㉑ 彩子たちの進路
南田の国語の授業は、いつものようにダジャレから始まった。
「今日は慣用句の授業だ。しっかり覚えないといかんよう」
「『地獄で?』、はい大橋、何と言う?」
「仏です」
「ピンポーン! 地獄で仏に会ったように嬉しいというんだが、先生は腑に落ちん。なんで地獄に仏様がいるんだ? それなら『極楽で閻魔』もアリだと思わんか?」
皆、思わないという顔で聞いている。
「次は難しいぞ。相川、前に出て漢字に直してみろ」
南田は黒板に「こうじまおおし」と書いた。
指名された生徒は、黒板に「工事間多し」と書いて席に戻った。
「どういう意味だ、相川」
「道路工事をしている期間が長いっていうような……」
「ブブー! 正解はこうだ」
南田は「好事魔多し」と板書した。
「伊達、どんな意味だと思う?」
いきなり指名された彩子は考える間もなく、漢字のイメージからのひらめきを口にした。
「スケベな悪魔が多い」
「アーハッハッハ! 最高だ!」
南田につられて生徒たちも爆笑する中で、彩子は赤面した。
「『好事魔が多い』じゃなくて『好事は魔が多い』ということだ。つまりだな、いいことには邪魔が入りやすいという意味だ」
授業も終わりに近づいたころ、南田は12月の修学旅行に触れた。
「みんな、自主研修の希望分野は決まったか? 明日が締切だぞ」
S高では4泊5日の東京、京都への修学旅行中、丸1日をかけて東京で自主研修を行う。
大学の学部選定の参考にするために、将来の希望職種分野ごとにグループになって、事前にアポを取った企業等を訪問するというキャリアガイダンスだ。
放課後、修と珠子が彩子の側へやってきた。
にやにやしながら、修が彩子に声をかけた。
「これからJinJinに寄って、スケベな話をしないか?」
彩子は、修のすねを蹴った。
店に着き、注文したメニューが運ばれてくると、他に客がいなかったので彩子は例の件を口に出した。
「おばさん、田端さんの畑、よかったですネ」
「そうなのよ、そうなのよ。田端さん、すっかり元気になっちゃって。あ、ようこそ、ようこそ」
店に入って来た客にも嬉しそうな顔を向けて、おばさんは彩子たちの席を離れた。
「実はネ……」
彩子は、緊急説明会で「喋」能力を使ったことを珠子と修に話した。
S高の土地取得が白紙撤回になったという結果だけしか知らなかった二人は驚いた。
「彩ちゃんって、やっぱりすごい!」
「それをおばさんに言えば、何かおごってくれるかもしれないな」
「話せるわけ、ないじゃない。それより、南田先生の言った研修分野、二人とも決まった? 修は?」
「うーん、進路は理学部か医学部かで悩んでるけど、今回は医者の話を聞いてみようと思う」
「修は頭いいもんネ。アタシは看護師。珠ちゃんは?」
「私も看護系だけど、将来はホスピスで働きたいと思ってるの」
「へえ、特殊な分野に目をつけたね。珠ちゃんは彩っぺと違って優しいし、オーラ的にも向いてると思うよ。おっと」
修は、彩子のむくれた顔を見て足を椅子の下に引き寄せた。




