!おはよ!」

ーー鈴村くんは僕をソリというあだ名で呼んでいる、不快には思わないが

あだ名としての着眼点にはセンスの欠片も感じない。。。

上田さんは電話に出ていた。


所長「おはよー雪車町君、今日の予定なんだけど1件目の森田さんとこ行ったらさ、2件目は門脇さんじゃなくて糸井さんの所へ行ってもらってもいいかな?」


誠「わかりました。門脇さん予定が重複してたんですか?」


所長「いやあ、昨日ね、糸井さんの娘さんからウチに電話が来てね、糸井さんが雪車町くんを呼んで欲しいっていうものだからさ、無下に断れなくてね…雪車町君…糸井さんに何かした?」


所長は少し、顔をしかめた。

僕には、思い当たる節があった。


誠「一つ…思い当たる件が…」


所長はさらに顔をしかめ、ウンとだけ頷いた。


誠「先日、糸井さんのご自宅へ訪問した時、糸井さんにお孫さんを紹介したいと言われまして…もしかしたらその事かと思います」


所長はしかめっ面から少し穏やかな表情になった。


所長「なんだあ〜よかった〜!何かトラブルでもあったのかと思ってさあ!娘さんも父が呼んでますのでとしか答えてくれなかったからさあ!」


所長は、ふうーーっと大きく息を吐き話を進めた。


所長「ただね、トラブルじゃなかったからいいとしても、お客様や、そのご親族とプライベートの仲になるのは絶対厳禁だし、もしなってしまってそれが発覚した場合、雪車町くん自身相当な厳罰に処されてしまうから、紹介されたとしてもうまい具合にかわしてね?」


うまい具合…無茶を言ってくれるものだ…。

僕自身そんな事は初体験なのにどううまくかわせと言うのか…。

でもまあ、せっかく糸井さんからいただくご好意だ、なんとかうまく切り抜けてみよう。


誠「わかりました!行ってきます。」


支度を整え外の駐車場に行くと鈴村がいた。ニヤニヤしながらこっちを見ている…。

どうやらさっきの話を聞かれていたみたいだ…。


鈴村「おいソリ〜!なんだよあの話〜?お前も抜け目がないな〜!」

と憎たらしい笑い方をしながら僕に詰め寄る。


誠「茶化すなよ。僕だって特別何かしたわけじゃないんだ、僕自身相当テンパってるんだよ…」

と、話を続けようとした時、鈴村がかぶせ気味に話した。


鈴村「優しいもんお前!」

と少し真面目な表情をし、話を続けた。

鈴村「お前ってさ、自分の事無愛想で〜感情が薄くて〜みたいな感じで思ってるのかもしれないけどさ、お前が自分で思ってるより周りはお前の優しさに助けられてるぜ?」


…正直、意外だった。

そんな事を鈴村は思ってくれてて、恥ずかしげもなく伝えてくれた。

僕は少し、目頭が熱くなるのを確かに感じた。


誠「あ、ありがとう。鈴村も頑張ってね。」


言葉に詰まり、これしか言えなかった。

でもこれは本心から言えるありがとうだった。

鈴村はニコッと笑いながら「じゃあまた後でな!」と言い颯爽と訪問先へ向かった。


なんだか、気分が少し晴れやかだ。

僕も1件目に向かおう。


そして今日過ごす僕の1日は、これからの僕の一生を大きく変える1日となる。


ーー続くーー










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