表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bしょっく!  作者: ひぐるま もえき
第一章 愛の横手やきそば
8/11

あくと7

ドラクエてーん! で更新めっちゃ遅れました。サーセンww

「雄一郎、おかえり。ほーお、いい顔してるじゃねえか。そうか、問題は解決したわけだな」

 帰宅した雄一郎を、得道は笑顔で迎えてくれる。すべてをお見通しかのようだった。雄一郎も笑顔で、「ああ、なんとかな」と返事をした。

 雄一郎の心はいつになくうきうきしている。これからの学校生活が楽しみでならなかった。

「ま、がんばれよ。若いっていいよなあ。青春は一度きりだからな。雄一郎が幸せなら俺も幸せなんだ」

 得道はにかっと白い歯を見せる。

「お、俺、着替えて、皿洗い手伝うよ」

「おう、頼んだぜ」

 そこへ、カランカランと音が鳴った。『あばかぶ』に客が来たのだ。

「……」

 雄一郎はその客を見て、「いらっしゃい」とは言わなかった。また来たのか、という思いでいっぱいだった。

「いらっしゃい、まりのさん」

「得道さん、こんにちは」

 ニッコリと笑って、その客――仁木まりのは返事を得道に返した。そしてすたすたと雄一郎の方に歩いてくる。

 雄一郎は蛇に睨まれた蛙のように、動けなかった。彼女があまりに真剣な目をしていたからだ。

「雄一郎」

「なんだよ」

 ぶっきらぼうに雄一郎は言った。それにかまわない様子で、まりのは言葉を続ける。

「何回でも言うわ。あなた、清海さんと和解する気はないのかしら?」

 また、それか、と雄一郎は渋面する。苦虫を噛み潰したとは月並みな表現だ。かつて雄一郎は熊の肝を煎じたものを飲んだことがあるが、彼はそれくらいの苦いものを食べたときの表情をしたつもりだった。まりのは雄一郎が清海に対して持っている悪感情を知っているはずだった。しかしそれでもまだ、雄一郎にとってできない、いやしたくないことを勧めにここに来たのだ。

「帰ってくれよ」

 雄一郎は、ピシャリと言った。本当にピシャリ、と戸を閉める音がするかのように言った。まりのの言うことをシャットアウトするように。

「前も言ったかしらね。清海さんと千恵子さんのことは」

「もういい、何回言っても無駄だぜ」

「…………」

 雄一郎の言葉を聞いて、まりのは悲しそうな顔を見せた。なんで、そこまでして、と雄一郎は思う。

「俺は、もう見つけたんだよ。親父とは関わらない、新たな道をな」

 雄一郎の言葉に、まりのの表情が変わる。きょとんとした顔。雄一郎が何を言っているのか分からないといった様子だ。

「なんのことかしら?」

「B食倶楽部のことだよ」

「どういうこと?」

 雄一郎は、これはおかしい、と思った。なぜなら、部活動設立のための書類を、まりのは見ているはずだったからだ。あの時、京が出しに行っていたはずだった。

「俺が入った部活だよ」

 それを聞いて、まりのは少し何かを考えている様子だった。そして彼女はこう言った。

「なるほどね。でもね、部活動設立のための書類、出されてないわよ?」

 その言葉に、雄一郎の目は点になった。

「なんかの間違いだろ? ちょっとギャルっぽい女の子が出しに来なかったか?」

「来てないわよ?」

 はっきりとまりのは否定されて、雄一郎はようやく事態が分かった。

 ――もしかして。遠井センパイ、あの書類、出すの忘れたのかよ!

「……まあ明日、出しに行くわ。その申請書類」

「一つ、聞いていいかしら?」

 真剣な目で、まりのは雄一郎を見つめている。

「なんだよ」

「それが雄一郎の、あなたが見つけた道なのね?」

「ああ、さっきも言っただろ」

「そう、それならいいわ」

「なにがいいんだよ?」

「なんでもないわ」

 雄一郎はなにやら胸騒ぎがした。まりのが何を考えているのか分からない。

「なんでもないんだったらそれでいいんだけどさ。ただ、一言言っておくぜ。俺はあの男とは和解しない。そのことだけははっきり言っておくぜ」

 まりのは、その雄一郎の言葉を聞いて、ふうっ、と嘆息した。

「分かってるわ。もう言わない。それじゃね」

 やけに物わかりのいいまりのの様子に、少し雄一郎は戸惑った。あれほどまでに雄一郎と清海を仲直りさせようとしてた彼女がこうもあっさり雄一郎の言うことに納得するとはいささか彼にとって驚きだった。

 まりのは踵を返し、あばかぶの入口の扉に向かった。

「得道さん、今度美味しいコーヒーを御馳走してくださいね」

「あ、ああ」

 そしてまりのは帰っていった。それを雄一郎は呆然と見つめていた。

「得道さん……コーヒー入れてくれないか?」

「ああ」

 雄一郎は、何やら胸の奥のもやもやした塊を振り払うために、得道の入れるコーヒーを飲むことにした。

 とにもかくにも。明日部活活動申請の書類を出さなくてはならない。雄一郎はコーヒーを飲みながら、優美にことのなりゆきを伝えなければならない、と考えた。

 ――面倒なことにならなければいいが。

 そんな雄一郎の憂鬱な気持ちに関わらず、店内にはやけに明るいアニソンが流れていた。

さて、次からは第二章に入ります! 一体まりのは何を考えているのか? B食倶楽部はどうなっちゃうの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ