㊵ 修の家系とJinJinのおばさんとのつながり
セイラ親子と話した翌日、彩子は修を「バーガー浦川」に誘った。
週末の東京行きの準備がある珠子を誘うのは遠慮した。
テーブル席に座って彩子がセイラからの電話の内容を話すと、修は難しい顔をした。
「触らぬ神に触らなければならないみたいだな。彩っぺのおばあさんは予知能力があるって言ってたけど、あの世からでもこうなることが見通せたのかな」
「何言ってるの?」
「亡くなったおばあさんが生きてる人に直接話すとしたら、イタコの力を借りるしかないじゃないか」
「JinJinのおばさん、神ハタさんのこと? イタコってお経をあげるお坊さんみたいな人でしょ?」
「違うよ」
霊能者のイタコが神がかりの状態になって霊魂を呼び寄せる「口寄せ」について修は説明した。
その説明を聞いて、彩子は嬉しそうに言った。
「じゃあ、JinJinのおばさんに東京に行ってもらって、昔ママが働いてたレストランの経営者の前でおばあちゃんの霊を呼び寄せてもらえばいいわネ」
「彩っぺのその単純なところ、尊敬するなあ。問題点が二つあるだろ? おばさんが今でもイタコができるのか、そして、できたとしても俺たちの頼みを聞いてくれるかどうか」
彩子はとたんに落ち込んだ。
「そうだネ。どうしよう?」
「何か手を考えてみるから時間をくれ」
「アタシもセイラさんにおんなじこと言って待ってもらってるの。だから、あんまりゆっくりはできないわ」
帰宅した修は気が重く、母親の前で一人黙々と遅い夕食を食べた。
「どうしたの? 元気ないわね」
修は、正面からぶつかるしかないと腹をくくった。
「母さん、神ハタさんが市内にいるよ」
心臓がバクバクするというのはこういうことだろうと思うほど、修の心臓の鼓動が速くなった。
彩子たちと時々立ち寄るお好み焼き屋JinJinの女主人が神ハタであることを、修は母親に知らせた。
母親は神ハタが生きていることには驚いたが、同じ市内にいることにはそれほど驚かなかった。
「店は浦川町だけど、会いたい?」
母親はしばらく考えてから言った。
「懐かしくはあるけど、やめとくわ」
問題を解決するための手がかりが途絶えたような気がして、修は落胆した。
「ハタおばさんが嫌いだとか、昔、仲が悪かったとか?」
「逆よ。ハタおばさんは私のお母さんに頭が上がらないはずだから、向こうが会いたがらないと思うわ」
母親は次のような事情を説明した。
「私のお母さん、あんたにとってはクエばあちゃんだけど、ハタおばさんがいなくなった後、そりゃあ苦労したのよ。戻って来るかもしれないからアパートをそのままにしておいたんだけど、いつまでもってわけにはいかないから解約したの。お金だけでもけっこうかかったみたい。何か月分かの家賃やガス、水道、電気代、それに家財道具の処分も業者を呼んだんだから。風の噂にでもそれを聞いてたら、ハタおばさんは私にも気兼ねして会おうとは思わないはずよ」
母親の話を聴いて、修は前途に少し光が見えた気になった。
「じゃあ、ハタおばさんに母さんのこと話してむこうが会いたいって言ったら?」
「それなら会ってもいいけど。あ、そうそう、ちょっと待って」
母親は寝室へ行き、タンスの奥深くにしまっていた大きな数珠を持ってきた。
「修がそのお店に行く時があったら、これを返してちょうだい」
「この数珠、何? すごく大きいね」
目の前に置かれた数珠は、輪の直径が50センチくらいで、珠の一つ一つも普通の数珠よりよほど大きかった。
「ハタおばさんが使ってた数珠よ。アパートの荷物を処分する時にクエばあちゃんが取っておいたの。捨てればバチが当たりそうだからって」
「ふうん。JinJinに今度いつ行くか分からないけど、とりあえず預かっておくよ」
この後は、自分と彩子の二人だけで事を運ぼうと考えた修は、母親にわざとそっけない返事をして数珠を手にした。




