㉗ 中森セイラへのヒーリング
ヒーリングを依頼する中森氏に彩子が尋ねた。
「セイラさんの病状はどうなのですか?」
「セイラは乳腺の密度が高いらしく、9月の人間ドッグの時のマンモグラフィ検査では発見できなかった。かえすがえすも悔やまれる。先月末に入院した時には右胸だけでなく、腋のリンパ節にも転移していた。放射線治療や抗がん剤で進行をくいとめている状態だ」
「分かりました。右胸と腋ですネ。修、珠ちゃん、始めるヨ」
修がカーテンを閉め、壁に立てかけてあったパイプ椅子を3脚、ベッドの脇に運んだ。
セイラから見て左側に珠子用として1脚、残りの2脚は右側に置き、修と彩子が座った。
「じゃセイラさん、パジャマを脱いでください。右側だけでいいんですけど」
彩子はそう言ったが、セイラのパジャマはTシャツタイプだったので右側だけというわけにはいかなかった。
「お願いするわ」
セイラは、ためらうことなくパジャマを脱いだ。
病気のせいで痩せてはいるが、きれいな形の乳房が二つ盛りあがっている。
修は顔がほてったが、頭を小さく二、三度横に振ると、凛として引き締まった顔つきになった。
「珠ちゃんからお願い」
うなずいた珠子は、セイラに呼びかけた。
「セイラさん、左手を出してください」
差し出されたセイラの手を珠子は握手するように左手で握って右手も添えたので、両手で包み込むような形になった。
珠子は、目を閉じてありったけの想いをこめてセイラの平癒を心の内で祈った。
修は、珠子とセイラのオーラを見ていた。
セイラのオーラは案の定、黒いオーラで覆われていたが、基本的には情熱的な赤で、彩子と同じだ。
この色は、念力が強いという特徴もあり、その点でも二人はやはり姉妹なのだなと修は思った。
珠子を見ると、癒しの色であるピンクのオーラの上部に高い精神性を示す金色のオーラが重なった。
金色のオーラは次第に大きくなり、仏像の光背のような形で珠子の頭上を覆うと、反対にセイラを覆っていた黒いオーラのベールが薄れていった。
珠子には、握った手を通してセイラの苦しみや悲しみが自分に流れ込んできて、そしてそれらの情念が浄化されていくのが感じられた。
セイラは穏やかな表情のまま眠りに入っていった。
「ああ、いい気持ち。とってもいい気持ち……」
「珠ちゃんのお蔭でもう邪魔は入らないわ。次は私たちの番ヨ、修」
彩子は、指で宙に「澄」(チョウ・すむ)と書き、右手をセイラの右胸の上にかざした。
すると、自分の胸で実験したとおりにセイラの乳房が透け出した。
絡み合った網の目のような乳腺の内側に、レントゲンの画像のようにがん細胞のしこりが白く濃く見えた。
「修、これヨ」
うなずいた修は、手のひらをセイラの乳房の横に当てて目をつぶり、意識を集中して心の中で「ヒーリング!」と唱え続けた。
すると、少しずつしこりの白さが薄くなっていく。
それに比例して、セイラの顔色に健康的な赤みがさしてきた。
珠子は、彩子の「澄」能力を見るのは初めてなので、セイラの手を握ったまま、中森夫妻と同じように大きく目を見開いて見ている。
中森夫妻は目の前で繰り広げられる出来事に最初は驚愕したが、今は、彩子たちの後ろに立って祈るような目で娘の病巣が消えていくのを見守っていた。
「胸はもういいみたい。次は腋のリンパ腺ネ」
彩子と修が手をのけて彩子が指を鳴らすと、透けていた乳房は元に戻った。
二人は、額ににじんだ汗を袖でぬぐった。
「もうひと頑張りだわ。あの、ちょっとお手伝い願えませんか?」
彩子は、振り向いて中森夫人を見た。
「ええ。何をすればいいの?」
「セイラさんの右手をこんなふうに上に引っ張っていてもらえませんか」
そう言って彩子は、授業中に挙手をする時のようなポーズで、右手をまっすぐ上に挙げた。
彩子は、セイラの右肩の少し下に手をかざして、再び「澄」能力を発揮した。
昨日、自宅のパソコンでがんの画像を見て予習してはいたが、リンパへの転移を見つけるのは難しかった。
それでも腋から鎖骨にかけて5ミリ以上の大きさに腫れたリンパ節がいくつか見えた。
修がその部分の皮膚に手を当ててヒーリングを施すと、リンパ節の腫れが引いていく。
約10分後、彩子は指を鳴らして中森夫人に言った。
「もう結構です、奥様」
彩子と修はふうっと大きく息を吐いた。
そして、二人とも椅子に座ったままベッドに両手を突き、土下座するように顔をベッドにうずめて動かなかった。
中森氏が慌てた。
「君たち、どうした!」
セイラの手を放し、パジャマを裸のセイラにかけて掛け布団を引き上げながら、珠子が言った。
「彩ちゃんと修くんは超能力を使うと、とても体力を消耗するんです」
それを聞くと、中森氏はベッドに突っ伏した二人に向かって合掌した。
夫人も両手で顔を覆ってすすり泣きながら、何度も二人の後ろ姿に頭を下げた。




