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1/7

*01*

一度短編で投稿したものです。

加筆したので連載形式で投稿しなおします。

よろしくお願いいたします。

 あれ?

 目が覚めて起き上がった私はあたりを見渡して首を傾げた。

 見覚えのない部屋だった。ベッドだけが置かれた部屋。

 周りは明り取りの窓があるだけ。

 そういえば、今、すんなり起き上がった自分の体に驚く。

 ベッドの周りに酸素マスクも点滴の袋も心電図も電子機械も何もない。

 肩を回してみたけれど、腕も軽いし体も全く痛みがなかった。


 ベッドの足元にはスリッポンみたいな履物がそろえられていて、とりあえずそれを履いて立ち上がる。

 立つのも久々だった。

 なのにふらつきもせず立ち上がり、なめらかに歩くことができた。


 私は目を丸めた。

 私は病院に入院していたはずだ。


 海外出張から帰ってきている飛行機の中でだるさを感じた。

 そのときよぎったのは、出張先で最後に会った現地のクライアントのこと。一週間ほど行動を共にしていたのだが、最終日に彼はけほけほと咳をしていた。向こうの人にマスクエチケットなんて概念がないので、そのまま大気放出だ。

 彼は家族が今週に入って臥せっていることをその日になって話をした。

 とりあえず私が帰国するからとあいさつに来てくれたらしいのだが……。


 私は念のためマスクを着用をして帰国した。

 しかし家に帰ってからとうとう発熱してしまった。

 私は職場の上司に電話して、明日からの出社を見合わせて病院に行くことを伝えた。それから保健機関に連絡し対応をうかがう。

 そして指示通りに予約を入れてもらっていたトラベル専門病院で診察を受け、そこで結核と診断された。

 

 そのまま入院となってしまい、私はあわてて妹に連絡して入院の荷物を持ってきてもらった。

 ……出張の荷物の荷ほどきもまだの状態だったので、そのスーツケースを中のスーツとかの仕事着をごっそりパジャマやルームウェアに入れ替えてもらって。

 直接会うことはできなかったけれど、メールで妹に感謝を伝えた。

 感染症なのでもちろん出勤停止。上司にもその旨を伝え、動ける間に出張費の清算と引継ぎの簡単項目だけは作ってデータを送る。

 スーツケースの中にパソコンとかも入っていたのでよかった。

 出張に関するレポートとかも帰りの飛行機の中で暇つぶしに作ってほぼできているので、これさえ送信してしまえば大きな懸念は一気に少なくなる。


 あと、もろもろの医療費の申請も今は個人番号一つでできるのでありがたい。


 こうして私は割とスムーズに入院生活に突入することができ、しんどい、だるいながらも治療を進めることができていたのだが……。

 私は治療期間中に別の病気を併発した。

 インフルエンザだ。

 過去に何度か患ったことがある流行性のインフルエンザ。

 ああ、なら大丈夫、なんて軽く思ってはいけない。

 基礎疾患を患っている場合、特に私は入院治療中だったこともあり、ひどく危険な病に変わってしまった。

 熱は下がらず、咳も止まらず。

 食事も満足に取れなくなった。

 かわりに大きな袋に入った点滴をつながれた。

 しかし苦しさも熱も一向に収まる気配がなく、私の体は衰弱が進み……。

 いろんな電子音が鳴り続ける病室、それが私のおぼろげな最期の記憶―――。


 気が付いたら今、見覚えのない場所にいる。

 いや、まったく見覚えがないわけではない。

 シーツの色合いや内装色は自分で選んだ記憶がある。


 私は久々に自由に動く体で扉を開けた。

 扉を開けると小さな廊下にでた。対面にある一番左の扉を開けるとトイレがある。その隣の扉は洗面所兼脱衣所、その奥はお風呂場になっていた。お風呂は猫足のついたゆったりとしたサイズで、私の部屋のよりもずいぶん大きくて立派なものだった。

 『あーこんな部屋、住みたい!』

 記憶の中の自分の声を思い出す。

 そう、お風呂も、この洗面台も自分で選んだ。

 こんな部屋に住めたらいいな。いつか家を建てたらこんな家にしたいな、そう思いながら一つ一つの家具を選んだ。

 その洗面所の鏡に映る自分の姿を見て眼を丸めた。今まで見知った自分の顔ではなく、自分が丹精込めて作ったアバターの顔がそこにあったのだ。


 「うそでしょう?」

 私の言葉は誰にも届かない。


 洗面所を出て、その隣の扉を開ければ、洗濯室兼乾燥室。その乾燥室の隣には大きなクローゼットがあって、たくさんの衣類やかばん、宝石類が収納されていた。

 寝室の扉の右側には階段があって地下に続く。地下は大きな倉庫兼作業場にしているはずだ。

 最後に一番右側の扉を開ければ居間兼キッチンが広がる。その先の扉は玄関につながる。

 これでここが私が長くはまっていたゲームの世界の、私のアバターの持つ家だと確信した。


 それはフレンディというゲーム。


 携帯端末から気軽にできるオンラインゲームだった。個人プレイしてもよし、仲間と楽しく遊んでもよし。

 ストーリーもイベントも充実していて、キャラクターの動きも自由度が高い。

 本当に自由度が高くて、実はメインストーリーを進めなくても十分楽しめたりする。

 この世界に流れてきた私のアバターは、この区画に自分の土地をもらい、最初はテントで生活しながら生きていく。最初はまず生きるために採取のスキルを磨く。森の木の実、建築材料や資材、鉱物を集め、素材を売ったり、村の人たちと交流し、彼らに教えを請いながら建築スキルや、魚釣り、弓、剣技、薬草、畑栽培、ガーデニングなどの技術を高め、生活の快適度を上げていく。

 普通に村の中で生活する分には、特別強い敵が出てくるわけでもモンスターが出てくるわけでもない。

 ひたすら平和に生活をするゲームだ。

 ただ、攻略をするのならダンジョンを進んだり、必要になる鉱物資源の採取のために探鉱せねばならず、この場合には戦闘をすることなったりするけれど、それもレベルさえ上げてしまえばそこまで苦にはならない。

 オンラインで仲間を集って攻略するイベントもあるけれど、個人プレイの場合は友好度を上げている村人と協力プレイで進めることもできるので、私はひたすら個人でプレイをしていた。

 のんびり平和に。


 おかげで各種スキルレベルも最高値、村人たちとの友好度も最高値、基本攻略はすべて終わっている状態で、ただひたすら自分の家を飾るというやりこみを進めている状態だったんだけれども。

 まって? 今の私はどの状態?

 私は自分の置かれている現状を知りたかった。


 ステータスやインベントリの確認てどうしたらいい?

 

 疑問に思っていたら、脳裏になんだか不思議な映像が出てきた。

 広い部屋の中に、ポンポンと荷物がある。

 手前のほうに、最高品質であるダイアモンドピッケル、同じくダイアモンド鍬、ダイアモンド弓、ダイアモンドジョウロ、ダイアモンド網、ダイアモンド釣り竿の基本装備が。ダイアモンドと言っているけれど、実際にダイアモンドでできているわけではなく、品質がゲーム内で最高という意味で使われている。これらは各種スキルの行動を起こすときに使用する道具だ。

 その横には回復薬、傷薬としびれとりの薬の箱が並んでいた。あと一番奥には何やらピンクの箱が見えるけれど、それは今はいいだろう。

 どうやら以上が私の今の手持ちのようだ。


 私は地下に降り倉庫を確認した。

 ここには無数のチェストを並べて在庫を管理している。

 インベントリの中身もそうだったが、チェストの中身も魔法空間になっていて、見かけよりも体積や質量を無視してたくさん入るし、資材の腐敗も劣化も何もない究極の収納だった。

 一応整理して片付けていたので、鉱石類、木材類、種子類、各種野菜、花、薬草、各種肉、魚などきれいに分類してある。

 在庫も十分あるし、あと貴重品アイテムのチェストに最後にプレイしたときに取得した激レアアイテムの回帰の玉が入っていたので、どうやら最後の時のままのようだ。

 同じフロアにある作業台も最高品質のものがそろっている。錬金盤も、製薬鍋も、鍛冶台も製錬炉も私の手が触れると思うまま作りたいものを作れるようだった。

 機織機でショールを思うとチェストから布や羊毛、それに染料が出てきて、出張中に欲しいなと思いながら今回は購入をあきらめていたショールが完成した。

 いや、想像一つで完成するとかやばいな?

 完成したショールを広げてみて私は頭を抱えた、


 しかし、これはどういうことだろう?

 私は喉の渇きを感じてキッチンに向かった。

 ゲームの中で動いているけれど、これはゲーム世界に転移したと思っていいのだろうか?


 改めて自分の最後の記憶をたどってみる。私の最後の記憶は病院のベッドの上。苦しい気持ちしかなかった。

 インフルエンザがあんなに苦しいなんて思いもしなかった。呼吸をするのも苦しくて苦しくて、それがふっと楽になった、そう思ったのだが……。

 


 それで、こちらに転生? 転移? してきたのだろうか。


 私はキッチンに行き薬缶をコンロにかけた。魔道具のスイッチを入れると加熱が始まる。

 沸かしている間に茶菓子とティーポットと茶葉とカップを出していると、来客を告げる鐘がなった。

 ……この鐘の音もこだわって選んだもので、心地よいコロンコロンという音だ。

 準備の手を止めて玄関に向かい扉を開けると美丈夫なエルフが立っていた。


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