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今度のチョウ能力はどんな漢字を使おうかしら?  作者: 仲瀬充


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㊱ ミスS高コンテスト

学園祭も2日目になった。

朝のSHRが終わると、彩子は珠子に声をかけた。


「珠ちゃん、前よりも体つきがふっくらしてきたネ」

「学習合宿が終わったら急に食欲が出てきてお母さんも驚いてるの。太り過ぎじゃないかしら」


「ううん。前が痩せすぎだったからちょうどいいわヨ。でもちょっと顔色よくないネ」

「昨日、あまり眠れなかったせいかしら」


「無理もないわ。ミスコンで緊張してるんでしょ?」

珠子の体つきの変化は「脹」能力の効果だろうと思ったが、昨夜の寝つきの悪さが不破の呪いによるものだということまでは彩子にも分からなかった。


1、2年生のクラス参加は展示部門とステージ部門のどちらかに分かれている。

彩子と珠子は、クラスや文化部の展示を一緒に見て回り、バザーのカレーライスを食べた後は体育館に入ってクラスや文化部の出し物、有志によるバンド演奏などを楽しんだ。

日曜日ということもあって、生徒、保護者のほかに近隣の住民や中学生など、たくさんの人間が来ていた。


「じゃ、そろそろ行ってくる」

「うん、気楽にネ」

ミスコンテストの出場者の集合時刻になったので、珠子は体育館のステージの左脇の用具庫に向かった。


珠子と別れた彩子は体育館を歩き回って、ようやく母親の信子を見つけた。

「さっき来たとこなの。間に合ったみたいね」


S高は生徒だけで約千名いるので、体育館のフロアにシートを敷いて、約1500席のパイプ椅子が並べられており、通路を確保するために座席はいくつかのブロックに分かれている。

「ママ、あそこがちょうど二つ空いてる」

彩子と母親は、ステージから見て二つ目のブロックの最前列に並んで腰を下ろした。


ステージに向かって右側には、来賓用にテーブル席が設けられている。

校長の案内で中森氏が来賓席に着席するのが見えた。


ステージの右脇の用具庫から階段を上ると、セイラの控室に当てられている放送ブースがある。

彩子は、音響や衣装の世話をするスタッフと一緒にセイラがそろそろ体育館の裏の入り口から入ってくる頃だろうと想像した。


ステージ上ではブラスバンド部の演奏が始まった。

それが終わるとミスコンテストなのだが、出場者たちの控室になっている用具庫でちょっとした騒ぎが持ち上がった。


「さあ、みんな急いで準備して」

担当の女教師にせかされて皆、準備にとりかかった。


出場者たちは、ワンピースまたはワンピース型のパーティードレス、それに卓上鏡と化粧道具を持ち込んでいた。

制服を脱いで持参の服に着替え、化粧を終えれば準備完了である。


珠子も着替えた後、黒ぶちのメガネを外し、薄化粧を施した。

最後に三つ編みを解いてブラシで髪をとかし出した時、担当教師を始め、珠子を見た皆が用具庫の外に漏れるほどの驚きの声を発した。


その美しさは、数分前の珠子とは全くの別人であった。

道砂芽は驚きを隠して珠子を用具庫の隅へ連れて行った。


「金子さん、顔色悪いわよ。先生に言って保健室で休んだらどう? 心配だわ」

周囲に聞こえないように言って、道砂はここぞとばかり珠子を見つめた。


「ちょっと寝不足だけど、大丈夫みたい。ありがとう」

戻って行く珠子の背を見ながら、道砂は大きなショックを受けた。


相手の目を見つめながら言った自分の提案が通らなかったのは、道砂にとって初めての経験だった。

しかし、不破の呪いのほうは解けていなかった。


「ブラバンが終わったわ。1組から順番よ。教えたとおりに歩きなさい」

女教師が緊張した声でそう言ったのと同時に、会場にアナウンスが流れた。


「それでは次はお待ちかねのミスS高コンテストです。3年生の各クラスから選ばれた8名の中からミスS高が選ばれます。では1組の田添愛子さんからどうぞ!」

出場者は、用具庫からステージに移動し、ステージ奥の壁に沿って中央まで歩いた後、90度向きを変えてステージ奥から観客席へ向かって歩く。


ステージの奥行きだけでは短いので、ステージから観客席へ5メートルほど臨時のランウェイが付き出して設置されている。

その最前部まで来たら立ち止まってポージングを行い、その後は後ろ向きになってステージ奥まで歩き、壁に沿ってステージ右手へはけていくという流れになる。


女子の数が多い1組から4組までの文系クラスは代表者も粒ぞろいで、登場して歩くたびに特に男子生徒から大きな声援が送られた。

4組の道砂芽が登場した時は声援が最高潮に達し、指笛を鳴らす生徒もいた。


道砂の次が5組の珠子の番だった。

用具庫からステージに出て歩き始めようとした時、珠子の足が動かなくなった。


教えられたとおりに膝をほとんど曲げないモデルウォーキングを始めようと思うのだが、足が前へ出ない。

ステージの端で固まっている珠子を見て、客席がざわつきだした。


珠子は気を落ち着かせようと目を閉じた。

すると先ほどの「気楽にネ」という彩子の言葉を思い出して緊張が解けた。


珠子の足が動いた。

しかし、それはモデルウォーキングとは程遠い普通の歩き方だった。


ランウェイの最前部で立ち止まってもモデルらしいポーズを決めることなく観客席に向かってペコリと一礼しただけで、後ろ向きになるとまたスタスタと歩き出した。

珠子がステージからはけると、観客席からくすくす笑いと共に大きな拍手が起こった。


最後は出場者全員がステージ上に整列し、審査結果が発表される。

審査は公平を期するために3年生を除き、各クラス2名ずついる1、2年生の文化委員32名の投票によって行われた。


優勝者は、珠子だった。

発表の瞬間、珠子は信じられないというふうに手で口を覆い、道砂は珠子に拍手を送りながらも唇をかんでいた。

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