⑬ 珠子のヒーリング
S高では3年生の受験対策のために、9月に入って中旬までに文化祭と体育祭の両方をすませてしまう。
9月の第1週の日曜日に文化祭が終わると、次週の体育祭に向けての練習が本格的になった。
体育祭前の予行練習が終わった日の放課後、彩子たち3人はJinJinに寄った。
3人が店に入るのと入れ替わりに一人の老人が出て行った。
「おばさん、また来ました」
「ようこそようこそ。久しぶりだね。さあさあ、空いてるところに座って」
修は、今しがた店を出た老人が前に来た時もいたのを思い出した。
「今の人、旦那さんですか?」
「私はずっと独身よ。さっきの人は開店以来ちょくちょく来てくれるお客さん。私の住まいの家賃が高いってこぼしたら、自分の持っているアパートに移ったらどうかって言ってくれるの」
「おばさんのこと、好きなんじゃないですか」
「こんなばあさんをからかうもんじゃないよ」
修の肩のあたりを軽くはたいて、おばさんは水とおしぼりを取りに行った。
「おばさん、かわいいな、顔を赤くしてたよ。ところで何にする? 俺、たこ焼き」
「アタシ、疲れてて食欲ない」
「じゃ、たこ焼きを彩ちゃんと私で半分こしようか」
「うん、ありがと」
おばさんが水とおしぼりを持ってきた。
「俺たち3人だけど、たこ焼き2人前でいいですか?」
「ええ、ええ、いいわよ、いいわよ。遠慮しないで」
おばさんが厨房へ行くと、JinJinは初めての珠子が言った。
「ここのおばさん、言葉を繰り返すのね」
「気づいた? 面白いでしょ? ようこそおばさんって呼ばれてるの」
店のテレビのワイドショーが、芸能ニュースを伝え始めた。
「中森セイラのアルバムがヒットチャート1位だって。彩ちゃん、セイラが好きなんでしょう?」
「うん。ハーフだから色白で可愛いし、23歳には見えないよネ」
「セイラは最近、入院したんだろ? 何の病気?」
「体調がよくないらしくて検査入院みたい。あ、来た、食べよ」
運ばれてきたたこ焼きを彩子は1個食べると、爪楊枝を置いた。
「やっぱ、食欲ない。近頃、耳鳴りもするんだ」
「耳鳴り? 年寄りみたいだな」
「耳の奥が時々キーンって鳴るの」
「彩ちゃん、放送部の手伝いで走り回ってたから疲れたんだよ。ちょっと手を出してみて」
横に座っている珠子のほうに彩子が上体をねじって両手を差し出すと、珠子は同じく両手で彩子の手を握って目をつぶった。
しばらくして彩子が「あっ!」と声を上げて手をふりほどいた。
修は彩子でなく珠子のオーラを見つめていた。
「珠ちゃん、何したの? すっと疲れが飛んでいっちゃった!」
「小学生の頃、お母さんがインフルエンザで高熱を出して苦しんでたことがあったの。その時私、お母さんのおでこに手を当てて『よくなれ、よくなれ』って一生懸命祈ったら、お母さん、スヤスヤ寝ちゃった。春の合宿の時に彩ちゃんが熱を出した時にそのことを思い出したのよ。今回もうまくいったみたいね」
「珠ちゃんも超能力者なんだネ。修とおんなじヒーリングだ」
「違うわよ。修くんみたいに傷も治せるかと思って、自分の体の小さな傷をさすってみたけどだめだったもの」
修も改めて興奮していた。
「珠ちゃんはやっぱりすごいよ。昔の人は病気というのは、死霊や生霊などの邪気がとりついて起こるって考えたんだ。『疲れる』の語源は『憑かれる』っていう説もあるくらいだ。今、珠ちゃんには合宿の時と同じように金色のオーラが大きく出てた。俺の白いオーラの治癒能力とは違って、疲れに乗じて彩っぺに取り憑いていた邪気を払ったんじゃないかと思う。でも、力を使ったら疲れない?」
「ううん。何ともないわ」
それを聞いて彩子が言った。
「珠ちゃんの純粋な心から自然に発揮される力のほうが、アタシたちよりも上等なのヨ」




