㊷ ハタおばさんと安仁屋の対面
翌日の土曜日に模試を終えてから、彩子は修に側にいてもらってセイラに電話をした。
セイラはイタコについては初耳だったらしく、「それでおばあちゃんの言葉の意味が分かったわ」と喜んだ。
彩子と修はハタおばさんを連れて東京へ行かねばならないものとばかり思っていたのだが、セイラに代わって電話に出た中森氏は自分のほうから出向くと言った。
「うちのプロダクションの演歌歌手たちの公演が来週の23日の夜に福岡であるんだ。そのついでに例の男とそっちへ行くよ。学園祭の時と同じホテルを予約するから、午後2時に来てくれないか」
約束の12月23日がきた。
彩子と修はハタおばさんと一緒に路線バスに乗り、ホテルの最寄りのバス停で降りた。
「去年のこの日は、アタシ、沖縄からやってきたおばあちゃんにたくさんのことを知らされた。それからいろんなことが立て続けに起こったのよネ。もう1年たつんだわ」
「今回はうちのおばあちゃんとの縁で、ハタおばさんに面倒かけてすみません」
修は、風呂敷包みを持って横を歩いているハタおばさんに頭を下げた。
「なんの、なんの。悪を懲らしめて人様の役に立つと思えば、水戸黄門みたいな気分だよ」
ホテルに着いた3人は、フロントで来意を告げると、最上階の和室スウィートルームに案内された。
中森氏とハタおばさんが初対面の挨拶をすませると、皆でソファーに座った。
「安仁屋幸三とかいう人は、どうしたんですか?」と彩子が尋ねた。
「ここで3時に会うことにしている。こちらで会わせたい人がいるという筋立てにしてね。ハタさん、よろしくお願いいたします」
ハタおばさんに頭を下げた後、中森氏は彩子と修のほうを向いて言った。
「君たちは安仁屋みたいな悪人とは顔を合わせないほうがいい。こっそり覗く程度にしておきなさい」
風呂敷包みを持って立ち上がったハタおばさんは、浴室の脱衣所で四国のお遍路さんに似た装束に着替えた。
ドアをノックする音が聞こえた。
「来たようだ。君たちは、彼が和室に入るまで隠れていなさい」
入って来た安仁屋と中森氏は、リビングの脇の襖を開けて畳の間に上がった。
2畳ほどの控えの間があり、さらに襖を開けるとメインの広い和室がある。
和室では床の間を背にして白装束のハタおばさんが線香をたいて座っている。
安仁屋のほうは、中森氏の言う「九州で会わせたい人」とはセイラの実母の信子に違いないと考えていた。
そして安仁屋は、信子と中森氏がセイラの出生の秘密を公表しないよう自分に泣きついてくるものと思って、口止め料の増額まで計算していた。
「あの、中森さん、この人は?」
「言ったろう。あんたに会わせたい人だよ」
ハタおばさんの正面に安仁屋を座らせた中森氏は、正対する二人を横から見守る位置に座った。
彩子と修がそっと控えの間に入って和室へ続く襖を細目に開けると、座布団に座っている安仁屋の背中が見えた。
安仁屋は不安げな様子でおどおどし出した。
「中森さん、私、この人、知らないです」
「静かにしなさい。会わせたい人というのは、この方がこれから連れてくる人のことだ。それでは、ハタさん、お願いします」
ハタおばさんは目をつぶり、修が先日渡した大きな数珠をゴリゴリと押し揉みながら、お経とも呪文ともつかない文句を抑揚をつけて唱え始めた。
しばらくするとハタおばさんは、すっと背筋を伸ばして口を閉じた。
そして語り始めた口調は、彩子にとっては懐かしい祖母の口ぶりそのものだった。




