第61話 遅れて来た年1でしか働かないアイツ
前回、コロボックル達とナイトカーニバルを楽しんだタナトス達。今日は趣向を変えて、違う冬のお楽しみに挑戦です。
「野郎ども! 逆らう奴は皆殺しだー!!」
「ヒャッハー!!」
その赤備えの軍団は、三下悪党テンプレの鬨の声を上げるや、怒涛の勢いで雪煙を巻き上げながら眼前に押し寄せてきた。慌てて、オレはサナエちゃんが予め敷設した95式糸電話で救援要請を発信する。
「オーパー! オーパー! こちら、タナトス。このままでは本隊の全滅は避けられない!」
「オーパー。もう少し、踏ん張るべさ。隊列が間延びしたところをワタスとデンキチさんで挟撃するだわさ」
現在、オレ達はコロボックル達と雪合戦に興じている。話を持ち掛けられたオレは、
「雪合戦⁉ 一度やってみたかったんだよ! いいね! いいね!」
とノリノリでOKした。ところが、コロボックル達の本気度が半端ない。前衛はスリングやボウガン、後衛にはバカでかいカタパルトまで配置して、魚鱗の陣で一直線に突撃してくる。対する我が軍は鶴翼の陣で迎え撃つ。だが、コロボックル・アーミー達は両翼の翼には目もくれず、鶴の胴体、つまりオレとエミリールのなんちゃって夫婦目掛けて、雨あられの雪玉を浴びせかけてきた。……違う。思ってたのと、全然違う。とりあえず、オレは大将だからな。ここで討たれるわけにはいかんのだ。味方の犠牲は辛いが、これも将たる者の定め……。
「エミリール君。ここは、任せたぞ」
「なっ!? このピンチにどこ行くつもりよ?」
「私はしばし、壕に籠るとしよう。殿を任せられるのは、有能秘書の君しかない」
「やっと、わたしの有能さに気付いたようね! 任してちょうだい!!」
やれやれ、秘書がチョロくて助かった。ちびっ子共の雪玉はサイズこそ10円まんじゅう程度だが、この尋常ならざる猛攻を受けたら、パウダースノーといえど、ただでは済むまい。そんな不安など、微塵も感じていない不感症秘書は、コロボックル軍の前に勇ましく仁王立ちした。
「やぁやぁ遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは……って、ちょっと聞きなさいよ! ブベッ!!」
勇ましく名乗りを上げた武士エルフをコロボックル達が集中砲火する。なんかこんなの、学習マンガで鎌倉武士が蒙古軍にやられてたの読んだことあるぞ。迂闊に壕から顔を出すとオレも巻き添え食らうので、頭を抱えて耳だけで様子を伺っていると、意外とがんばるエミリールの悲鳴が響く。
「オグゥ! バベッ! 社長の身は私がまも……ホグゥア!!」
もはや、これまでか。ありがとう、エミリール。君の献身は3日は忘れないぞ。そうしみじみ思いながら、痛い目見る前に白旗を上げようとしたその時だった。
「ウララー!!!!」
アパッチ族のような雄たけびを上げながら、サナエちゃんとメグミーヌが側面からコロボックル達を急襲した。サナエちゃんが大量の雪玉を絶妙な位置に高速トスすると、それに負けじと、メグミーヌがしなやかなタッチで片っ端から蹴り飛ばす。虚を突かれたコロボックル軍は大混乱に陥った。しかし、敵もさるもの、なんとか陣形を立て直そうと、メグミーヌ&サナエ軍方面に置楯を並べて防御陣の構築を試みる。だが、その隙を狡猾なデンキチ&エムエルコンビが見逃すはずはなかった。丸空きとなったその背後から、この日のためにデンキチさんが腕によりをかけて用意したチート兵器、雪玉ガトリング砲が火を噴いた。哀れコロボックル・アーミー達は次々とハチの巣にされていく。よし、勝った! 諸葛孔明なみのオレの計略どおりだな。さて、大将たるもの勝ち名乗りを上げないと。そう思って壕を出ると、向こうから、トナカイに引かれたソリに乗る、赤い服の御仁が近づいてくる。あっ、あなたはもしや!
「ホッホッホッー! メリー……ブベラ!!」
戦場の只中に飛び込むとは無鉄砲なオジサンだな。流れ弾を側頭部にモロに食らった赤い人はソリから転げ落ちて2回転ほどした後、雪に埋もるように突っ伏した。
「だ、大丈夫ですか!? でも、サンタさんも不用心ですよ。雪合戦の最中に乱入しちゃったら」
「ホッホッホー! いや、面目ない」
どす黒い炭酸飲料の広告塔から飛び出してきたようなオジサンが頭をかく。その後、思い出したように白い大きな袋をゴソゴソとまさぐり出した。
「えっ! マジっすか! プレゼントあるの!」
「ホッホッホー! まぁ、プレゼントというか――」
「まぁ、わりと善行積んでるしね。いい子の自覚はあるんだよ! 少年の心は忘れてないよ!」
「なんか、クリスマス前になったら、急にサンタを信じるフリする中学生みたいね」
夢を忘れたメグミーヌが余計なツッコミを入れてくるが、構うものか。サンタさんは夢を信じる人のもとに現れるのさ。そんなワクワクさんなオレに、サンタさんが手渡して来たのは1通の手紙だった。
「えっ? 手紙?」
「そりゃ、この格好見たら分かるじゃろ」
「だから、サンタさん……」
「サンタだかヨンタだか知らんが、この服は郵便配達員の冬のユニホームじゃよ」
オレはガックリとヒザをついた。なんだ、その紛らわしい衣装は。そりゃ、確かに暖かそうな恰好ですがね。手紙1枚をオレに手渡したサンタでもヨンタでもないメタボな郵便配達員は、
「ホッホッホー! メリーレター!」
と陽気な掛け声を上げながら、空ではなく、雪道を滑走して去っていった。




