3、占い料金
「こっ、この話は実際に起こったこと!
ええっと、なんて言うんだっけ?
あっ、そうそう、実話よ!
じ・つ・わ!」
占い師は座っていた椅子から立ち上がり、ブルブルと全身をふるわせ、七実へ訴える。
全身が黒いローブで覆われているから分かりにくいけど、もしかして、私が信じないせいで慌てている?
コレはますます怪しい……クロだな
七実を目を細め、目の前の占い師の顔に照準を合わせ、ロックした。
「ほっ、ホントの話なのよ!
七実と彼、圭三は、前世の縁で、今世では結ばれなきゃいけないの!
だから、今回も彼を信じて待つべきよ!」
今世では結ばれなきゃいけない?
なんで?
彼氏の名前まで当たっているので、七実はビクッと体を一瞬強張らせたが、その後に続いた占い師の意味不明な主張に、体の力がドンドン抜けていき、最後は大きなため息をついた。
「あのねぇ……本業の占い師にこの説明するのも何なん?ってカンジだけど、占いって当たるも八卦、当たらぬも八卦と言って、まぁ、要するにテキトウ……失礼、信じるか信じないかは本人次第なのよ。
そして今回の占い内容は前世!
前の人生があなたの言う通りだと、今を生きている私の記憶には、当然ながらナイわ。
仮にあなたが言っていることが正しいとしても、前世と今は違うし、前世通りにする必要はないもの。
逆に今度は、違う道を選んでもイイはずよ」
七実の言葉を最後までジッと聞いていた占い師だったが、つい先ほどまで慌てふためいていた態度を一変させ、落ち着いた声で、再び七実に問いかける。
「じゃあ、聞くけど、幼い頃から何度も繰り返し、同じ場面を夢見るのはなぜ?
圭三に会った瞬間、この人だと思ったでしょう?
姿は変わっていても、圭三の本質は前世の彼だから……そうねぇ……想いが1番あらわれる瞳、最愛のあなたを見つめる、優しくて……時には熱のこもった眼差しに、七実は何度もドキッとしたこと、あるんじゃない?
そして、圭三のことを想うと、七実の胸にグッと迫る感情……それはいったい、どこから来ていると思う?」
先ほどと反対に、今度は七実のこめかみから、汗がブワッと出てきた。
心臓の音がヤバいんだけど?
そんな自分の動揺を目の前の占い師には悟られたくなくて、七実はすぐさま言い返す……しかし抑えきれない、胸を熱くする何かがドボンとこぼれ落ち、言葉を詰まらせた。
「しっ、知らないわよ!
そっ、そんなこと!
まぁ、いちおう、彼も私のコト好きだったし、私も彼を好きだった!
両思いなら、そんな目で見るのは普通だよね?」
ヤバい、全然、心臓のドキドキがおさまらない!
とてもじゃないけど、なぜか冷静でいられないわ!
こういう時は、アレよ!
アレ!!
七実はそう心に決めると、限りなく何気ない風を装い、占い師の顔から視線をズラしながら切り出した。
「あぁ、もう!
これで占いは終わったのよね?
帰るわ!」
そう言って、席を立とうとした七実に、占い師は声を張り上げる。
「ちょぉ~と、待ったぁ~!
占ったお金、もらってないんですけどぉ~!」
そうだった!
たとえ不本意な結果であっても、占ってもらった、いわば労働に対する対価は支払わないと!
七実は理性を総動員して、なんとかその場にとどまることに成功した。
ハイ、ハイ、払えばいいんでしょう?
払ってこの場所から、早く逃げるわよ!
七実の意識は、この場からいかに早く逃げ出すかに埋めつくされているため、占い師に少々雑に、サクッと値段を聞く。
「で、いくら?」
ちょっと待って!
占い料金って、占い師本人が決める自由価格だから……高いところは相当高いわよね?
その七実の心の声を読んだかのように、占い師は声に力を込めて言ってきた。
「高いわよ……」
占い師の言葉を聞いて、七実の肩にポタリ、ポタリとこめかみからの汗が落ちる。
「わっ、わかった……そっ、それで……いっ、いくらなの?」
「にっ……」
に?
その後にいくらゼロが続くのぉ!
ヤバい……近くにATMあるぅう?
七実の額からも、冷たい汗が湧き上がる。
「にせんごひゃくえん!」
「2500円?」
やすっ!
対面の占いって、最低でも3000円からって友達が言ってたような……そして恐ろしいことに、上限はないって!
そんなことを思って、ボンヤリとしていた七実の行動が不自然に映ったのか、占い師から問いかけられた。
「もしかして……高い?」
「いやいやいやいや……むしろ」
「むしろ?」
ちょっと待って、七実!
ここで素直に安いと言って、ケタ数を増やされても困るのは自分!
だからこの答えの正解は……
「適正価格でステキだなぁ♡と思ったの」
「そうね、イイ値段でしょう?
実はね、この価格に決めたのは……」
「決めたのは?」
神様、どうかケタ数が増えませんように!と祈りながら、七実は占い師の言葉をなぞった。
「この家業、私で25代目なの!
だからぁん、2500円!
ステキじゃない?」
声からご機嫌な様子がうかがえる占い師の気分を、こちらから積極的に下げたくない
「えっ、ええぇ、とってもイイと思うわ!」
七実は首を勢いよく上下に振って、激しく同意を示しながら、財布を取り出した。




