2、占い結果
占い師が反対側から同じように水晶にむかい、両手のひらをあてるのを見てから、七実はちょっとだけ視線を動かし、自分の左手首につけた、腕時計の秒針に焦点を合わせる。
そこまでキッパリ宣言したのなら、ちゃんと25秒で終わるか、見とどけなきゃね!
七実は心の中で、フンっと鼻を鳴らした。
……5、4、3、2、1
七実が25秒のカウントダウンを終えようとしたその瞬間、
「終わったわ」
占い師の静かな声が空間をふるわせる。
おおっ、ピッタリ!
七実が胸の中でひそかに感動すると、占い師は水晶にあてていた手を引っ込め、姿勢を正し、七実につげた。
「七実、結果を伝えてもいいかしら?」
「あっ、はっ、はい」
あわてて返事をしながらも、七実は首をかしげた。
うそぉ、まさかの呼び捨て!
でも……あれ?
私の名前……なんで知ってるの?
占い師の無礼と謎に驚いて七実が絶句していると、またしても目の前の占い師が、口の端をニィッと釣り上げる。
「占ったもの……名前なんて、すぐに分かったわ」
「私の名前は……確かに当たっているわ。
で、結果は?」
急に空気が澄んだ気がして、七実は背筋を伸ばした。
「結論から言うと、彼氏とは別れないほうがいいわ」
「どうして?」
少しだけ予測していた結果だったので、七実も冷静に聞き返すことができる。
「彼氏とは前世からの縁でつながっているの」
「どういう縁?」
七実がこの質問を口にすると、待ってました!とばかりに、やや早口で占い師が話し出した。
「紀元前25年、今のエーゲ海あたりで彼氏と七実は出会った。
彼は25に分かれている部族をひとつにしようと主張する立場のリーダーで、七実は彼の主張に反対する立場のリーダーだったの。
それぞれの立場を理解してもらおうと何度か話し合いを持つうちに……2人はひかれ合い、愛し合うようになった」
「ほぉ~、ほぉ~」
思ったより壮大な設定だ
驚きが重なったせいか、七実はフクロウみたいな声を出してしまう。
ハズっ
そんな自分の返事が恥ずかしくなり、七実が自分の口を右手で隠すと、なぜか占い師のスイッチを入れたみたいで、彼女の口調が熱を増したうえに、緩急も激しくなった。
「けれどね……敵対する2人が愛し合うことに、周囲は快く思ってなくて、大反対!
2人ともさんざん悩み、一度は別れることになるのよねぇ~」
そこまで語り終えると、占い師ははぁ~と悩ましげなため息をつく。
「そうですか……」
設定とはいえ、現実と同じ結果に、七実はポツリと小さな声でつぶやいた。
「だ~け~どぉ……」
ここで占い師はたっぷり間をあけると、上半身を前に出して、再び語り始める。
「月日は流れ……彼が推し進めていた部族統合政策が国で採用されることになり、七実たちの勢力も従うことになったの。
七実は時の情勢を捉えることに長けていて、彼の主張が部族のためになることにいち早く気づき、自分の仲間を根気よく説得していったのね。
その七実の行動が大きな要因となり、目立った部族内抗争を引き起こすこともなく、やがて彼は部族をひとつにまとめあげることに成功したの。
ただやっぱり……統一に根強く反対する人たちは少数ながら……いた」
ゴクリッ
七実はいつの間にか、占い師の話に引きずりこまれ、唾を飲み込む。
それと時を同じくして絞り込まれた小さな灯りが、ユラリとうごめいた。
七実の様子を確かめるためだろうか、占い師もしばらく黙り、七実をジッと見つめるような仕草を見せる。
しかし七実が言葉を発することなく、同じように占い師を見返したせいか、占い師は話を再開させた。
「その人たちは、自分のリーダーである七実と彼が付き合っていることを知っていて、七実が部族統一派に寝返ったのは、付き合っていた彼が七実を説得したからだと考えたのね。
そして……あの日がきた!
七実の影の助力を知った彼は、七実にお礼と何かを言おうと思って、会う約束を取り付けたの」
「そっ……それで?」
占い師がひと息つくのが許せないとばかりに、七実が先をうながす。
占い師は分かったとばかりに何度かうなずきながら、さらに話を続けた。
「七実と会う約束をした時間に彼に急用が入ってしまい、彼は会う日を後日にしようと七実に提案したの。
だけど、七実は何時になろうと待っているから会いたいと言って譲らなかった。
実はその日、25日は彼の誕生日で……孤児だった彼は誕生日を祝われたことがない……と七実にだけ打ち明けていたのね。
七実はそれを覚えていて、彼の誕生日を祝おうと考えていたの。
けれども……」
占い師の言葉の続きを、七実がうばう。
「最後まで反対していた人たちに、私と会うことを知られ、彼は私に会う前に反対派の人たちに襲われ、重傷を負った。
私はその事を知らずに来ない彼のことを一晩中待ち続け……朝になってかつての仲間たちが彼へ襲撃したことを知り、急いで彼の元に駆けつけた。
けれども、彼は襲われた傷が原因で亡くなってしまうの」
七実の目からひと粒の涙がこぼれ落ちた。
「七実……覚えてるの?」
占い師の声はかすれている。
「彼と付き合ってからは見ることはなくなったけど、小さい頃から何回も夢で見たわ」
七実はグイッと指先で涙をぬぐって宣言した。
「でも、ここは現代!
全ては夢よ!」
「えぇっ!
そうキタぁ~!?」
占い師の声は裏返り、目の前の水晶がほんの少しだけ震えたように、七実には見えた。
いやいや、だまされないわ!
コレって、劇場型って言われる詐欺だよね?
七実はそう答えを導くと、占い師を鋭い目つきでにらみつけた。




