⑥ 彩子の超能力の破綻
S高の正門前の上り坂は、生徒たちの間で「地獄坂」と呼ばれている。
彩子も毎日この坂を息せき切って上る一人だが、今朝は交通事故の影響でバスの到着が遅れた。
この分では遅刻は確実なので、バスを降りると彩子は「停」(チョウ・とまる)という字を指で宙に書き、目をつぶって時間が停止するイメージを頭の中に描いた。
目を開けると、周囲の全てのものが動きをとめていた。
脇を走っていた軽トラックが彩子のすぐ横で停止しており、運転手が投げ捨てたタバコの吸い殻も空中に浮いたままだった。
フリーズしている他の生徒たちの間をすり抜けて地獄坂を上る時は、さすがに気が引けた。
正門を通り過ぎてもう大丈夫と歩みを緩めた時、彩子は一瞬息が止まった。
珠子が、正門の門柱の陰から青ざめた顔で走り寄って来たのだ。
「彩ちゃん!これ!これ!」
彩子の腕に取りすがった珠子は、銅像のように静止している周囲の生徒たちを指さしながら震えた。
その日の放課後、彩子と修は、真相を話すために「バーガー浦川」に珠子を誘った。
「言っても誰も信じないから、黙っておこうヨ」と、彩子は朝の出来事について珠子に口止めしたのだが、授業中もずっとうわの空で青い顔をしている珠子を見ていて良心がとがめたのだ。
彩子と修にとって秘密を打ち明けるのは一大決心だったが、合宿で珠子の圧倒的なオーラを見た修には、珠子は取り乱すことはないという確信があった。
超能力を得た経緯について、二人の口から説明を受けた珠子は安堵の色を浮かべた。
「そういうことだったのね。驚いた」
そう言いながら、珠子はそれほど驚いたふうではない。
「驚いたのはこっちも同じヨ。珠ちゃんだけフリーズしていなかったから」
「それにしても時間をとめることができるなんて便利だな。俺ならテストの時とか、そうだ、彩っぺが風呂に入ってる時に…イテッ!」
テーブルの下で彩子が思い切り修のすねを蹴った。
「珠ちゃん、今日はアタシ、反省させられた。せっかくの能力を遅刻防止みたいな自分の利益のために使っちゃダメなんだって。珠ちゃんがフリーズしなかったってことは、きっと神様のかわりにそれを警告してくれたのヨ」




