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【最終局面突入!】レベル5デスの使いどころがありません  作者: 角乃とうふ


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第65話 人はなぜ巫女装束に魅かれるのだろう

 タナトス城のほど近く、清浄な空気に満ちたパワースポットが広がっている。青々とした竹林が植え込まれた敷地に足を踏み入れ、巨大な朱塗りの鳥居をくぐれば、そこにあるのはベタな日本式神社。建築ゴーレムのデンキチさんがタナトス城に続いて、腕によりをかけて造り上げた純和風建築第2弾、フロラ神社である。先日開催されたフロラ夏フェスの熱狂が呼び水となったのか、最近ではそこそこ参拝客の姿も見られるようになった。

 そんなカモネギさんにお守りなんかを売って小銭を稼ぐ、もとい初穂料はつほりょうを頂戴するため、新たに拝殿のすぐ横にしつらえられた社務所では、2人の看板娘が忙しそうに立ち働いている。ふさふさの立派な尻尾を優雅に振るセクシーお姉さん『どんたん』と、丸いタヌキ耳が愛らしい『ぽんたん』のケモミミ姉妹だ。2人とも白い小袖(こそで)緋袴(ひばかま)に身を包み、元気よく接客している。フロラには言えないが、実は参拝客のほとんどは、彼女たち目当てのような気がする。そんな2人はオレの姿に気が付くと、弾ける笑顔で声を上げた。


「あ! 鹿男様。 こんにちは!」

「こんにちは、どんたん、ぽんたん。御精がでるねぇ」


 ――ケモミミ+巫女しか勝たん。あまりの強属性コンボにおじいちゃん言葉になって目尻を下げるオレ。しかし、仕事の邪魔及びケモミミ同好会の同士諸君の貴重な時間を奪うのは野暮というもの。その辺りをわきまえた聖人君子なオレは、断腸の思いで奥の本殿へと向かった。



「待っていましたよ、タナトスさん」


 本殿の上座には、オレが来ることが分かっていたかのように、女神フロラが優雅な微笑みを浮かべて待っていた。ケモミミ姉妹とお揃いの巫女コスプレ姿で、座布団に正座して。もう見慣れて来たので、ツッコミませんよ。


「エーン。フロラ様ー。脳みそババロアのオレの仲間が酷いんですよー!」


 オレは鹿マスクを放り捨てると、彼女の膝元目掛けて、全力で泣きついた。傷心した男に必要なのはいつだって、バブみなのだ。


「あ〜よしよし――ってタナトスさん、ウソ泣きがもろバレですよ」


 白い袖で口元を隠しながら、黄金色の瞳でオレを見下ろすフロラが呆れたように笑う。さすがは女神、あわよくば膝枕で慰めてもらおうという、司馬仲達ばりのオレの計略を見破るとは。


「まぁ、確かに目薬無いと泣けない体質ですけど、心では泣いてるんですよ。自分で言うのも何ですが、こんなチキン野郎が世界のために立ち上がろうという時に、オレの仲間と来たらスイーツバイキングの話に夢中で……」

「分かりました。その話、詳しく聞きましょう」

「フロラ様! 最近、出番が少なかったけど、メインヒロインはやっぱり貴方だ!」

「――ではお聞きします。まず、基本コースはおいくらでしょうか? やはり、ドリンクバーは別料金?」

「お前もスイパラかーい!」

「……タナトスさん。女神の私をお前呼ばわりするなんて――」


 フロラは声を落として、伏し目がちに呟いた。あ、不敬しちゃったかな。


「――すみません。まさかのボケに、反射的にツッコんでしまいました」

「いや、こんな言葉攻めは初体験……。悪くない、悪くないです……」


 天罰の1つも覚悟したが、純白の頬を朱に染めて、ウケケと卑屈に笑うヤンデレ女神。なんかキャラ変してないですか。


「まぁ、スイーツ話はとりあえず置いときましょう。ご要望があれば、後で仲間に伝えときますんで」

「本当ですか! では、是非メニューに加えて欲しい一品がありまして――」

「はいはい。後で聞きますから、後で」

「もう! もったいぶっちゃって、このいけず! じゃあ、ご相談とやらを光速で済ましましょう。光の女神だけにね!」


 パチンと可愛くウインクしながら、ビシッと決めるオヤジギャグ。フロラのオレ的ヒロインポイントが急落中だが、他のヒロイン達も絶賛大暴落中のため、ランキングに変動はないという不思議現象。ま、ともかく、話を進めるとしよう。



「――という感じでいこうかと思ってます」

「なるほどー」


 一通り説明を終えると、フロラはほうほうと小さく頷いた。


「でも、一つ心配がありまして。交渉の際に、文書とか色々出されても、オレ字が読めないんですよね」

「あれ、言ってなかったですか? ゴッドグラスには翻訳機能も付いてますよ」


 うん、全く初耳です。ちゃんと最初にチュートリアルしてください。


「――了解です。あと、上手くいかなかった時のために、何か良さげなアイテムとかないですかね?」

「前にも似たようなこと言いましたけど、私、サンバルトンの民には一応中立の立場なんです。相手が魔王といっても、フルボッコするようなアイテムを与える訳には……」

「あ、そこまでは求めてないです。緊急脱出的な何かあればくらいで」

「んー、それなら誰も傷つきませんね。いいでしょう。今までのフロラ教の布教活動のお礼にこれを授けます」


 フロラが小さな手で空間をなぞると、光の粒子が集まり、拳ほどもある青いクリスタルが具現化した。


「これは転移晶。必要な時に使えば、登録しておいた場所に瞬時にテレポートできます」

「つまり、自分の城を登録しておけば、いざという時、瞬時に逃げ帰れるってことですね。フロラ様、ありがとうございます!」

「……いよいよですね。タナトスさん。がんばってください!」


 不意に、フロラの声から冗談めかした響きが消えた。巫女装束をピシッと正し、真っ直ぐにオレを見つめる。


「はい! 立場上、建前はあるかと思いますが、内心でオレの勝利を祈ってくれたら嬉しいです」

「何言ってるんですか!」

「えっ⁉」


 フロラが若干、怒気をはらんだ様子で叫んだ。いつもは穏やかでやさしい女神が、燃えるような熱を帯びた眼差しをオレに向ける。


「バカにしないでください! タナトスさんを全力で応援するに決まってるじゃないですか! 私のほこらに黒焦げで転がり込んで来たときから、ずっと見守ってきたんですよ……」

「フロラ様……」


 フロラが大きな瞳を潤ませて、優しく笑い掛けた。オレをぷるるんゼリーにしてしまうこの笑顔に、何度救われたことか。彼女の導きがなければ、とっくにどこかで野垂れ死にしていたことだろう。ありがとう、フロラ。無事に大願成就を果たしたら、貴方に秘めた想いを伝えるよ。そんなオレの密かな決心を見透かしたように、フロラはきっぱりと断言した。


「スイーツバイキングの店がオープンしたら、私もお忍びで絶対行きます! そんなお店、絶賛応援せざるを得ないじゃないですか!!」

「そっちかーい!」

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