㉕ 彩子たちと中森セイラの接近
修たちと別れて彩子が帰宅すると、リビングで両親と祖母が待っていた。
「彩子、さっき政夫さんと信子に話したんじゃが、わしの知り合いが東京のT病院に入院しておってな。容態が良くないそうじゃから、この手紙を持って見舞いに行ってくれんか。わしはもう東京まで行く元気はない」
祖母が言ったことは決して嘘ではないので、うまい言い方をするものだと感心して彩子は手紙を受け取った。
「彩子、いつ行ける?」と父親が言う。
「明日が終業式だから、あさってなら」
「じゃ、パパがネットで飛行機とホテルの予約をとる。東京は修学旅行で行ったばかりだから、一人でも大丈夫だな」
「それでネ、さっき修と珠ちゃんと会って3人で行こうって話してたの」
「彩子に付きあわせるのは気の毒じゃないか?」
「いいの。修学旅行ではスカイツリーなんかにも行ってないし、二人とも乗り気なの」
遅い夕食の後、風呂に入って2階の部屋に上がると祖母がついてきた。
「さっき渡した手紙はな、星子の今の親あてのものじゃ」
「分かった。でも、いきなり行ってアタシたちに会ってくれるかしら」
「わしが前もって星子あてに念を送っておくから大丈夫じゃろう。彩子たちの特別な力についても驚かんように手紙の中に書いておいた」
彩子は祖母を頼もしく思いながらも、テレパシーのことを「念」と言うところが祖母らしくておかしかった。
祖母が部屋を出ると、彩子はパジャマを脱いで上半身、裸になった。
右手を左胸の上にかざして、修にやってみせた「澄」能力を試してみた。
すると、乳房が次第に透けてきて、血管や乳腺が見え始め、これならいけそうだと自信が持てた。
パジャマを着てベッドに横になると、どっと疲れが出てすぐに眠りに落ちた。
冬休みの初日、彩子たち3人は昼前に東京に着いた。
彩子の父は、T病院に歩いて行ける距離のビジネスホテルを取ってくれていた。
チェックインは午後2時からなのでフロントに荷物を預かってもらい、近くの店で昼食をすませてT病院に向かった。
「何か、すごく緊張するネ」
彩子の言葉どおり、3人は戦場へ赴く兵士のように顔がこわばっている。
その頃、T病院でも、中森夫妻が緊張した面持ちで彩子を待っていた。
夫妻はセイラが入院してからは、プロダクションの業務は部下に任せてなるべくセイラに付き添うように努めていた。
するとセイラは、もうすぐ誰々が来ると言って見舞客の来訪を口にした。
それがことごとく当たるので、最初は驚いていた夫妻も今ではセイラに特別な能力が備わっていることを信じて疑わなかった。
そのセイラが、昨日、引き締まった顔で告げた。
「パパ、ママ、明日はとっても大事な人が訪ねて来るわ。一緒に会ってね」




