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第6話 来世ではオレ達、友達になれると思うんだ

 ジャングルといった言葉がぴったりくる、深い森を1人で進んだ。キャンプの経験はほんどないし、虫も大嫌いなのだが、設営の簡単なテントやら虫除けの薬草やら、フロラが色々用意してくれたおかげでなんとかなった。案外いい嫁さんになるかもしれない。って、さすがに神様とは結婚できないか。いや、ギリシャ神話とかに確かあったから、ワンチャンあるかも。ついさっき上がった大人の階段をまた下りてニヤニヤしながら、1人干し肉を(むさぼ)る姿を人が見たらドン引きだったことだろう。幸い誰にも会うことは無かったけど。そんな妄想キャンプも2泊3日が過ぎ、ようやく目的のエリアに到着したところ、静寂に包まれた森に突然、若い女性の悲鳴が聞こえた。


「よきゴブ♪ よきゴブ♪」

「ゴブ太氏、これはなかなかの上玉ブヒ」


 見れば遠めでも一目で美人と分かる、例の耳が尖がったオレ達のアイドル、白エルフをけしからん目に合わせようと、モンスター界の2大エロ巨頭、ゴブリンとオークが嬉々としてエルフににじり寄っていた。同意せざるを得ないセリフに親近感が湧いてしまうのは気のせいだろう。一方のアイドルもとい、エルフさんはと言うと……。


「ざっけんなよテメェ! アタシに触れたきゃそれなりの対価だせよ! オメーラ、キモンスターが(から)んでいい相手じゃないんだよアタシはよー! タコがあぁぁ!!!」


 ……なんか昔クラスにいたな。見てくれは良いけど言動が残念な奴。襲っていたはずのキモンスターコンビも戸惑っている。


「違う、違うゴブ。こんな下品なリアクションじゃ萎えるゴブ」

「僕たちのエルフ嬢はこんなじゃないブヒ」


 どうする? もう帰る? 的な空気を匂わせた2人組。ウンウン、気持ちは分かるぞ。と、遠巻きに腕組みして(うなず)いているとエルフ嬢と目が合った。


「いっ、いつの間にそこに!! さてはお前が黒幕か!」

「えっ! オ、オレ?」

「いかにもムッツリスケベな青い顔しやがって! 高みの見物たぁ、良いご身分だな、おい!」

「いや、ただの通りすがりなんですが」

「あ、そうなの?」

「お取込み中失礼しました」


 と、回れ右をしようとすると、


「ちょっと待ったー!!」


 人生初のちょっと待ったコールをかけられました。ありがとうございます。


「ど、どうやら私の勘違いだったようね。それで、か弱い美少女エルフが汚らしくも醜く、性欲しか取り柄がないキモいモンスターに襲われているのを黙って見過ごすつもりなの? それって良心が痛まない?」


 相手がモンスターとはいえ、言い過ぎじゃないですかね。そこは良心が痛まないのかな。そう思っていたらキモンスターコンビも、肩をプルプル震わせて怒りに震えている。


「いいエルフは言葉の綺麗なエルフだけゴブ」

「こんなのはエルフじゃないブヒ。あの尖った耳はきっと付け耳ブヒ」

「ちょっ、失礼な! アタシは純度100%濃縮還元のエルフだよ!」

「もういいゴブ。ミンチにすれば一緒ゴブ」

「性欲から食欲に即時に切り替えるとは、さすがゴブ太氏はインテリブヒ」


 エロい目から腹減ったモードになった2人は、腹減ったブーという顔でヨダレを垂らしてエルフにジリジリと近寄っている。さすがにエルフのミンチは見たくないなぁ。でも2対1かぁ。オレ弱いしなあ。と、そうだゴッドブレス、ゴッドブレス。オレはフロラにもらったゴッドブレスを掛けてみる。すると、ゴブリンとオークの頭の右上にレベルが表示された。なんということでしょう! 2人ともレベル5。おー、これはエルフさんを助けろという神のお告げですな。ありがとうございます。善行ポイントゲットだぜ!


「ちょ、キモイキモイ! それ以上近づくんじゃないわよ! アンタ、ぼーっとしてないで助けなさいよ!」

「チッチッチ、エルフのお嬢さん。焦っちゃあいけない、焦っちゃあ。人に助けを求める態度じゃあないが、今日は気分がいいので特別サービスで助けてやっても……」

「イヤー! 顔はやめて、ボディにしてー!!」


 せっかくの決めゼリフの途中なのに、ゴブリンとオークがエルフを頭からミンチにしようと襲い掛かっている。全く空気が読めない連中だ。


「闇に彷徨(さまよ)いし者たちよ。せめて安らかに眠るがよい。レベル5デス!」


 本当は詠唱不要だけど、カッコつけで何か言ってみた。あ、でもレベル5デスって言っちゃうのはネタバレでマズいよな。次から気を付けよう。ちなみに条件を付与しない場合は、心臓麻痺で即死がデフォルトだそうだ。見ると、ゴブリンとオークは一瞬悲鳴を上げてゆっくりと崩れ落ちた。倒れた2人の体はみるみる土くれになったあと、やがて細かい砂となって、風に飛ばされ消えていった。遺体の処理の手間や罪悪感の軽減まで考えられた、素晴らしい設計思想の魔法である。5分の1の相手しか効かないけど。



「一応、礼を言っとくわね。青い顔の人。私はエルフのエミリーヌよ」


 そう言ったエミリーヌは近くで見ると美少女というか大人っぽいスレンダーな美女だった。きっとエルフ的には若手だから自称美少女なんだろう。実はBBAだろという瞬殺されるツッコミを入れないのは、過去に地雷を踏みまくった人生経験の賜物(たまもの)である。


「こりゃどうも。自分はタナトスっす。しがない悪魔ですが、害は無いつもりです」

「あ、悪魔!?」

「あー、そういうリアクションになりますよね。分かります。でも、事情があって悪い悪魔ではないんですよ。むしろ悪い悪魔から逃げて来たというか」

「ふ~ん。ま、モンスターを倒して私を助けたんだから、一応信用しましょ」

「理解が早くて助かります。ところでこの辺にエルフさんはお住まいですか?」

「いや、私たちの村はもっと東よ。ここらには誰も住んでいないわ。美味しい山リンゴの木があるからたまに取りに来てるけど、今日は災難だったわ」

「誰も住んでいないんでしたら、ここらに仮住まいさせてもらってもいいですか?」

「え、ここに住むの? そこは村長(むらおさ)の許可がいるけど、私を助けてくれたから、たぶん大丈夫じゃない? 村長(むらおさ)には伝えとくわね」

「助かります」

「……礼儀正しいし、確かに変わった悪魔ね」


 エミリーヌはそう言って高い鼻をポリポリとかいた。なんか話が上手く行き過ぎだな。後で、エルフの軍団が悪魔狩りとかいって、松明(たいまつ)持って襲ってくるんじゃないか? まぁ、そん時はそん時考えよっと。

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