㉓ 中森セイラと彩子の関係
修学旅行が終わって家に帰り着いた彩子は、夏休みに祖母に言われた言葉を思い出した。
「この先、何か困ったことや自分ではよう分からんことが出てきた時は、相談に来ればよい」
両親に聞かれないよう、彩子は自分の部屋から電話をした。
「あ、おばあちゃん? 彩子だけど、」
彩子は、修学旅行の研修先で起こったことを話した。
「やっぱり、そうじゃったか……」
「やっぱり?」
「わしも彩子に話さねばならんことがあるからそっちへ出て行くわい。都合はどうじゃ?」
12月中旬に2学期の期末テストがあるので、彩子は祖母にテストが終わってからがいいと伝えた。
電話を切る時に、祖母は妙なことを言った。
「夏に彩子が来た時、若い歌手の話をしとったろう。あの子は今、どうしとる?」
「中森セイラのことネ。乳がんで入院してるってテレビで言ってた」
「どこの病院じゃ?」
「さあ、知らないけど」
「そうか。ああ、そっちへ行くことはわしから信子に連絡する」
アイドルなどに興味はなさそうな祖母がどうしてセイラを気にするのだろうと思いながらスマホで検索してみると、驚いたことにセイラの入院先は彩子たちの研修先のT病院だった。
「それじゃ、聞こえてきたあの声はセイラ?」
「アタシとセイラに何の関係が? セイラとおばあちゃんとは?」
彩子には、祖母に聞かねばならないことが多くあった。
数日後、彩子が学校から帰ると母親が言った。
「おばあちゃんが今月の20日過ぎにこっちへ出てくるって。それに冬休みに彩子に東京に行ってもらいたいって言ってたわよ」
「えー、修学旅行で行ったばかりなのに?」
「ママもそう言ったんだけど、東京の知人がどうとかで、詳しいことは来てから話すって」
2学期の期末テストが終わり、彩子の祖母がやってきた。
祖母は夕方遅くに着いたので、彩子の父親も帰宅しており、玄関に出迎えた。
「おばあちゃん、お久しぶりですね」
「ほんにのう。それにしてもこっちは寒いなあ。信子も変わりはないか」
「うーん、近頃ちょっと頭が重いけど元気よ。正月もこっちで過ごせば?」
「そうしたいが畑の手入れもあるし。まあ、何日か世話になる」
祖母は、娘である彩子の母親はもちろん、彩子の父親も琉球大学生だった頃から知っているので、その日は思い出話に花が咲いた。
翌日、彩子は母親の言いつけで市内の観光名所の案内に祖母を連れ出した。
彩子は祖母に尋ねたいことがたくさんあったので、案内もそこそこに街なかの喫茶店に祖母を誘った。
「これは政夫さんも知らんことじゃから、そのつもりでな」
話は祖母のほうから切り出した。
「信子には彩子以外にもう一人、子供がおる。もちろん政夫さんと結婚する前の話じゃが」
「えっ、えっ?」
「信子は高校を出てすぐ那覇のレストランで住み込みで働くようになったんじゃが、客にはアメリカの兵隊さんも多かった。その一人と付き合い出して子供ができたんじゃ。その米兵は結婚するつもりだと言っておったが、結局は信子を捨ててアメリカへ帰っちまった。子供はもう堕ろすことはできん月数になっておったのにな。わしも連れ合いを亡くしたばかりで生活が苦しかったもんだから、レストランのご主人が気の毒がって、産まれた子を東京郊外の施設に世話してくれたんじゃ。出生届にはわしが『石嶺星子』と名付けて私生児として届け出た」
「その後、ママは?」
「かわいそうに、泣いてばかりおった。だもんじゃから、わし一人で再開した食堂を手伝わせることにした。手元に置いておけば安心でもあったし」
「それでパパと出会ったのね」
ここで彩子は思い当たった。
「待って。ママの産んだ子はアメリカ人とのハーフで、名前が星子ってことは?」
祖母は彩子の目をまっすぐ見て答えた。
「歌手の中森セイラは、彩子の父親違いの姉じゃ」
「中森」はセイラを引き取った中森プロダクションの社長夫妻の姓だ。
今を時めく人気歌手の中森セイラが自分の姉だと知って、彩子は息が詰まった。
「彩子が夏に沖縄に来た時、テレビに出とったあの子の話をしたろう。生まれてすぐ施設に預けられたハーフで、星子という名前じゃと。それでわしはセイラが信子の子だとピンときた。人気者の歌手になったのかと思って喜んどった。じゃがの……」
祖母の顔が曇った。
「おばあちゃん、どうしたの?」
「ひと月ほど前からかのう、あの子が『助けて』と言い出したんじゃ」
「え、おばあちゃんにも?」
「あの子は生まれた時から目に光があった。それで星子と名付けたんじゃが、周りの者は混血児特有の目としか思っていなかった。しかし、わしはユタの血を引いているとすぐ分かった。星子は霊的な波長が合う者と通じ合える力を持っているようじゃ。それで、彩子やわしの耳にあの子の声が聞こえるんだろうて」
これまで気味悪く思っていた声の正体が分かって彩子は驚きもしたが安心もした。
「WiFiと同じだネ。発信者のセイラがいるT病院だったから、アタシははっきり受信できたんだ」
そう言いながら、沖縄にいて東京のセイラと交信できる祖母の霊能力の高さに彩子は感心した。
「ワイワイ? 何だね、それは?」
「あ、何でもない。それよりママから聞いたけど、アタシに東京に行ってほしいって?」
「星子に助けを求められても、わしにはどうすることもできん。しかし、星子の声が彩子にも聞こえたと電話で知らされて、道が開けた気がした」
「どういうことなの?」
「超能力を身に着けたのは自分だけじゃなく、傷を治せる男の子もおると彩子が夏休みに言うたじゃろう? それを思い出してな」
「ああ、修のことネ。それで東京へ?」
「そうじゃ。二人で力を合わせて星子を救ってやってくれんか」




