5.人間社会に入りたいゴリラ
喋る猿のためのソーシャルネットワーキングサービスの利用者は広がりを見せていた。
人類史初の喋る霊長類の発見から一年後にはその利用頭数は六〇〇名を超えた。しかし彼らがその頭数の全てとは限らず、実際どれくらいの彼らが存在するのかを、人類は未だその実態を把握しきれずにいた。
あるがまま、猿らしく生きることを望んだ彼らではあるが、サービスを通じて知り合うもの、ネット上の友人になるもの、また情報交換を行うものなど様々であった。
『昨日人間の調査員が俺のところに来た』
『なんだって?』
『お変わりありませんか、ってさ。お変わりないよって言ったら帰って行った』
『そんなことのためだけにヴィルンガ火山群まで来たの!? 人間暇すぎんか』
『そう言えば近所のゴリラの若いのがどうも人間社会に憧れているとか言ってたからそれは伝えておいた』
『へえ、変わってるね』
『まあでも、そいつの猿生だし好きにすればいい思う』
『確かに』
いいね、をポチッとつけてゴリラはスマホとやらを寝床に突っ込んだ。
この薄い板は人間に与えられたものだが遠方の知り合いと連絡を取るには結構に重宝していた。
人間はスゴイことを考えるものである。通話もできるらしいがそれは使ったことがない。
今度使ってみよう、と考えたのは一瞬で、足元で遊ぶ子供に目を向けると、人間のなんかすごいテクノロジーのことは記憶の彼方にすっ飛んでいく。
生まれてまだ一年の小さなゴリラは彼の宝だった。ゴリラ語で何事かを言う我が子を抱き上げ、彼は森の中へ入っていった。