短編版 双子は異世界で性を売る
東京 新宿 歌舞伎町。
無料案内所の横の小さな路地を抜けた先。古く、ボロボロのビルの中にとある店がある。
そこは誰にも知られない「風俗店」。
来店するのは、裏の世界のヤクザ達。
カタギを怖がらせない為に、ヤクザの人達の為に作られた店なのだ。
そこで人気No.1の風俗嬢。それが
大空黒音。身長もスタイルも他の嬢に比べれば劣っている。でも、彼女は知っていた。人の心の支配術を……。
*
「黒音!もう仕事の時間でしょ!」
そう声をかけるのは妹の黒珀。
鏡写しのように、全く同じツリ目と、ぷるんと潤った唇に、モチモチとしたその肌。唯一、私と違うのは、その髪型。
私がロングだけど、黒珀は、ボブウルフ。髪色も、私は金髪だけど、黒珀は、黒と白のメッシュが入っている。
互いに、顔は同じだけど、髪型のせいか、人に与える印象はかなり違うらしい。そのせいか、私達の周りにいる男は
全然違う男達だ。
彼女は、私と同じく歌舞伎町のコンカフェで働いている。
でも、彼女たちはそれを望んでいる訳では無い。
彼女達は元来、とてつもない負けず嫌いなのだ。
互いに、相手を意識して負けたくないと努力する。
しかし、私たちは双子。どこまで行っても「相手に勝つ」ことが出来なかった。
その結果、私たちは自身の体で勝負することにしたのだ。
「黒珀は、今日休み?」
「うん、今日明日は休み」
変わらない会話。負けず嫌いと言うだけで、仲が悪い訳ではない。
実は、かなり仲がいい方なのだ。
「……ねぇ、黒音」
しばらくの沈黙の後、黒珀は私の下着を畳んでいた。
「黒音って、こんな変な物持ってたっけ」
そう言って、差し出したのは、手のひら大の宝石。
「いや……はじめてみたかも」
なんだろうと宝石に指をトンッと乗せる。……その時、激しい光に包まれた。
*
「貴女方が、あの光の勇者……」
光が弱まり、目に籠った力が抜ける。
開かれた視界の先にいたのは、多くの人間。しかし、その人たちは、見たこともない人ばかりで、その衣服も、建物の雰囲気も、その全てが私達が知る世界では無かった。
「あなた方は、光の勇者として召喚されたのです」
「「……え?」」
全くもって、理解し難い。一体何が起きているのだろうか。超常現象と言う言葉では収まらない漫画やアニメのようなかけ離れた世界。
「あなた方には、これから魔王を倒してもらいたいのです」
「そんな、話されても……」
アニメの世界なら、二つ返事でわかりました!なんて言うだろうが、私達には難しい話だ。
「私達、元の世界に帰れるの?」
「はい……。理論上は可能です」
「私達にメリットはあるんですか」
「……すいません。今、この国は内乱が起きていて、財政も、破綻していて……」
「よくそんな状態で、私達を呼んだね」
こんな、信用出来ない人達の元にいる気は無い。それは、黒音も同じだったらしく、私達はその場を後にした。
*
異世界に来てから1年。私たちは二人で、世界を救った。
何をしたか。……それは簡単。
この世界に足りないもの。それは欲求を吐き出す場所だった。
だから、多くの人が不満が溜まり、国の中で内乱が起き、その争いは広がり、国同士の争いになる。
そこで、現れた、魔王軍。
そりゃ、人間に打つ手なんてなかった。
私達は金を稼ぐ方法を探していた。その結果、また体を売ることにしたのだ。
半年もすれば、私達は世界中に名を轟かし、魔王の元までその名が届いた。
「……ほぅ、貴様らが例の」
「魔王様が何の用ですか?」
「一言で言えば、そうだな……」
魔王は、真っ黒な装衣に身を包み、紫色の肌を覆っている。
魔王城の照明のせいもあるのだろうか、その表情はあまり見えないが、頬が赤く染っているように見える。
「……我も、金を払うからサービスを受けたいのだ」
「ムリです。」
「……そうか、なら死ね」
「!! 違うんです! 話だけでも聞いてください!」
「……遺言か?」
「いや、私はまだ死なないよ」
黒音は、魔王にも1歩も引かない。
我を通し続けている。
「体の大きさを考えて欲しいです。私達は人間ですよ? あなたの接客していたら死んじゃいます」
「なら、どうしようというのだ」
「私達は今、事業拡大を考えています。全ての種族で同じサービスを受けれるように! そうすれば、この世界の争いは減ると思ったから!」
「なるほど、ならその事業拡大に魔族も協力しよう」
……なんなんだ?この変態魔王。
風俗やってる私達が言うのもあれだが、相当の変態じゃないか。
「じゃあ、契約を結びましょう」
そうして、魔族と契約を結んだ。
*
時間はさらに流れ、こっちの世界に来てから3年の時が流れた。
私たちの事業はこの世界で大成功して、人間、魔族、天使、オーク、エルフに、ドワーフ。
この世界のほぼ全ての種族と遊べるような、最高の事業となったのだ。
しかし、私は、黒音と喧嘩して、この半年全く話せていない。
原因は、私にある……。
私と黒音は、死ぬほどの負けず嫌い。
そして、この世界に来て、私の才能が開花した。圧倒的な差をつけて、人気を得た。
その結果、黒音は私に負けたくないと、家を飛び出した。
私は、黒音の後ろを追うことができなかった。
私という存在が、黒音の心身を追い込んでいたというのが事実なんだし。
それ以降、黒音は家に帰ってくることは無かった。黒音の失踪とほぼ同時期に、魔王も謎の失踪をしたと世界中で噂になっていた。
そして、今日。私の目の前に立つ少女に、私は衝撃を受けていた。
そこに居たのは、魔王の装衣を身にまとった、黒音がそこにいたから。
「久しぶりだね、黒珀」
「どうしたの、そんな格好をして」
正直、私は黒音と仲良くしたいとは思えない。今までの人生が、私のことを縛っているのだ。
頭を下げることが負け。そんな、偏見を私は持っていた。
この世界に来る前、前の世界ではお互いに売上が同じぐらい。でも、こっちに来てから、私は才能を開花させた。
私の方が、勝っていた。なのに、なぜ私が頭を下げないといけないのか……。
負けて、勝手に逃げた黒音が悪いんじゃないのか。
「私は、黒珀に負けた。だから、黒珀に負けないように、魔王になったんだ」
「何、言ってんの?」
少し前まで、私と同じ人間だったのに、この半年で魔王になった。
「じゃあ、失踪した魔王って」
「あ〜、旦那」
「!?」
「私、魔王を倒して求婚した。で、負けた魔王が許されるわけないって」
負けず嫌い。負けたから悔しい。
その悔しさをバネに、ここまでできるとは全く思っていなかった。
この半年で、黒音は変わった。
でも、私は何をしていた?
体を売るだけで、何もしていない。
でも、正直……。
「あんた、もう元の世界に戻る気はないの」
「元の世界に戻りたいよ?でも、それ以上に負けっぱなしは許せない」
こいつ、ここに来た時の約束を忘れている。
「そっか、黒音。あんたをもう1回泣かせてあげるよ」
私達は双子。でも、黒音は、妹で、私が姉。
なら、暴走した妹を止めるのは姉の仕事だろう。
「あんた、今クソみたいな顔してるよ」
「黒珀に勝てるなら、こんな顔にもなるよ」
よく考えてみたら、お互い負けたくないって意識することはないけど、姉妹喧嘩は今までやったことないな。
これが、初めての姉妹喧嘩って考えると嫌だけど、馬鹿な妹を叩き起してやるにはちょうどいい。
黒珀の目には、魔王に対抗する。光が宿っていた。
*
「黒音、もし、元の世界に戻れたらさ、体なんて売らないで二人で一緒に暮らさない?」
「いいね、私田舎に住んでみたいんだ。虫もいなくて、のどかな場所」
「田舎なんて虫しかいないって」
「そーいう夢潰すこと言わないの」
私たちは、双子。お互いに負けず嫌いでぶつかることはあるけれど、
とっても、幸せで、最高のパートナーです!