⑨ 生徒会役員選挙
生徒会役員の改選に向けて6月中旬に立候補が締め切られた。
美術部と野球部から会長と副会長がセットになった形で2名ずつ立候補したので、文化部対運動部のような対決構図になった。
両陣営は、立会演説会において以下のような要望事項を公約として訴えた。
会長候補・久馬嘉也野球部2年
副会長候補・宮場香耶野球部マネージャー1年
・部活の練習開始を早めるために日の短い11月から2月まで短縮授業にしてほしい。
・年に2回ある球技大会を現在の1日半から2日間にしてほしい。
・購買部の弁当とパンの種類を増やしてほしい。
会長候補・不破流司美術部2年
副会長候補・道砂芽美術部2年
・部活動の予算配分の不均衡を是正して文化部の予算を増やしてほしい。
・学校横の私有地を取得して文化部の部室を建ててほしい。
・マフラーの色や柄の指定を外してほしい。
もう陽射しが強い季節なので、屋上の日陰を選んで彩子と修は腰かけた。
「ねえ、今日のLHRでの投票、どっちが勝つかな」
「下馬評じゃ圧倒的に野球部側だよ。運動部の生徒が数でまさっているし」
「不破くんと道砂さんは花野中だから、同じ中学校出身のよしみで応援してあげたいけど、きついわネ」
「そうだな。不破も不安なのか、ここ数日多目的ホールで横になって何かぶつぶつ言ってるよ」
S高では、昼休みに絨毯敷きのホールを男女別に仕切って昼寝したい生徒に開放している。
「私も昨日は多目的ホールに行ったけど、みな寝苦しそうにしてたわ」
「エアコンの効きが良くないからかな。まあ、でもここよりはましだろうから行ってみるか」
階下へ降り、修が彩子と別れて多目的ホールへ向かっていると、少し先を不破が歩いているのが見えた。
不破のほうが修よりも先にホールに入り、壁際の空いているところへ仰向けに寝転がって目を閉じた。
修は何気なく不破を見て、思わず息をのんだ。
そして気づかれないように不破の近くでそっと横になった。
生徒会役員選挙の開票結果は、生徒たちに衝撃を与えた。
圧倒的に優勢と思われていた野球部コンビの二人が、僅差で美術部コンビに敗れたのだ。
下校時、修は彩子に声をかけた。
「ちょっと話があるんで付き合ってくれ」
「それなら、最近開店したようこそおばさんの店に行ってみようヨ。知ってる?」
「お好み焼き屋だろ? 運動部の連中から聞いてるけど、行ったことはない」
「それにしても開票結果にはびっくりしたわネ。修はどっちに入れたの?」
「同じ中学の縁で不破たちに入れたけど、絶対負けると思ってたよ」
「アタシもヨ。でもちょっと不思議なことがあるの。あ、着いたわ」
バス通りの1本裏の道に「お好み焼きJinJin」と看板に書かれた店があった。
「ここのおばさん、同じ言葉を2度ずつ言うんだって」
修が戸を開けた。
「こんにちは」
店のおばさんは、同じくらいの年配の老人と話をしていたが、彩子たちが店に入ると老人は席を立って店を出た。
おばさんが水の入ったコップと紙おしぼりを持ってきた。
「ようこそ、ようこそ」
メニュー表を見ると、「お好み焼き、たこ焼き、カレーライス、うどん」の4種類のみだ。
「俺、カレー。彩っぺは?」
「アタシ、お好み焼きの豚玉」
「カレーと豚玉、カレーと豚玉ね、はいはい」
注文を終えると、すぐに修が言った。
「さっき彩っぺが言いかけた不思議なことってのは?」
「開票結果が意外だったんで周りの人たちに聞いたの。そしたら運動部の人たちもけっこう不破くんたちに入れてたの」
「なんでだろう? 1年生ならアイドルの総選挙気分で、美男、美女コンビの不破たちに入れるかもしれないけど」
「妙なのよ。同じ運動部の久馬くんたちに投票するつもりでいたのに、昼寝から戻って投票の時間になると、つい不破くんたちの名前を書いてしまったって言うの」
「久馬たちが優勢だったんで、可哀そうになったのかな?」
おばさんが注文の品をトレーに載せて運んできた。
「さあさあ、食べて食べて。熱いから気をつけてね」
「この豚玉おいしい。あとで一口ずつ交換しようか? ところで話があるって言ってたよネ?」
「昨日、昼寝に行った時、不破とほぼ同時に多目的ホールに入ったんだ。ホールはカーテンを閉め切っているだろ? 暗い隅っこに不破が仰向けに寝転んだんだ」
「それで?」
「不破の目が光ってた」
「不破くんが超能力者だってこと?」
「近くに俺も寝転がって、不破がぶつぶつ言ってた言葉もメモしてきたから調べてみようと思ってる」
「どんな言葉?」
「呪文めいてるんだよ。分かったら教える」
修と彩子は食べ終えて席を立った。
「おいしかったです。また来ます」
「ぜひぜひ」




