プロローグ 車買うならリトルモーター♪
「ここに色付けてくれよ! 鈴木だけよゼロなの!! ゼーロー!!!」
パワハラの権化のような上司が、営業成績を棒グラフで示したホワイトボードをバンバン叩きながら、怒鳴り声を上げる。俺はジャイ〇ンが映画版のように急に良い人になることもなく、テレビ版のまま大人になったらこんなだろう上司(以下ガイアン)に公開説教されていた。大卒の方が稼ぎがいいらしいとネットで見たので、とりまFラン大学に入ってみたものの、なぜかオレの周囲1mだけで発生した就職難ウェーブにもまれ、面接52社目で引っかかったこの中古車販売店に就職したのが3年前。一応、業界大手らしいが、ネットではやれ諸費用やオプション料金が高過ぎだの、買って3日で壊れたけど、お客さんの乗り方に問題があるため、補償対象外と言われただの酷い口コミで溢れている。当然ながら、社員にも厳しい会社だった。長時間労働当たり前、休日出勤当たり前、そしてキツイノルマ。
「なー! 給料泥棒なんて良心痛むだろ? 良心痛むならパパかママにレクサスでも買ってもらえよ。良心が痛むだけに両親にな! ガハハハハハハーー!!!!」
「……ハハハ……」
周りの同僚からお付き合いの笑いが起きる。ガイアンはおやじギャグを無視されると机をひっくり返してキレるのだ。そのため、みんな愛想笑いをしているが、その目は死んでいる。
「でもなー、オレッち、やさしさの塊だから! 今日はやきそばパン、ダッシュで勝ってきたら勘弁してやんよ。ただし、3分以内な! ヨーイスタート!!」
その瞬間、会社の事務所を猛ダッシュで飛び出した。ここから一番近いコンビニまで90m。よほどレジが混んでいない限り今日は生き残れる……はずだったが、会社の敷地を勢い良く飛び出した途端、ダンプカーさんと目が合った。