⑲ エスパー道砂芽
JinJinを出ると、話し足りない雰囲気を察して珠子が言った。
「うちに寄ってもう少し話していかない? うち、すぐ近くだから」
JinJinから5分ほど歩いて、珠子の家の前に着いた時、彩子と修は立ちすくんだ。
広い庭を持つ豪壮な木造2階建ての邸宅が、夕空をバックにしてシルエットを浮かび上がらせていた。
「珠ちゃんのお父さんって、お医者さんか何か?」と修が尋ねた。
「ううん。商事会社をやってるの」
「えっ! ってことは、金子商事の社長さん?」
彩子が「ひえー!」とおどけた声を出したのも無理はなく、金子商事は地元の商事会社では最大手だ。
「どうりで、アタシたちが珠ちゃんと仲良くしてるのをみんながうらやましがるわけだわ。社長令嬢だったのネ」
「大げさに言わないで。さあ、入って」
奥から出てきた珠子の母親を見た彩子と修は、またまた驚いた。
女優みたいな、見とれるほどの美人だった。
珠子は、二人を紹介した。
「伊達彩子ちゃんと久世修くん」
「まあ、いらっしゃい。珠子からいつも話を聞いてるわ。1年の時は親しい友だちがいなかったから喜んでるの。ゆっくりしていってね。少し遅くなるっておうちに連絡しておいたほうがいいわ」
金子商事の社長宅に寄っていると言えば親も文句は言わないだろうと思いながら、彩子と修はスマホを手に取った。
広々としたリビングは恐れ多いので、2階の珠子の部屋で話すことにした。
彩子が修に言った。
「田端さんの話、驚いたわネ」
「しかし、同じ美術部とはいえ、なんで道砂さんが不破に協力するんだろう?」
「知らないの? あの二人は、中学校の時から噂のカップルよ。落雷の時だって、アタシと修は偶然クスノキの下で出くわしたけど、あの二人も雷に打たれたってことは、最初から一緒にいたに違いないわ。それにネ……」
彩子は、体育祭の夜に両親と行った外食先でS高の理事長と不破の父親の密談を盗み聞きしたことを話した。
「うーん、それで生徒会長に立候補したのか。二人の美大進学の話が絡んでいたんだな」
「その道砂さんのことで、私も気になることがあるんだけど」
珠子が話し始めた時、部屋のドアがノックされた。
珠子の母親がドアを開けて宅配のピザを珠子に手渡し、部屋には入らずに戻って行った。
珠子はピザのケースを開けながら、先ほどの続きを話した。
「何日か前の放課後、生徒会室から顔を出した道砂さんを見かけたの。道砂さんは帰ろうとしてた1年生の女子を呼び止めて『もう少し手伝って。』って言ってた」
「それで?」と、彩子と修はピザを食べながら先を促した。
「その子、急いでたようだったのに、道砂さんに声をかけられたら『気をつけ』みたいな姿勢で固まっちゃって生徒会室に戻ったんだけど、その時、道砂さんの目が光って見えたの」
彩子と修のピザを食べる手が止まった。
「やっぱり道砂さんもエスパーだったんだな」
「私、まるでゴルゴン3姉妹みたいだって思った」
「なるほど。それで田端さんも道砂さんに見つめられて断りきれなかったんだな」
話に取り残された彩子が言った。
「ゴルゴン3姉妹って?」
「ギリシャ神話に出てくる姉妹だよ。メドゥサが特に有名だ。髪の毛の1本1本が蛇になっていて、メドゥサの光る目を見た者は石になって動けなくなるんだ」
「メドゥーサ、メドゥーサ? あっ!」
「どうしたの、彩ちゃん?」
「ほらっ、道砂さんの名前を外国人みたいに姓名をひっくり返せば、」
「『芽道砂』で『めぐみみちすな』でしょう?」
「漢字の読み方を変えれば『めどうさ』ってなるじゃない!」
「『めどうさ』で『メドゥーサ』ね、彩ちゃん、すごい!」
こじつけを面白がった珠子が彩子に言った。
「不破くんはどうなの?」
「『流司不破』で『りゅうじふわ』よネ。読み方を変えても『ながれつかさふわ』にしかならないわ」
「まてよ、そうでもないぞ。『流転』って言葉もあるから『流』は『る』と読める。そしたら『るしふわ』だ!」
「あっ、ルシファーね」
また彩子が一人取り残された。
「なあに、それ?」
「彩っぺはそれも知らないのか? 堕天使ルシファーだよ。ルシフェルとも言う。魔王サタンの別名だよ」
「へえ、そうなの? 偶然の一致かもしれないけど、道砂さんも不破くんもすごい名前だネ」
「名は体を表すってのは本当なんだな。今日の生徒総会の時、壇上の二人のオーラを見てみたんだ。基本的には二人とも神秘性を表す紫色だったけど、嫌な黒いオーラがかかっていた」
「ふうん。それを聞くと田端さんの畑、何とかしてあげたいけど、アタシたちにはどうしょうもないわネ。不破くんと道砂さんの超能力の話をしても、誰も信じないだろうし」




