5.ゼリアの正体
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翌日。
穏やかな陽光が街に差し込む中、俺たちはゼリアを先頭に町の中心部に向かって歩いていた。俺の肩には縛り上げられたサバザ。意識を取り戻したサバザは、縄で縛られた手足が動くたびに不快そうにうめき声を漏らしている。
マルティの街を治める評議会には、先祖の代より政治に携わってきた年配の男たちが集まっていた。彼らは長年この街を支配してきた顔なじみばかりで、会が開かれている築100年を越える屋敷の一室は和やかな雰囲気に包まれていた。
俺たちはその部屋の扉をノックもせずに乱暴に開け中に入る。評議員たちは突然の暴挙に一瞬怯んだが、先頭にいるのが小さな女であるのを確認すると、とたんに大声で罵り始めた。
「誰だ貴様らは!」「ここは由緒ある評議会!野良犬や女子供が入って来ていい場所ではない!」「出ていけ!」
部屋が怒号に包まれる中、俺は背負っていたサバザの巨体を机の上に乱暴に放り捨てた。悲鳴と共に部屋は静寂に包まれる。
「サバザ!?」「こ…これはいったいどういうことだ…!!」
そんなざわめきを制すかのように、ゼリアが一歩前に進み出た。彼女は落ち着いた声で、しかし凛とした力強さを帯びた声で話し始める。
「ここに捕らえられているのは、この街で私刑を繰り返していた殺人鬼です。」
その言葉に会議室は一瞬で静まり返り、続けて誰かが驚愕の声を上げた。
「殺人鬼だと…!?まさかサバザがそのような者とは!」
「何を証拠に!?」
「私たちは昨夜、酔って歩いている男を、酔っているだけで殺そうとしたサバザを見ました。サバザは私たちをも殺そうとしましたが、私たちが返り討ちにしたという始末です」
混乱した老人たちはお互い顔を見合わせ、再び勝手勝手にしゃべりだす。ゼリアはそんな声を遮るかのように「平和とは!」と一喝した。
「平和とは、ただ単に問題を排除することでは成り立ちません。この街への深い愛情と、日々の努力によって築き上げるものなのです。すべての市民を国の宝と考え、尊重し大切にしてこそ、本当の平和が訪れるのです」
その言葉に憤慨した一人の老人が声を荒げた。
「な…何を偉そうに!そんな理想論でこの街が守れると思っているのか!」
「この街には品行方正な人間しかいなくて、誰も邪な心を持たないと信じている方が理想論ではないですか?」
「な…なんだと…」
「実際には、少しでも人の弱さを見せた者はサバザが始末してきたのでしょう。それを隠しもしなかったことでサバザに対する恐怖が生まれ、サバザはその恐怖を利用して町を支配してきた。あなたたちもご存じだったのでは?見て見ぬふりをしてきたのでは?」
「何を証拠にそんな侮辱を!」
老人たちは再び騒ぎ始める、混乱の中、縛られたままの隊長も負けじと叫び声を上げる。
「俺は何もやっていない!こんな連中の戯言なんか信じるな!」
「貴様…この期に及んでまだ嘘を!」
ヒルダが苦無を構えて攻撃態勢に入るが、俺は素早く彼女の腕を掴んで制止した。
サバザは満足げにニヤリと笑い、冷笑を浮かべながら続ける。
「わざわざ運んできてくれてありがとうよ。だが、評議員がどちらの側に立つかは火を見るより明らかだ。この街では私が正しい!私が法だ!お前らみたいなやつらは法が!私が!処分してやる!」
彼の高笑いが響き渡り、飛び散る唾が俺たちにかかる。老人たちも負けじと声を荒らげて罵倒する。
俺はそっとゼリアをちらりと見てみると、彼女は小さくうなずいた。合図を確認し、俺は深く息を吸い込む。
「静まれ!!ここは姫様の御前であるぞ!!」
その声は議場の空気を震わせ、重く響き渡った。全員の動きが止まり、ざわめきが消え去った。
「姫…だと?どういうことだ…」
その沈黙に満足しつつ、俺はすかさず続けた。
「ここにおられるのはマディラ王国の第三王女、ゼルダ・フォン・マディラ様である!
現国王陛下の親書が何よりの証拠だ!」
俺は懐から巻物を取り出し、丁寧に広げて全員に見せつけた。
評議員たちは驚きのあまり身を乗り出し、目を見開く。
「ば…ばかな…」
ゼリアは満足げに全員を見回す。
「先日、この街に住む心ある者より訴えが届いた。街の安全のためという理由で罪なき者の命が奪われていると。私は国王の代理として真実を見極めるためにやってきた。民のための政ができぬ者は、即刻この場から立ち去るがいい!」
評議長ははっと我に返ったように慌てて声をあげた。
「誰か!この不届きな元隊長を牢に投げ込め!」
数人の衛兵が迅速に現れ、隊長を押さえつけて無理やり引きずっていく。
「放せえええ!!くそおおおおお!!」
悔しさに満ちた叫び声を遮るようにゼリアは冷静に議場の扉を静かに閉めた。そしてゆっくり振り返ると柔らかな微笑みを評議会の面々へ向けた。
「では、さっそくこの街の新しい未来について、皆さんとご一緒に話し合いましょうか?」




