㊲ 中森セイラのサプライズ登場
校長が赤いガウンを珠子にかけ、王冠を被せて、ミスコンテストは終わった。
珠子をはじめ、出場者たち全員がステージを降りたところで、校長がマイクを持ってステージ中央に進み出た。
「本来ならここで閉会式に移るところですが、皆さんに嬉しいお知らせがあります」
校長は、ここでもったいぶった間を取った。
「本校の創立60周年を祝って、なんと中森セイラさんがおいで下さいました!」
セイラがステージに姿を現すと、悲鳴にも似た歓喜の声々で体育館中がどよめいた。
体育館を出て帰りかけていた観客たちも、そのどよめきを耳にして何事かと引き返してきた。
たまたま取材に来ていた地元テレビ局のスタッフたちも小躍りしている。
自局だけのスクープであり、全国ネットで流れるかも知れないからである。
「皆さん、こんにちは。中森セイラです。匿名希望ということなのでお名前は申し上げられませんが、このS高の生徒さんから学園祭に来てほしいというお便りをいただきました。たまたま昨日、福岡で公演がありましたので、こうやって駆けつけることができました。創立60周年おめでとうございます。それでは、お祝いに歌わせていただきます。聴いてください」
挨拶を終えたセイラは、多くのヒット曲の中の数曲をつなぎ合わせたメドレーを歌い出した。
セイラが歌いだすと、すぐに彩子の耳の奥にセイラの声が届いた。
「アヤコチャン、ドコ?」
彩子は目をつぶって一生懸命念じた。
「ココデス、ココ!」
セイラの目が自分に向けられたので彩子は安心し、座席は二つ目のブロックだが最前列だから母の顔も見えるだろうと思った。
ところが2曲目に入ると、セイラはステージ中央の階段からフロアに降りた。
そのまま真っ直ぐ座席中央の通路を歌って歩き、左右の観客と握手しながら、座席の最初のブロックを過ぎた。
そして90度向きを変えて、彩子たちが座っているブロックの前を横切っていく。
3曲目に入った時、セイラは彩子と握手をした。
そして次に隣に座っている彩子の母に手を差し出した。
彩子の母親が握手した時、セイラの歌声が一瞬だけ詰まったように彩子には聞こえた。
名乗り合うことのできない親子がここにいる、そう思うと彩子は目頭が熱くなった。
来賓席を見やると、中森氏が1、2度うなずいたように見えた。
実母との対面は親には内緒だとセイラは言っていたが、中森氏はセイラの思いを見通していたのではないかと彩子には思えた。




