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桃色の瞳の少年  作者: 芥屋
第一章
3/18

環の日常2

 洗面台で身なりを整えた僕は黒縁くろぶちの眼鏡を着けダイニングに向かう。

 この都会に来てから黒縁眼鏡を常に着けているけど、未だに違和感が無くなりません。眉間の辺りがムズムズと疼くような感覚が時折邪魔に感じます。

 何よりこの黒縁眼鏡、お世辞に出来ない程似合わないのが恥ずかしいです。ですが透明な物質を挟めば私の目の色は黒く映るようで、外に出る時はこの黒縁眼鏡を装着する事を義務付けられています。

 御婆様の言いつけで私達惚条家の瞳は外部の者に容易に晒してはいけない。他とは違う桃色の瞳は世にも珍しく、惚条家が秘宝として重宝し守ってきた物である為容易に晒す事は惚条家の質を軽くする行為だと御婆様は僕に何度も言い聞かせていた。その時の御婆様の顔はとても怖い憂いの表情をしていて僕はそれを重く受け止めていた。

 今でもそれは継続していてこの瞳は簡単には他人に晒さない、黒縁眼鏡はその為の装備なのです。理屈は分かりませんが、眼鏡越しにはこの瞳は黒くなり一般的な目の色に見えるので外で桃色の瞳が気付かれる事はありません。なのでこの黒縁眼鏡は僕にとってとても重要な物です。

 

 ダイニングの食卓用テーブルには既に朝食が並べられていた。

 丁度三人分の用意がされたテーブルには朝食らしく軽食な盛り付けの料理が置かれている。僕とくれはは和風が好きできゅうこ様はどのような食事でも美味しければ拘らないとの事なので此処では和風の食事をよく作られる。

 食事はくれはがいつも作ってくれている。そもそも家事全般はくれはが補っていて食事、掃除、洗濯などどれかが欠けた日は無い。僕も申し訳ないので手伝おうとするのだが、くれはが決して許してくれません。少しでも掃除を手伝おうとするととても悲しそうなな顔で『私の力が及ばず申し訳ございません……』と謝ってくる。

 くれはが手伝いを嫌がる以上手出しは無用だよ、ときゅうこ様もおっしゃるので僕も手伝いをする事を止めました。が、感謝はいつも忘れないようにしています。

 三人分の朝食の中に一つだけ量が倍程用意された分があるのでそこの椅子に座ります。恥ずかしい事ですが、僕は食欲が人よりも旺盛過ぎて人の倍以上食事を取らないとすぐにお腹が鳴き声を出すので僕の食事はこの通り、倍以上の食事が用意されています。

 くれはときゅうこ様がまだ見えないので食べ始めはしませんが、美味しそうな食事を目の前にするとお腹がなりそうになって困ります。早く二人が来ないかとソワソワしていると、廊下のドアが静かに開かれた。

 振り向いて確認すると、そこに居たのは優れない顔をしたくれはだった。優れないというか、不機嫌というか、むくれっ面というか、何ともくれはらしくない頬を少し膨らませたいじけた様な表情をしている。

「くれは?えっと……きゅうこ様は?」

 私の問いにくれはは唸るように小さな声を出して反応する。

「………チェンジ、だそうです」

「ふぇ? ちぇんじ……?」

 その言葉の意味が分からず丸投げの形で聞き返す。するとくれはは僕の傍まで来て項垂れるように私の耳元まで顔を近づけた。

「その……九子様が環様に起こしてほしいと駄々をこねるのです」

「だ、駄々って、そんな子供みたいな言い方、」

「布団から顔を出し私の姿を確認するとあの方は何と申したと思いますか? 『くれは、私は貴方の事は嫌いじゃないわ。でもね、私が目覚めに求めているのは環の微笑みなの。勿論わざわざ私を起こしてくれた事には感謝しているわ。朝食を用意してくれて且つ起こしにまで来てくれるなんて召使いの様な扱いなのに、貴方は進んでしてくれる。私もそこまでしてもらうのは申し訳ないと常日頃から思ってはいるわ、いえ、今でもそう考えているぐらいなの。それ程感謝していると理解してもらった上でお願い。早く環を連れてきてぇぇええ!!』と喚きだしたのですよ」

 声を裏返しきゅうこ様の声真似をしてまで説明する辺り、本当に今の言葉通りに追い返されたのだろう。うん、確かに駄々っ子です。

 距離が近い為吐息が耳にかかりぞわぞわします。少し顔をずらしくれはの顔を覗くように目を合わせる。

「えっと、起こしてくるね」

「いえ、環様は先に召し上がって下さい。直ぐに学校に向かえる様に準備しておかないと九子様のお相手で時間を浪費してしまいます」

 きゅうこ様が駄々をこじらせる事は多々ありそうなると気が済むまで止まらない為登校時間までに学校に行けなくなる。何度もそれで遅刻の経験がある為僕もくれはもそれなりに学習している。

 先に朝食をとってから直ぐに学校に行ける様に準備をしておききゅうこ様を起こしてそのまま学校に向かうのがくれはの考えなのだろう。僕としてはきゅうこ様も合わせて三人で朝食を食べたいのですが、学校に遅れる訳にも行かないのでくれはに従う事にします。

「……うん、わかった。先に食べましょう」

「はい。先日ネットで評判の卵を購入しまして、本日はそれを使っています」

「え、卵ってスーパー以外でも買えるの?」

「勿論です。今ではネットを活用すれば買えない物はありませんよ。環様も是非学んでみては如何でしょう?」

「きゅうこ様にも少しパソコンを進められたのですが、未だにこの携帯電話ですら僕には難関だよ」

「慣れれば楽しいですよ。また時間が合う時に一緒に触ってみましょう」 

 先のむくれっ面から一変して雑談をするくれはの表情はとても穏やかです。湯気の流れる白米を僕に手渡したくれはは腰に巻いたエプロンを解きながら席に着く。

 向かい合う形で座り互いに食事の用意ができたのを確認して合掌し、目を瞑る。

「「いただきます」」

 いつも通りの食事が始まり、僕とくれはは再び何気ない会話を始めました。


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