④ 中学時の事件
スタート合宿2日目の夕食は飯ごう炊飯で、珠子の看病によって恢復した彩子も活動に復帰した。
ご飯が焦げている、カレールーが溶けていない、そんな不満も笑顔で言い合いながら食事を終え、後片付けに移った。
彩子の洗った皿を拭くために受け取ろうとして、修は手を滑らせて皿を落とした。
薄暗い戸外の炊事場なので、手元がよく見えないのだ。
何やってんの!と言いたげな顔を彩子が向けた時、修は目を見張った。
周囲の生徒に気づかれないように、修は彩子を手招きして洗い場を離れた。
宿泊棟の裏の暗がりに誘い込まれて、彩子は胸がドキドキした。
幼なじみの間柄だが、思春期に入ってからは修が異性としての好意を抱き始めたのを彩子は感じ取っている。
いきなり、修が彩子の両肩をつかんで引き寄せた。
鼻と鼻がくっつきそうな距離に修の顔が迫る。
彩子は、目を閉じた。
「目を開けて!」
「え?」
「やっぱりそうだ……」
彩子は肩に置かれた修の手をはねのけて言った。
「何なのよ、いったい!」
「彩っぺは、もしかすると何か超能力を持ってるんじゃないか?」
意外な展開に、彩子はさっき以上にドキドキした。
「なんで、そんなこと言うの?」
「2週間くらい前、バスに乗ったら彩っぺがいたんで声をかけようとしたら、前の方に詰めていったことがあったんだ」
「それで?」
「彩っぺの後姿を見ていたら、一瞬だけ彩っぺのオーラが巨大化したんだよ」
彩子は、「腸」能力を使って痴漢を撃退したことは明かさずに言った。
「てことは、修は人のオーラが見えるの?」
「昨日のハイキングの途中、林の中に大きなクスノキがあったけど、覚えてるだろ?」
修の指摘で、彩子はまたまた胸が騒いだ。
彩子たちの通っていた中学校には「高校入試100日前遠足」という行事があり、10月に日帰りで3年生3クラスがこの施設にやってきた。
その時、10か所のポイントを回るオリエンテーリングが行われたのだが、彩子が8か所までのポイントを回った頃に雷雲が空を覆い始めた
空模様がおかしくなったら引き返すように事前に指示されていたので、みな早めに戻り始めた。
完走者は賞品が貰えることになっていたので、彩子は残り2か所のポイントを目指すことにした。
しかし大粒の雨が落ち始め、稲光りと雷鳴との感覚もかなり短くなってきた。
さすがの彩子も危険を感じて大きなクスノキの下に身を寄せた。
少し遅れて修が走ってくるのを彩子は見た。
修が駆け込んだ瞬間、クスノキに雷が落ちた。
彩子も修も気が付くと、施設のある山のふもとの小さな病院のベッドにいた。
さいわい二人とも落雷による一過性のショックということで、その日のうちに帰宅できた。
遠足は金曜日だったため、翌週の月曜には彩子も修も何事もなかったかのように登校した。
しかし、実はこの時の落雷で彩子と修の身に大変なことが起こっていたのだった。
急に周囲がザワつきだしたので、彩子と修の回想は途切れた。
食事の後片付けが終わって、生徒たちがキャンプファイアーの会場へ移動し始めている。
「俺たちも合流しよう。話の続きは合宿が終わってから」




