㉜ 彩子たちと不破・道砂との遭遇
彩子たち3人は最終学年の3年生になった。
看護系の彩子と珠子は同じクラス、医学部志望の修は別のクラスになった。
それは仕方なかったが、彩子と珠子の担任が2年時に引き続いてダジャレ国語教師の南田であったことは不運と言うしかない。
文系教科の教師が3年理系の担任になることは珍しいのだ。
4月中旬に新入生歓迎遠足が行われた。
この遠足は、今年復活した行事だった。
昨年の土地不正取得疑惑の影響で受験志願者減となったS高は、人気回復に向けて学校行事活性化の方針を打ち出した。
その一つが歓迎遠足の復活であり、もう一つが9月に行われる「創立60周年記念学園祭」だ。
遠足の帰りは、ふもとの公園で解散になった。
学校に戻って制服に着替える生徒も多いが、彩子たちはジャージ姿のままJinJinに直行した。
「ようこそ、ようこそ。久しぶりだねえ」
店のおばさんが笑顔で迎えてくれた。
店にはS高のジャージを着た先客が一組いた。
不破流司と道砂芽だった。
彩子たちがうどんを注文すると、おばさんが厨房に顔を向けて「あなた、おうどん三つ」と伝えた。
厨房には田端老人がいた。
「えっ、あのおじいさんがどうして?」と彩子は厨房を見た。
「それに『あなた』って?」と言って珠子はおばさんを見た。
「私たち、この4月から夫婦になったんだよ」
おばさんはそう言って、照れくさそうにちらっと厨房を見た。
「3月いっぱいでアパートに空きができるっていうんで荷造りを済ませたのに、その人、転勤先が通える距離になったと言って居残ったのよ」
厨房の田端老人が、話を引き継いだ。
「それでわしは責任を感じて、荷物はわしのとこに運べばいいと言ったんだ」
彩子が小声でおばさんに言った。
「それがプロポーズだったんですネ。おじさん、知能犯だわ」
結婚したと聞いて彩子は、おばさんの手前、田端老人を「おじいさん」でなく「おじさん」と言った。
「おばさんはさっき『あなた』って言ってましたが、おじい…おじさんからはどう呼ばれてるんですか?」
結婚したからには、以前のように「ジンさん」と呼ぶわけにはいかないだろうと思って修は聞いてみた。
「最初は『なあ』とか呼びかけてごまかしてたけど、今は『ハタ』って呼んでくれるよ」
「ハタ?」と彩子たちは顔を見合わせた。
「私の名前なんだよ。秋田や青森でハタハタという魚がよく獲れるんで、こんな変な名前を付けたんじゃないのかね。親に確かめたことはないけど」
テーブルに置いてあるメニュー表に目を移した珠子が言った。
「メニューが増えたんですね」
これまでは「お好み焼き、たこ焼き、カレー、うどん」の4品だったが、新たに「焼きそば」が書き加えられている。
「うちの人が畑でつくっている野菜が使えるんでね」
「そうなんですか。うちの学校のあくどい買収話にひっかかって畑を取られなくて本当に良かったですね」
まずいと思った修が珠子に目配せしようとした時、奥のテーブルにいた不破流司と道砂芽が立ち上がった。
「ごちそうさまでした。お金、ここに置きます」
「ありがと。また、ぜひぜひ」
二人が出て行くと、店のおじさんが言った。
「ハタ、今の子たちは時々来るのかい?」
「いいや。初めて見る子たちだよ」
おじさんは、首をひねった。
「どこかで見たような気もするんじゃが」
彩子たちはハラハラした。




