⑱ 田端老人の後悔
2学期中間テストが終わって定例の生徒総会が体育館で開かれた。
執行部提案のうち、文化部の予算アップが一番もめ、自分たちの予算が削られることになる運動部から反対意見が出された。
しかし、ステージ上の生徒会役員席で道砂がマイクを握って提案の根拠を述べながら見回すと、反対派は鳴りを潜めた。
結果としては、とりあえず生徒会予備費をとりくずして文化部に回すことで決着した。
文化部の部室棟建設については、用地取得にめどが付いたという報告が学校側からなされ、文化部を中心に拍手が起こった。
マフラーの色と柄の自由化が職員会議で了承されたとの報告には、体育館中が喚声に包まれた。
放課後、彩子たち3人はJinJinに寄った。
先客にはS高の女子生徒たちが2グループいた。
彩子たちのお好み焼きがテーブルに運ばれてくると、暫くして店の戸が開いた。
「あら、田端さん。どうしたの?」
おばさんが水の入ったコップを持ってきて向かい合せに座ると、田端老人はテーブルに肘をついて両手で頭を抱えた。
「仮契約書に判を押しちまった」
「えっ?」
「暴力団みたいな連中が押しかけてきて『おたくのアパートは古いから、火事になったらあっという間に焼けるでしょうなあ。』などと脅すもんで、まいっていたんだ」
「まあ、ひどい!」
「それに近頃は不眠症ぎみで、畑などどうでもいいように思いだしてもいたんじゃ」
田端老人と店のおばさんのやりとりに耳をすませていた彩子は、修と珠子を見て言った。
「不破くんの呪いじゃないかしら?」
「シッ!」
修が人差し指を口に当てて彩子をにらんだ。
田端老人は、店のおばさんを相手に話を続けた。
「おとといの日曜日には、S高のPTAのお偉いさんが息子たちまで連れてきた」
「息子さん? 何のために?」
「その息子がS高の生徒会長とかで、わしの畑に部室を建てさせてくれっちゅうことだった。その子と話してると具合が悪くなって、一緒にいた女の子が同じことを頼んだ時には、もう断りきれんじゃった」
「不破と道砂さんだ!」と修が思わず口に出した。
「シーッ!」と、今度は彩子と珠子が修をたしなめた。
「仮契約なら、取り消せるんじゃないの?」
「県からも土地を手放す時は買い取らせてくれと言われていたから本契約の時に断ってみるが、仮契約とはいえ判を押しちまったからなあ」
田端老人は力ない足どりで店を出て行った。
見送るおばさんも落ち込んでいるようすなので、彩子たちは長居する気分になれずに店を出た。




