⑪ 彩子に流れる血
夏休みに彩子は、母方の祖母が一人で暮らしている沖縄へ行くことになった。
彩子の母親の信子にとって沖縄は生まれ故郷なのに、あまり帰省したがらない。
彩子が両親から聞いている話では、祖母は昔自宅で大衆食堂をやっていて、彩子の母も店を手伝っていたということだ。
場所がら食堂の客は琉球大学の学生たちも多く、その一人に彩子の父親の政夫がいた。
政夫と信子は同じ年齢ということもあって恋仲になり、大学卒業と同時に結婚して政夫の郷里の九州に移り、5年後に彩子が生まれた。
「おばあちゃん、来たヨ。彩子だヨ」
祖母の家に着いたのは夕方だったので、居間のテーブルには既に夕食の膳が調えられていた。
夕食後にテレビの歌番組を見ていると、中森セイラが登場して歌い出した。
「アタシ、この人の歌、好き」
「最近はこんな歌手が人気なのかね」
「セイラは大人気のアイドルよ。ハーフだから可愛いでしょ? 生まれてすぐ施設に入れられたんだって。たまたま芸能プロダクションの社長夫妻の目にとまって引き取られたの」
「へえ、運が良かったんだねえ」
「本名は中森星子で、星子をハーフらしくもじってセイラっていう芸名にしたみたい」
好きなアイドルのことだから彩子はあれこれと語り続けたが、祖母は無言でテレビを見ていた。
夜が更けると、祖母は奥の部屋に二人分の布団を敷いて蚊帳を吊った。
「さあ入って。電気を消すよ」
蚊が入らないように彩子は慎重に蚊帳の裾をめくった。
「やっぱ、沖縄の夏はカラッとしてるネ。蒸し暑くない」
そう言って体をねじって祖母のほうを向いた時、彩子は言葉を失った。
顔を横向けて彩子を見た祖母も息をのんだ。
二人は、暗闇の中でかすかに光るお互いの目を無言で見つめ合った。
先に口を開いたのは祖母だった。
「その目……。彩子、何があったんだい?」
さきほどまでとはがらりと変わって、不気味なほど静かな声だった。
彩子は身を起こして、中学3年生の時の落雷事故で自分の身に起こったことを話した。
同じ事故に遭った修がオーラやヒーリングに関する特殊な能力を持つようになったことも話した。
祖母は吐息を漏らして言った。
「彩子にはユタの血が流れておったのか……。信子には出なかったから安心していたんじゃが」
「ユタ?」
「石嶺の家系は、何代か前まではユタをやっておったんじゃ」
「伊達」は彩子の父親の姓で、母親の旧姓は祖母と同じく「石嶺」という。
祖母の語るところによれば、ユタとは沖縄の霊能者のことであり、依頼を受けて運勢をみたり、病気の平癒祈願や厄除け祈願などをしたりするという。
「おばあちゃんも霊能力者なの?」
祖母は小さく頷いた。
「おばあちゃんにはどんな霊能力があるの?」
「今はユタの力も迷信扱いされる時代じゃから、わしも自分の感覚を研ぎ澄まさんようにしとる。それでも時折、ふっと人の声が聞こえたり、先のことが思い浮かんだりする」
「すごい!未来が予知できるのネ」
「そんな大そうなもんじゃない。彩子、ところでな……」
話すにつれて穏やかになっていた祖母の口調がここで改まった。
「この先、何か困ったことや自分ではよう分からんことが出てきた時は、相談に来ればよい」
「え? アタシに何か起こるの?」
「そういうわけでもないが……」
自分で言い出しておきながら、祖母の物言いは歯切れが悪くなった。
進学校のS高ではお盆を過ぎると夏休みの補習が再開される。
沖縄から戻って暫くぶりに顔を合わせた彩子と修と珠子の3人は、屋上の柵にもたれて風に吹かれながら話をした。
彩子は、沖縄で祖母から聞いた話を珠子と修に伝えた。
「沖縄にはそんな家系があるのね。修くんも家系を確かめてみたら?」
珠子に勧められても、修は気が乗らなかった。
「うちの母さんの実家は沖縄じゃなくて東北のほうだし、父さんは地元だからそんな家系じゃないと思うな。目も光ってないし」
「でも彩ちゃんも修くんもすごい能力を持ってていいな」
珠子は修のヒーリング能力のことも既に彩子から聞いていた。
「人と違うってのは変な気持ちがして、そんなにいいもんじゃないよ。俺に言わせれば、合宿で彩っぺを治した珠ちゃんのヒーリングのほうがすごいヨ」
彩子も賛同した。
「修の言うとおりだヨ。純真な子供みたいにまっくろくろすけや妖精が見えるって、超能力者以上だヨ」




