㉛ 「JinJin」の由来
1月末にS高の一般入試が行われたが、土地の不正取得疑惑事件の影響で今年は志願者がかなり減少した。
月が替わって2月には1、2年生の校内マラソン大会が行われた。
走り終えて空腹だったので、彩子たち3人は放課後JinJinに立ち寄った。
「彩っぺは遅かったなあ。ワースト10に入ってたんじゃないか?」
「でも、彩ちゃん、体育祭の50メートル走は速かったよね」
「アタシ、長距離は苦手なんだ。走る前に『長』って書いてどうなるか試してみようかと思ったけど、自分のために力を使うのは不破くんの黒魔術と同じだと思ってやめた」
そこへ田端老人が店に入ってきた。
「ジンさん、今日はいい話を持ってきた。アパートが1戸、3月いっぱいで空くからどうじゃろう」
「そうねえ。でもこの年で引っ越すのは大変だし」
「引っ越しなら手伝うよ。家賃も安くするし、何ならタダでもいい」
「そんなわけにはいかないわよ。でも引っ越しは手伝ってもらおうかしらね」
田端老人の顔がパッと明るくなり、細かいことは後日打ち合わせようと言って店を出て行った。
彩子は小声で珠子に言った。
「おじいさんの嬉しそうな顔を見た? ただでもいいなんて、絶対におばさんに気があるわネ」
修は「ジンさん」という呼び方が気になり、おばさんに声をかけた。
「さっきのおじいさん、おばさんのことを『ジンさん』って呼んでたのは、この店の名前が『JinJin』だからですか?」
おばさんはにっこり笑って答えた。
「反対だよ。私の苗字は神様の『神』って書いて『じん』っていうの。それで店の名前を『JinJin』にしたんだよ」
「へえ、珍しい名前!」と、彩子と珠子が驚いた声を出した。
修は二人以上に驚いたが、そぶりには出さずに言った。
「おばさんは、青森の人ですか?」
「あら、どうして分かったの?」と、今度はおばさんが驚いた。
「『神』っていう苗字は青森に多いって聞いたことがあるんです」
「修は、ホントにいろんなこと知ってるネ」
修は、彩子たちに自分の母親の旧姓が「神」だということは話していない。
夕暮れ時になったので、3人は店を出た。
彩子の母方の石嶺家に数奇な過去があったように、自分の母親の一族にも何かあるかも知れないと思うと恐くなって、修は今日のことは自分一人の胸にしまっておくことにした。




