㉝ JinJinのおばさんの正体
6月初旬に高総体が終わると、3年生は放課後補習が始まった。
8月には学習合宿も組まれており、勉強漬けの日々になるかと思えば、彩子は気が重い。
そんな中、1学期の終業式の日、LHRで担任の南田から学園祭の話を聞いた女子は大騒ぎになった。
3年生女子の中からミスS高を選出するというのだ。
例年9月の最初の日曜日に文化祭が行われるが、校内行事活性化の目玉として今年は土・日の2日間にわたって「創立60周年記念学園祭」を開催することは年度当初に発表されていた。
1、2年生はクラス単位での全員参加だが、今年は3年生も何らかの形で参加させようということになった。
そこで、受験勉強に支障がなく観客受けする出し物をということで、3年生のクラス代表によるミスS高コンテストの実施が決まったと南田は説明した。
「クラス代表は学習合宿中に投票で決めるが、自薦でもいいぞ。ただし、ミスはミスでも人選ミスでしたというのは困るぞ、ハハハ」
終業式とは名ばかりで翌日から補習が始まったが、その最終日に彩子たち3人はJinJinに寄った。
1日置いて学習合宿に入るので、暫くJinJinに来られない3人はとりとめのない話を続けていたが、夕方も遅くなったので腰を上げた。
「小さいのがないんでまとめて払うから、二人とも自分の分を俺にくれ」
「大きいの持ってるなら、おごりなさいヨ」
「彩っぺがミスS高になったら、いくらでもおごってやるよ」
「それ、アタシがなれっこないって意味?」と、彩子は頬をふくらませた。
「二人は本当に仲がいいのね」
珠子がうらやましそうに言った。
「そんなんじゃないわヨ。出ましょ」
彩子と珠子が先に店を出た。
今日はおじさんがいなかったので、修は厨房のおばさんに声をかけた。
「おばさん、お勘定お願いします」
「はいはい。ありがと、ありがと」
お釣りを受け取った修は、硬い表情で店を出た。
薄暗い厨房にいたおばさんが修の声で振り返った時、おばさんの目がかすかに光っているのを修は見たのだった。
修は帰宅すると母親に尋ねた。
「母さん、行方不明になったイタコの人がいるって、いつか言ってたよね」
「どうしたの、突然」
「近ごろ、オカルトに興味が出てきてさ。教えてよ」
「お母さんもよく分からないくらい遠縁の親戚なんだけど、すぐ近所に住んでた人よ。お母さんが青森にいた子供の頃だから、急にいなくなっちゃったってことしか覚えてないわ」
「その人の名前は?」
「みんな『ハタさん』って呼んでたから『神ハタ』じゃないかしら」
修は、自分の顔色が変わるのを感じた。
「どうしたの?変な顔して」
「いや、おかしな名前だと思って」
「あんたのお婆さんだって『神クエ』じゃない。昔の女の人の名前はカタカナの記号みたいなものよ。『クエ』とか『ハタ』とか、人間か魚か分かりゃしないわね」




