私はできる女(お題小説文字数制限なしバージョン)
沢木先生のお題に基づくお話です。
「シャワーキャップ」をお借りしました。
私は大手商社のトップ営業。
「女だてらに」
とか、
「鼻につく」
とか言われながらも、居並ぶ男共を尻目に営業成績を伸ばし、何ヶ月も続けて表彰をされている。
それもこれも、大学時代から付き合っていた男と嫌な別れ方をしたから。
それ以来、私は仕事が恋人どころか、命よりも大事なくらいになっていた。
男なんて、みんな同じ。
誰も彼も、やりたいだけ。
冗談じゃない。女は男の欲望の捌け口じゃないんだ。
しかし、仕事一筋になってからも、
「あいつ、女を捨てたみたいだよ」
と言われたくはなかったので、身嗜みには細心の注意を払った。
皺一つない黒のパンツスーツに、奇麗にアイロンがけされたシルバーホワイトのブラウス。
髪も短くはせず、肩までのセミロングを維持した。
化粧も手を抜いていない。
だから、後輩女子に「好きです」とか手紙をもらうほどだ。
もちろん、私にはそっちの気は一切ないけど。
ある日、課の企画会議に出席し、プレゼンを行った。
プロジェクターを駆使し、数十枚もの企画書を作り、気合を入れて臨んだ。
「では、続きまして」
企画書の原本のページを捲った時だった。
血の気が引いた。
何故かそこにゴムで丸められたシャワーキャップが挟まっている。
全く身に覚えがない。慌ててポケットに押し込んだ。
私はシャワーキャップなど使った事がないのだ。
しかし、その思いもよらないシャワーキャップの登場で、私はすっかり動揺してしまい、その後のやり取りは惨憺たるものになってしまった。
ふと出席者を見渡すと、私を見てニヤついている男が一人。
誰あろう、別れた男だった。
まさか? 思わず睨み付けそうになるが、何も証拠はない。
何ふり構わず突っ走って来た私に対する嫌がらせだろうか?
いずれにせよ、何故笑っていたのかは確認してみよう。
そう思い、企画会議が終わると、昨日までは半径1メートル以内には近づかなかったそいつのそばに歩み寄った。
「どういうつもり?」
単刀直入に尋ねた。するとそいつは何故か照れ臭そうに笑い、
「そのままだよ。他意はない」
と嘯いた。私は思わずカッとなり、
「企画書にシャワーキャップを挟んでおいて、他意はないってどういう意味よ!?」
周囲に人がいるのも忘れて怒鳴ってしまった。
「シャワーキャップ? 何の事だ? 俺が挟んだのは、指輪だぞ」
そいつはまだ嘘を塗り重ねるつもりらしく、そう言ってのけた。
「これのどこが指輪なのよ!」
私はポケットから物証を取り出し、そいつに突きつけた。
すると、シャワーキャップの間からコロンと何かが床に転げ落ちた。
「え?」
よく見ると、それはシャワーキャップなどではなく、包み紙だった。
ゴムで縮んでいると思ったのは、リボンで結わえられていたからだった。
転げ落ちたものを見ると、確かにそいつの言う通りのものだ。
「やり直そう」
そいつは真剣な表情になって言う。
「うん」
涙が零れた。恥ずかしさのため、祝福の声と拍手の音が遠くに聞こえた。
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