⑤ 彩子と修の超能力の秘密
合宿の代休日明けの日の放課後、修は彩子を学校近くのハンバーガー店「バーガー浦川」に誘った。
「あの落雷で病院に担ぎ込まれて目が覚めるまでの間、不思議な夢を見たんだ」
彩子は、ストローをくわえてコーラを飲みながら聞いている。
「イソップの『金の斧、銀の斧』に出てくるような神様が夢に現れて『そなたに超能力を授けよう。望みを言え。』って言ったんだ」
彩子はコーラをゴクリと飲み込み、1、2度せきこんだ。
自分が見た夢と全く同じだった。
「で、『人のオーラが見えるようにして下さい』って頼んだんだ」
「なんでオーラなの?」
「その頃、オーラを見ることができる方法をネットで見つけて練習したりしてたからさ。けど、今思えばもっと役に立つ超能力をお願いすればよかったな」
「そうヨ、もったいない。今聞いてびっくりしたけど、アタシも全く同じ夢を見たの。アタシはとっさに『いろんな超能力を下さい!』って言った」
ある程度予期してはいたが、全く同じ異変が彩子にも起きていたことを知って修も驚いた。
しかし同時に、彩子の大胆な注文を聞いて呆れもした。
「欲張りだなあ」
「だってアタシ、ジブリのアニメが好きで、まっくろくろすけを見たいとか猫バスで空を飛びたいとか思ってたから、欲しい超能力を一つに絞れなかったんだもん」
「言い訳していいわけ? いかん、南田先生の悪影響だ。で、神様は?」
「自分が言い出したことだから引っ込みがつかなくなったみたい。『ならば、チョウと読む漢字を指で宙に書き、その字のイメージが実現するように念ずればよい』って不機嫌な声で言ってすぐ消えちゃった」
「彩っぺの欲深さに神様も呆れたんだろうなあ」
ここで修がテーブル越しに身を乗り出して、彩子の胸元に視線を落として小声で言った。
「あの件以来、体に変化はない? おっぱいが大きくなったとか」
彩子は修をにらんで言った。
「ぶつヨ」
「それは冗談だけど、俺、自分のオーラを見ようとして鏡の前に行ったら、目が変になってたんだ」
今度は彩子が身を乗り出して顔を修に近づけた。
「別におかしくないヨ」
「電気をつけ忘れて洗面所に入ったから分かったんだ。暗い洗面所の鏡に映る目がかすかに光ってたんだ。昼間は分からない」
「猫みたい」
「俺もそう思って調べたんだ。猫は目の網膜の裏側に反射板みたいなものがあって、目に入る光を反射するらしい」
「へえ、面白い」
「へえじゃないよ。彩っぺの目も光るんだぜ。落雷で体じゅうがカッと熱くなって失神したから、俺たち目がおかしくなったんじゃないのかな。合宿で皿洗ってた時に彩っぺを見て『あ、光ってる!』って思ったから、暗いところに連れて行って確かめたんだ。それにバスの中でのオーラの件もあったから、彩っぺも超能力者になったんじゃないかと思ってね」
スタート合宿の時、人目につかない暗がりに連れて行かれた意味が分かり、勘違いしていた自分のことを彩子は気恥ずかしく思った。
「今夜じっくり見てみるけど、目が光って何かいいことあるの?」
「光るっていってもわずかだし、猫みたいに暗闇でものが見えるってこともないね。エスパーを見分ける印くらいにはなるかも。あ、それから、合宿での珠ちゃんのことだけど」
「珠ちゃんには本当に感謝してる。珠ちゃんがおでこをさすってくれたら嘘みたいに楽になったのヨ」
「さもあらんだよ。珠ちゃんが彩っぺを看病してる時のオーラを見て言葉が出なかったよ。ピンクと白がベースにあって、その上、金色のオーラまであったんだ。それも超能力者なみのレベルなんだ!」
「アタシにも分かるように言って」
一人で興奮していた修は、彩子の注意を受けて頭をかいた。
「ピンクは人を癒すオーラで、白は純真な心の持ち主に出るんだ。でも、もっとすごいのは高い精神性を表す金色だよ」
「確かにそういう特徴は珠ちゃんに当てはまるネ」
「黄金のオーラが仏様の後光のように放射状に出てた。普通の人には絶対ありえないことなんだ。彩っぺの熱がひいたのは珠ちゃんのオーラに包まれたせいだと思うよ。それで彼女もエスパーに違いないと思ったんだけど、目は光ってなかった。だからってわけでもないけど、珠ちゃんには俺たちの超能力のことは話さずにおこう。驚かせると悪いしさ」
帰宅した彩子は、夕食後の風呂上りに洗面所の電気を消して鏡に向かった。
修の言ったとおり、かすかではあるが目が光っていた。
彩子は「ひょっとしたら」と思って、胸のふくらみに片手を当てて「脹」(チョウ・ふくらむ)という字を宙に書いてみた。
Tシャツを通して胸が1カップ分ほど大きくなったのが感じられた。
彩子が「ひょっとしたら」と思ったのは、そのことではない。
鏡の中の目の光が、強さを増していたのだ。
慌てた彩子は、超能力を消すために指を鳴らした。
すると、目の光も胸のふくらみも元に戻った。
目の光はともかく、胸のふくらみは少しもったいない気がした。




