⑮ 田端老人の憂鬱
体育祭が終わると、9月末に2学期の中間テストが控えている。
試験勉強に入る前の区切りに彩子と修がJinJinに立ち寄ると、前にも見かけたことのある老人がいた。
他に客はいなかったが、おばさんが彩子たちにお好み焼きを運んでくると、その老人は席を立って彩子たちに鋭い目を向けて出て行った。
「今出て行ったおじいさんがおばさんに気があるんじゃないかって、俺、この間言ったけど、おばさん、その話をおじいさんにしました?」
「そんなこと言うもんかね。何でだい?」
「店を出る時、俺たちをにらんだみたいな気がしたから」
首をかしげてしばらく考えていたおばさんは、何かに思い当たったような顔つきで修を見た。
「ああ、ああ。あんたたちがS高の生徒だから、田端さんはいい気持ちがしなかったんじゃないかね」
「え、田端さん? あのおじいさんはアパートを持ってるって、おばさん、言ってたけど、S高のグラウンドのすぐ横の田端アパートですか?」
「そうだよ、そうだよ。言わなかったかね」
S高のグラウンドの南側には細長い私有地があり、3階建てのアパートと地主が趣味でやっている畑がある。
アパートの計6戸のうちの1戸には、大家である田端が入っている。
「田端さんは、何かS高に恨みでもあるんですか?」
「あの人の畑をS高が買収したいらしいんだよ。田端さんがうんと言わないもんだから暴力団みたいな連中まで押しかけてきたってさ」
話の途中から、彩子は体育祭の夜の出来事を思い出して胸がざわついた。
しかし、おばさんの前で不破の父親とS高の理事長との密談を明かすわけにはいかないし、大人の問題に自分たちが立ち入る必要もないと思った。




