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第47話 生きてるだけで丸儲け

「エミリール君。今から、女神様に鑑定してもらんだから、くれぐれも粗相(そそう)のないようにな」

「分かってるわよ、社長。ところで、女神様ってどんな人なの?」

「本人(いわ)く、設定年齢は17歳らしい」

「意外とお若い方なのね……」


 メグミーヌとエミエルは馬車で待たせて、2人で(ほこら)の中を進む。己の身を守るためにも、このエルフの悪運をどうにかしようと、エーデル・ヴァレイに行く途中、フロラの神所に立ち寄ったのだ。一応、事前にスマミでアポ取りはしてある。


「えー! この前、神はめったに人前に姿を晒さないって、言ったばかりじゃないですか!」

「そこを何とか! あいつ、マジでヤバイかもなんですよ」


 渋るフロラに馬車くじ引きの顛末(てんまつ)を説明すると、途端にフロラは深刻な顔になった。


「……それは、本当に呪いかもしれないですね。わかりました。迷える子羊を導くのは女神の使命。(うけたまわ)りましょう!」


 なんだかんだ言っても、面倒見が良い女神様である。2人して最奥の祭壇にたどり着くと、いつもはないレースのカーテンのような薄衣が垂れ下がっている。その奥に、フロラのシルエットがぼんやり浮かぶ。


「ようこそ、敬虔(けいけん)なる我が子よ。あなたの未来を、我が光で照らしましょう」

「ねぇ、社長。17歳なら私より年下なんだけど、母親気取りしてるわよ、この女神様」


 オレは空気の読めないとんちんかんエルフの頭を無言ではたいた。


「ちょっ! 痛いじゃないの、社長!」

「女神様の前で無礼を働くんじゃない! あと17歳は設定年齢だ。実年齢が不詳のお前なら分かるだろ」

「あっ、そういうこと! さーせんした、女神様!」


 薄衣越しにもフロラの顔がひきっつている様子が伝わる。この()れ者はいざとなったら、スリーパーホールドで眠らせるしかないかもしれない。


「すいません、フロラ様。このおバカ、初めて目にする神様の前で気が動転しているようです。これ以上、失礼を重ねる前にちゃちゃっと鑑定をお願いします!」

「……タナトスさん。あなたの仲間じゃなければ、優しい私でも神罰を与えていたところですよ」


 張り詰めたその場の空気に脇汗が一筋垂れる。なんだって、こいつのせいでオレがヒヤヒヤさせられなければならないんだ。せっかく、これまでフロラとはそこそこ仲良くやってたのに。そんな諸悪の根源エミリールは、今から恋占いをしてもらう乙女のごとく、目をキラキラさせている。


「では、気を取り直して。悩めるエルフよ。汝の来し方行く末を見定めましょう」


 フロラがそう言うと、エミリールの体が黄金色のオーラに包まれる。数秒程その状態が続いたあと、静かにそのオーラは霧散した。


「こ、これは!」

「女神様! どうですか?」


 エミリールが勢い込んで結果を聞くが、フロラはそれには答えなかった。


「タナトスさん、ちょっとこちらへ」

「はいはい」


 フロラに呼ばれるまま、薄衣を(くぐ)って、そばに寄る。


「あの、エミリールさんですが……」

「かなり、ヤバイ呪いがかかってるんですか?」

「それが、その……。私もこのような前例は経験が無くて……」


 フロラは言いよどんだ後、顔を上げてきっぱりと告げた。


「エミリールさんは、呪われてなんかいません」

「そりゃ、良かったです。えっ? じゃあ、なんで?」

「運の良し悪しは、ラックのステータスで決まります。運の悪い人はこの数値が1桁。さらに呪われていると0なんてこともあるのですが……」

「ですが?」

「エミリールさんの場合、ラックの数値が-100なんです!」

「まっ、-100!?」


 オレは、一瞬固まった。そして、フリーズが解けたとたん、腹を抱えて爆笑した。


「-100! -100って! なんすか、それー!!」

「もう、タナトスさん! 笑いごとじゃ、ありません!」


 そういうフロラも吹き出すのを必死にこらえている。何が何だかか分からないエミリールは、薄衣の外でキョトンとしていた。


「女神様! 社長! どうしたんですか?」

「いや、エミリール君。まだ鑑定の途中だ。そのまま待機してくれ」


 おれは、自分の腕をつねりながら、必死に笑いをこらえてそう言った。


「いや、フロラ様。その、バグったステータスの理由って?」

「それが、呪いの痕跡もないし、生まれつき異常に運が悪いとしか……。これで、これまで生きてこられたのが不思議なくらいです」

「あの、なんか方法ないですかね? オレまで巻き添え食うのは御免なんですが」

「私も出来る限りの対処はしてみますが、どこまでこの悪運を底上げできるか……。ラックの種というレアアイテムもありますが、ステータスを1か2上げるだけなので、焼け石に水ですし……。後は、地道にレベルアップしていくしかないですかねぇ……」


 もう詰んでるじゃねえか。どうすんの、コレ。


「あっ! 私の先輩の幸運の女神ならあるいは……」

「その方はどちらに?」

「それが、気まぐれ1人旅が趣味の方なので……。あ、最近くれた絵葉書にはエーデル・ヴァレイの湖が映ってましたよ!」

「フロラ様! ひょっとして、オレってめっちゃラックのステータス高くないですか⁉」


 この渡りに船な情報はオレの幸運に違いない。そう確信して尋ねたオレに、フロラはスンとした顔で答えた。


「いや、普通ですよ」

「あ、さいですか……」

「ただ、今は女神の私の加護による運マシマシで、実質ラック100です!」

「やったー! ……って、ひょっとして、エミリールと一緒だとプラマイ0なんじゃないですか?」

「そうなんですよ! 女神の加護があるのに、仲間の悪運に引っ張られてラックが呪われレベルなんて、前代未聞ですよ!」

「どんだけ〜!」


 深刻な事態のはずだが、妙にツボに入ったオレとフロラはアハハと笑い合った。ん? ひょっとして、エミリールと出会わなければ、もうこの異世界転生、とっくにハッピーエンドしてたんじゃない?

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