⑭ 不破流司の父親とS高理事長との密談
体育祭が終わった日の夜、夕食の支度がおっくうだからという母親の言葉で、彩子たち親子3人は近所のお手軽割烹の店に入った。
彩子たちは畳敷きの小上がりの一番奥に座った。
そのさらに奥には、個室がいくつか並んでいる。
メニューを見ていると、彩子たちの隣の個室に男性の二人連れが入った。
うち一人は不破流司の父親で、彩子は体育祭の来賓席で見かけて顔を知っていた。
不破の父親が個室に入る時に発した言葉が彩子は気になった。
「理事長、店内にお知り合いの方はいらっしゃらなかったでしょうね?」
「今となりの部屋に入った人、同じ中学だった不破君のお父さんヨ」
「不破さんっていえば、たしかPTA副会長をやってる人ね」
「不破文具店のご主人だろう? 官公庁相手に文具の卸を手広くやっている人だ」
彩子が背中をもたせかけている壁を隔てた隣の部屋で、PTA副会長とS高の理事長が人目をはばかって何を話しているのか、彩子は気になった。
テーブルの下に手をおろして指で「聴」(チョウ・きく)と書き、料理を口に運びながら隣室に意識を集中した。
「生徒会長になったあんたの息子の公約を名目にして隣接地の取得に入っているが、今日はその件で話があるとか?」
「ええ。うまく買収できれば、理事長さんの関連会社が部室棟の建築を請け負ううまみが出てきますね」
「それは言うな。保護者に変に勘ぐられたらまずい。しかし、なかなか地主が首を縦に振らん」
「私があの土地の取得を勧めたのには、実はもう一つ裏があるんです。私はあちこちの官公庁に出入りしているんですが、極秘情報を手に入れました。あの土地は側を通っている県道の拡幅工事の対象になっていて、その方針が近々県から公表される予定になっているんです」
「不破くん、それは本当か!」
「はい。ですから今のうちに安く買い叩いておけば、県が高値でこちらに交渉を持ちかけてくるのは間違いありません。部室を建設するか、高値で転売するか、どっちに転んでも損はありません」
「ううむ。それなら強硬手段を使ってでも交渉を続けよう。しかし、あの地主は頑固だからなあ。こっちの足元を見て売値を吊りあげてきたりしたら、元も子もない」
「その場合は、私にお任せください」
「何か手があるのか?」
「息子たちを連れて行って泣き落とし作戦を仕掛けます。未来ある子供たちのためということなら、相手も折れるでしょう」
「そんなことでうまくいく相手とは思えんが」
「ともかくも手詰まりになったらご連絡ください。そのかわり……」
「分かっておる。うまくいったら、外部理事の席が空いた時に君を後釜に据えよう」
「そうして頂ければ、私の仕事先も学校関係に広がりますし、息子も特別推薦枠で進学を……」
「もういいのか彩子、まだ残ってるぞ」
父親の言葉で彩子は我に返った。
「一日中、日に照らされて疲れたんでしょう。帰ったら早めに休みなさい」
彩子は隣室の話の続きが気になったが、母親に促されて席を立った。




