⑳ 不破親子の陰謀の破綻
彩子たちが悔しがった不破家の陰謀は、意外なきっかけで崩れることになった。
部室建設予定地の取得にめどが立ったとの報告が生徒総会でなされたからである。
子供からそれを聞いた保護者の中に県庁の土木課の職員がいて首をひねった。
その土地は、県が地主に対して譲渡の依頼を以前から持ちかけていたからである。
そして、JinJinで田端老人が店のおばさん相手にグチをこぼしたが、それを聞いていたのは彩子たちだけではなかった。
彩子たち以外にS高生のグループが二組いたが、その中の一人が帰宅して夕飯時にJinJinで聞いた話を何気なく口にした。
それを聞いた父親が地元紙の社会部の記者だったものだから、何かあると直感して取材を始めた。
その結果、S高の強引かつ不正な土地取得疑惑が報じられた。
こうなると保護者間にも疑惑究明の機運が高まり、緊急説明会がS高の図書館で開かれることになった。
主席者は、理事長及び理事、PTA役員、PTA評議員である。
クラスから1名ずつ選出されているPTA評議員が保護者代表という形になる。
彩子は、マイク設置等、放送部の手伝いを買って出て、図書館に付属した司書室に詰めていた。
説明会は不穏な雰囲気の中で始まったが、理事長は切り抜ける自信を持っていた。
「地主さんは畑の売却を渋っておられたのですが、私自身もお願いをし、生徒会の生徒たちも訪問して熱心に部室の必要性を訴えたので、地主さんも心を打たれて仮契約をご了承いただいた次第です」
評議員の一人が手を挙げて発言を求めた。
「新聞報道によると、暴力団が押しかけたということですが」
ここで彩子は「喋」(チョウ・しゃべる)という字を指で宙に書き、本人の意志とは無関係に本音がペラペラと口から出るようすをイメージ化した。
「そんなことは決して……、あれ? ええと、地主さんが頑なに拒むので、つい、うちの係累の建設会社の若い者を何人か差し向けはしました。あれ?」
理事長は答弁の途中で自分の口を押さえたが、口は勝手にしゃべり続けた。
さらにまた別の評議員が手を挙げた。
「これも新聞報道によるものですが、あの土地は道路拡幅のために提供してくれるよう県が地主に申し入れていたということです。理事長がそれを事前に知っていたとなれば、証券会社のインサイダー取引と同じで、安く買った後に県に高値で売り抜けるという大変な問題になりますが」
「全くもってそんな……、え? え? 実は……知人を通じて9月の初めごろに、」
理事長は、県からの情報漏えいを認め、しかし転売はせずに部室を建設するつもりだったということをしどろもどろな口調で述べた。
PTA役員席の不破健司は、情報漏えいに関して自分の個人名こそ出なかったものの、青ざめた顔で理事長の答弁を聞いていた。
結局、隣接地の取得に関しては色々と問題があり、白紙撤回という形になったのだった。




