4.魔剣は悪を裁く
4話に来てくれてありがとうございます。
「始めましょうか、殺し屋さん」
ゼリアの言葉を合図に、ヒルダが語り始める。
――ある港町の物語
皆が正しく生きるのは
悪も罪もなく、悲しみと決別した町
だがそれは全てまやかし
罪の芽を摘み、迷いのつぼみを憎み
力で排除する者がいた
正しき装いの陰に
血みどろの刃を隠し持ちながら――
仮面の男はヒルダの口を塞ごうと襲いかかるが、俺とゼリアで進路を塞ぐ。
男が大きく刀を振り回すのをひらりとかわすと、無防備になった狼の仮面にヒルダの投げたクナイが命中し、仮面は真っ二つに割れた。
その下から現れたのは、憲兵隊長サバザの憎々しい顔だった。
「やっぱりあなたでしたか」
ゼリアは悲しそうにつぶやく。
「悪を滅ぼすために罪を重ねることに、矛盾は感じませんか?」
「旅芸人ごときに何がわかる!」
サバザは昼間とは全く違う、歪んだ笑みを浮かべた。
「この街は私が守っている。よそ者は余計な詮索をするな!」
サバザは最も小さいゼリアを狙い、剣を振り下ろす。
しかし俺は素早くその剣の軌道に入り込み、重い一撃を受け止めた。
巨躯のサバザに比べれば、俺は鹿のような体つきだ。
圧倒的な体格差を活かし、サバザは力任せに剣を押し込んでくる。
赤く顔を染め、ギラつく目が不気味に光る。
だが――
「この国は、悪人が人を裁くことを認めてはいない」
俺は顔色一つ変えず、サバザの剣を受け止め続ける。
顔を赤黒く染めながら、サバザは押し込み続けるが、俺は余裕のまま逆に剣を押し返した。
「何だ貴様…その体つきでどうして…」
「剣は力じゃないからな」
俺は手首をひねるように剣を受け流す。
バランスを崩したサバザが苦し紛れに剣を振るが、俺は大きく跳んで回転し、着地した。
すでに息を荒くし、次の手を探るサバザを見据えながら、
俺は腰のベルトから筒を一つ取り外し、剣の柄に差し込む。
「それは何だ…?」
俺は剣を数回振り下ろし、感触を確かめてからサバザに剣先を向ける。
「魔似車だ」
俺はサバザを睨みつけながら話し始める。
「遥か東の国には、古より伝わる祈祷の輪がある。
文字が読めない者でも神に祈りを捧げられるよう、筒には神への言葉が刻まれていた。
文字を知らぬ者は筒を回すことで祈りの代わりとしたという」
俺は剣に差し込んだ筒を右手で回す。
カラカラと音を立てて筒が回転し、刀身は赤く熱を帯びていく。
「この筒には魔術師の手で“雷帝”の呪文が刻まれている。
俺の剣はこの魔似車の力によって、魔法を帯びた魔剣となる」
剣は黒い雲がまとわりつくように霞み、無数の火花を散らし始めた。
「そんなことが…あるわけない!」
驚いて後ずさるサバザに、俺は迷いなく突撃する。
大きく剣を振り上げるサバザの懐に潜り込み、水平に腹を殴り払う。サバザの腰がガクンと落ちて、顔が歪む。俺は両手で剣を高々と振り上げると、サバザの脳天に目掛けて振り下ろした。
「雷帝!!」
剣の軌道が雷となってサバザを黄色い光が包み込む。サバザは髪を焦がして白目をむき、ブルブルと震えたのちに力なく地に伏した。
俺は大きく息をつく。ヒルダが倒れているサバザの口元に顔を近づけ「生きてはいます。かろうじて。」と俺をたしなめるような目で睨みつけた。
「すみません。やりすぎました」
振り返るとゼリアが微笑んでいた。
「ごくろうさま。もう朝が近いわ。早く寝て明日の本番にそなえましょう」
「マニ車」は実際にチベット仏教などで見られる、お経が書かれた道具です。




