聖女召喚の儀、巻き込まれたはどちらか 逆襲の陣
出てくる人達 ↓
モサ子と美少女とドアマットされてる少女とその他。
初見の方の為のざっくりなあらすじ ↓
去年の春夏秋冬召喚されて、理不尽異世界人を薙ぎ倒して帰った。
(詳しい中身はシリーズで纏めてます)
ドアマット。
それは家の出入り口、或いは室内玄関に敷かれ、靴底の汚れや水分などを拭き取る為のマットである。一家に一枚、ドアマット。とても丈夫で耐久性は抜群だ。
しかし。それは時に、比喩的な使われ方をされてしまう。
あいつはドアマットさ。
これはつまり、いつも他人に踏み付けられ言いなりにされても文句言わない腰抜け野郎さ。……と、仰っておられる。
はん、あんなドアマットチーム眼中にねぇよ!
これはつまり、勝った事がない弱小チームが俺のようなトッププレイヤーに勝てるわけねぇよ!……と、仰っておられる。
ドアマット。つまり、黙って耐える人。
その中に、ドアマットヒロインという言葉もあるらしい。かのヒロインは、身内からも周囲の人間からも理不尽な扱いをされ、自己肯定感をこれでもかと貶められ、抵抗する気力すら奪われる。黙って耐えるヒロインを、やり返す事すら思いつかない愚か者だと、更に嘲るのだ……。
笑い声が、大広間にさざめく。
その中心に居るのは、身形のいい整った顔の青年と可愛らしい少女。二人は身を寄せ合い、いかにも親密といったその様子で、どういう関係かが分かる。
ぴったりと寄り添う二人が見下ろすのは、やせ細った少女。身に着けているドレスは体に合っておらず、貧相なもの。周囲の着飾る令嬢達と比べるまでもなく…。クスクスと嘲笑するだけの声。味方は何処にも居ないと、嫌でも思い知らされる。
それでも、いつまでも座り込んでいる訳にはいかない。少女は震える足を叱咤し、なんとか立ち上がった。寄り添う二人を見、下を向く。そんな少女に、青年はハッと吐き捨てる。
「全く、いつ見ても陰気だなお前は。しかもなんだ?そのみずほらしい恰好は。こんなセンスの欠片もない女が、私の婚約者だったなんて」
「仕方ないわぁ、妹は所詮平民。家族全員で、優しく作法を教えてあげたのに……覚えられる頭が無いんですもの、もしかしたら犬の方が賢いのかもね?」
見た目は可愛らしいが、出てくる言葉は辛辣だ。ニヤリと嗤うその顔も、中々の仕上がりである。
「魔導書を読ませても教えても、理解すらできていないのよ?未だに何もできないの」
「子供ですら、初級魔法ぐらいできるというのに…本当に、無尽蔵の魔力持ちなのか?」
少女は下を向いて黙ったままだ。この時間が早く過ぎ去るよう、願うように強く目を閉じる。
少女は望んでいなかった。魔力持ちだからと、突然現れた父親に無理矢理連れてこられたのだ。母は最後まで抵抗していた。少女が乗せられた馬車に、涙を流しながら手を伸ばして。
望んでいない生活。毎日のように罵声を浴びせられ、暴力を振るわれ。食事も出ない日の方が多かった。望んでもいなかった婚約者をあてがわれ、その婚約者も義家族と同様で。
手を差し伸べてくれる存在などなかった。ひたすら自分を殺し、心を殺し。
大丈夫、明日はきっと、今日より良くなる。
毎日毎日そう言い聞かせ、誤魔化して。
「あぁ、お前があまりにも馬鹿だから、実の親にも捨てられたのだな」
「――、」
必死に手を伸ばして、自分の名を呼び続けていた母の姿。
こんな扱いを受けても、誤魔化してでも生きる事を選んだのは、母が悲しむ顔を見たくなかったからだ。
……何も知らないくせに、分かろうともしないくせに、母まで侮辱するな。
少女は初めて強い怒りを覚え、二人を睨みつけた。
「何?その生意気な顔。可哀想なあなたを拾って、面倒見てあげたっていうのに。役立たずなくせに、え?!」
「っなんだ?!」
突如、少女の足元が光った。それは大広間に広がり、陣を描いていく。あっという間に巨大な魔方陣が完成した。その中心で佇む少女は、微動だにしない。
魔方陣は強く光り輝き、全てを覆う。その場に居た者らは逃げられず、悲鳴を上げた……。
「お前か。誘拐犯は」
「ちっちがあべしっっ??!」
「ちょっとどういう事よ?!もう起こらないと思ってたのにどういう事?!答えなさい!!」
「しっ……しらない知らないっ私は何も知らないっいやぁぁぁっっ??!?!」
……自己紹介をする空気ではないので、便宜上モサ子と美少女と呼ばせていただく。
魔法陣から現れた、二人の少女。この二人、季節の風物詩になるかの如く、召喚されまくった過去がある。故に順応も早かった。
そして召喚先の印象は、ゼロ突き抜けてのマイナス。先手必勝も止むを得ない。モサ子は渾身のアッパーを決めた。
可愛らしかった少女は、頼りの青年が美しいアーチを描いて飛んでいる姿を目撃。半狂乱になった。
しかし、気絶を許さない美少女が状態異常回復をかけつつ詰め寄る。
「誰がやったの?!また私達に面倒事押し付けるのなら、容赦しないわよ!あいつが!!」
美少女はモサ子を指した。モサ子は早々に犯人をぶちかます為に、周囲に威圧を放っている。また、何人か倒れる音がした。
因みに。
モサ子と美少女は夏休み中、自由研究を共同でやる事になり、蓮を題材に選んだ。蓮の観察日記である。
モサ子の家族と共に蓮畑にお邪魔し、楽しんでいたところ……こうなった。
二人の手には、蓮畑のおじさんからもらった蓮の葉が握られている。それに気付いたモサ子、弱ってはいかんと、威圧を引っ込める。そこでようやく、魔法陣の真ん中で佇んだままの少女に気付いた。
「……。……お前か。私達を喚んだのは」
少女はゆるゆるとモサ子を見た。その顔は真っ青を通り越して白く、小刻みに震えている。
「……その前にレスキューだ。救急車ぁぁぁぁっ!!」
「いや誰が救急車よ!何どうしたのっ……ちょ、治癒!治癒するわ寝かせて!」
モサ子は倒れかけた少女をそのまま抱え、美少女の元へ運んだ。癒しの光が少女を覆う。
顔色は一気によくなった。一応ステータス確認。
「ゑっ」
美少女は目を疑った。極度の栄養失調、体力も並以下だ。だが、少女の魔力は『∞』だった。
この表示はモサ子のステータス以外で見た事がない。それ以外のステータスは並以下という、バランスの悪さよ。
「この子の仕業だ」
「あー…、一人で召喚できたのは分かったわ。でも何で?よ」
二人は大広間を振り返った。意識がある者は全員、逃げるに逃げれず座り込んで静かに待機していた。皆、此方を見ようともしない。
「……ごめんなさい…」
見れば、少女は泣いていた。繰り返し謝り、泣きながらも話し始めた。
己の境遇を。親に捨てられたと笑われた時、限界が来てしまったと。でもどうやったのかは、無意識だったので分からないと。
モサ子と美少女は、ちらと互いを見る。こんなパターンは初めてである。
「助けて、欲しかった。誰でもいいから助けて、って、私が、私のっせいでっ」
モサ子は何も言わず、少女の背中をさする。こんなに傷付いている少女を責める程、鬼ではないのだ。美少女は己の過去の所業が蘇ったのか、唇を嚙んでいる。
「……どうしたい?」
「か、えりたいっ、お母さんの、とこにっ」
「そうか」
「なにもなくても、いいっ!わたし、こんなとこっ居たくないっっ……!」
「なら、行こう」
モサ子は少女の手を掴み、立たせてやる。安心させるよう、ニコリと笑う。
「家族のとこへ帰ろう。その為に私達を喚んだんなら、必ず帰す」
「あ、私も、力になるわよっ」
がしりと美少女も手を掴む。ポカンとしていた少女だが、彼女達は味方なのだと分かり、再び泣いた。嬉し涙だ。
「まっ待て!勝手に行く事は許さん!!」
静かな大広間に、男の声が響く。ずかずかと小走りでやってきた中年の男。その後ろには物々しい騎士達が。三人はあっという間に囲まれた。
「召喚魔法…!……お前さえ居れば多くの失われた魔術が蘇る!逃がさんぞ!お前のその力を使ってやろうと言っているのだ!一生国の為に、父親である私の為に尽くせ!!」
少女は震えた。いやだ、と小さく呟く声を聞き逃さず……モサ子は力の聖女の能力を遺憾なく発揮した。またもや美しいアーチが描かれる。それは高く、高く……。
騎士達はそれを黙って眺めていた。
「……お前がやった事はただの虐待だ。父親と名乗る資格はない」
ごっしゃあ、と落ちた同じ場所に、青年が白目を剥いて落ちていた。それを蹴り転がし、モサ子は父親の胸ぐらを掴み片手で持ち上げた。
「二度と、あの子の家族に近付くな。姿も見せるな。あの子を傷付けた分、しっかり利子付けて返せ。……できないと言うならお前の一族全員同じ目に遭わせてやる」
「ひっ……?!」
「もう一回言うぞ。二度とあの子の家族に近付くな姿も見せるな。下らんお前の見栄と欲を父親面して押し付けるなハゲ散らかれ」
微妙に違う。
しかし、モサ子のキレ散らかした眼光に成す術なく。男は涙目で、高速で頷くだけだった。
止めに壁へ放り投げ、モサ子は静かに大広間を見渡す。
美少女は見た。騎士達が素早く道を開け、流れるように大広間の扉まで開け放った瞬間を。それはまるで、モーゼの奇跡ようであったという。
……目撃していた者らは語る。
あの子には近付くな。手も出すな。でないと魔王が現れ、蹂躙されるぞ……!と。
「聖女っていうより、魔王だったわね」
「失礼な」
美少女の呟きは事実となった。
……余談だが、少女の母親は我が子を取り返すべく、己を限界まで鍛え上げカチ込む所であったそうだ。
再会した母親の余りの変わりように、少女は二度見どころか五度見したそうだが、母娘笑顔で幸せに暮らしているという。
そして、モサ子と美少女だが。
少女を送り届けた直後、蓮の葉が光り輝き、無事に元の世界へ帰れたらしい。
「蓮の葉っぱがない……消えた…」
「あー、よくあるよくある。はい、いっぱいあるからねー」
「ありがとうおじさん」
「はい、そっちのお嬢さんもねー」
「あ、ありがとうございます……」
よくあるの?とは、朗らかに笑うおじさんには訊けず、とりあえず自由研究に集中するのだった。




