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Bしょっく!  作者: ひぐるま もえき
第二章 ソースかつ丼で勝負!
9/11

あくと1

だいぶ遅れました。DQ10が悪いヨー!

 生徒会室の空気は険悪だった。雄一郎の悪い予感が当たったのだ。まず、京がまりのに激しい口調で言う。

「なんでだよッ! なんで正式な部活として認められないんだよッ!」

 まりのは冷たい視線を京に向ける。

「さっき、言ったとおりよ。もう新部活を認可できる時期は過ぎてるの」

 そこに、ショートカットかつメガネをかけた一見クールな女性が、口を挟む。

「まあまあ、ウチが顧問になるよってに、ちょっとは融通きかせてもええやんか」

 はんなりとした関西弁で話す彼女は、陶山(とうやま)陶子(とうこ)という名前で、雄一郎のクラスの担任だ。雄一郎がぜひにと言って、B食倶楽部の顧問になってもらうよう頼んだのだ。陶子は将棋部の顧問もしていたが、雄一郎の頼みを快く受け入れてくれたのだった。

「陶山先生。この私立美衆蘭高校では、部活は完全に生徒会の管理下に置かれています。例え教職員であっても口出しすることは望ましく思いません」

「そんなこと言うてもなあ……」

 陶山先生の言葉を冷たくはねつけるまりのの様子に、もちろん雄一郎もいらだっている。

「おい、まりの」

「なにかしら?」

「なんか魂胆があるだろ」

 雄一郎は生徒会長室の椅子に座る、まりのを睨みつけた。その瞳には静かな怒りが籠っている。まりのはその雄一郎の様子を見てくすくすと笑った。

「何がおかしい!」

「だって雄一郎の言うとおりだもの」

 まったく否定しない。悪びれず、まりのは雄一郎の言葉を肯定した。

「どういうことだよッ! ユーイチロー?!」

 雄一郎に激しく京が詰め寄る。

「まあまあ、ちょっと抑えようよ、みやちゃん」

 困惑した表情の優美。その顔を見て、雄一郎はとてつもない罪悪感に襲われた。すべては自分のせいなのだ。まりのの考えていることは分かる。

「どうせ、正式な部活動として認めてもらいたければ、あの男と和解しろ、とでも言いたいんだろ!」

 まりのは雄一郎の厳しい口調に眉一つ動かさない。

「そうよ、そのとおりよ」

 雄一郎の、言葉を肯定するまりの。

「ええ? 雄一郎くんと生徒会長さんって、知り合いだったの?」

 目をぱちくりさせて、優美は雄一郎の方を見やる。雄一郎は黙って頷いた。

「で、どうなのかしら? 清海さんと和解してくれれば、すぐにでも判子を捺すのだけど?」

 そのまりのの様子に雄一郎は、思わず怒鳴りつけた。

「そんなことできるはずないだろう!」

「じゃあ、B食倶楽部は正式に部活と認められなくていいのね?」

「アタシたちは勝手にやるぜ!」

 京がこぶしを握って言った。だが。

「それは無理ね」

「な、なんでなんだよ!」

「調理実習室の使用を禁止するわ。今まで勝手に使っていたようだけど」

 ぐっ、と京は唇を噛みしめた様子だ。

「なあ、雄一郎、どうすんスか? このままじゃ……」

 そう、勲の言うとおり、このままじゃ、B食倶楽部は夢まぼろしに終わってしまう。俺の帰るべき場所は、どこにもなくなってしまう。そうさせないためにどうするのか。雄一郎は、大脳をフル回転させる。そして一つ妙案を考えついた。

「……なあ、まりの」

「なにかしら? 雄一郎」

「一つだけ頼みがあるんだ」

「頼み?」

「俺たちがB級グルメを扱う部活にふさわしいところを見せたいんだ」

「回りくどいわ。はっきり言いなさい」

「俺たちと料理勝負しないか? B級グルメで料理勝負をな」

「ちょっと、勝手に決めんなよ、ユーイチロー!」

「これしか方法がないんだ」

「……分かったよ、ユーイチローの言うとおりだ。勝負だ勝負! 生徒会長さんよ!」

 どうやら京も戦闘モードのようだ。しかし優美はおろおろした様子だった。雄一郎は落ち着いた低い声で優美に言った。

「安心しろ、遠井センパイ」

「雄一郎くん……」

 優美が落ち着きを取り戻したのを確認して、雄一郎はまりのに言う。

「さあ、どうなんだ。まりの」

まりのは表情を崩さず答えた。

「料理勝負をして私になにか得でもあるのかしら?」

「あるさ。もしまりのが料理勝負に勝てば、俺はあの男に土下座でもなんでもする」

 まりのはしばらく黙考する。雄一郎は唾を呑みこんだ。ここでまりのがNOと言えばどうしようもない。だが、彼女も料亭の娘で料理には一家言持っている。まりのが、雄一郎を料理勝負で負かせば、言うとおりにしてくれるというチャンスを見逃すはずはない。

「私が料理勝負に勝てば、本当に清海さんに謝ってくれるのね?」

 念を押すまりのに、雄一郎ははっきりこう言った。

「ああ、男に二言はないぜ」

「分かったわ。勝負よ、雄一郎。で、何で勝負がいいかしら? B級グルメにはあまり詳しくないんだけど」

 これが雄一郎が狙っていたことだ。確かにまりのは料亭の娘で、料理も得意なことは雄一郎も知っている。しかし、B級グルメについては深い造詣があるわけではないだろう。雄一郎も最初はそうだったが、今は違う。それにB級グルメに詳しいセンパイ達もいる。勝つチャンスは十分にある。

「それやったらウチが料理決めてええね?」

 そう切り出したのは陶山先生だ。ナイス、と雄一郎は思った。少なくとも陶山先生は自分たちの味方だ。

「いいわ。陶山先生の好きなものに決めてくれるかしら」

「そやねえ。ソースかつ丼はどない?」

 陶山先生が、そう提案した。

「そーすかつどん? 何かしら、それは。普通のかつ丼とは違うのかしら?」

 雄一郎にもなじみのない料理だった。

「まあいろんなところにあるんやけど、長野県駒ケ根市や福井が有名やね。その名の通り、ソースで味付けしたかつ丼や」

「……まあ、後で調べてみるわ。審査員は、私のところから五人、そちらから五人でどうかしら?」

「オッケーや、うちの知り合いから五人選んどくわ。B食倶楽部側はそれでええのん?」

 そうこちらに尋ねる陶山先生に、最初に答えたのは、京だった。

「それでいいぜ。ユウもオッケーだよな?」

「うん……」

 やはり優美は不安げに答えた。

「安心しろ。俺たちは絶対に勝つ」

 雄一郎は自信ありげに言う。そう言わないと優美がつぶれそうな気がしたからだ。だが彼女もB食倶楽部の成立自体危ういということは、不本意なことだろうと雄一郎は思う。本当は自分が素直に父親に謝るか、B食倶楽部を出て行けばいいことは分かっている。でも、それは雄一郎にできないことだった。

 誰も雄一郎自身を責めないのが彼自身辛かった。だからこそ絶対に勝負に勝たねばならない、と雄一郎は思う。

「それじゃ、勝負は二日後、日曜日に調理実習室で行うことにするわ。いいわね?」

「ああ、分かった」

 雄一郎は、いつになく本気だった。

 負ければすべては終わる。どうしても勝たねば、いや勝つ。雄一郎の目の奥がキラリと光った……。

まりのを説得する手立てはあるのか? 雄一郎の策は?

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