2.神託の概要(1)
まずは神託の記述を簡単に解説する。
「吾は天照大神と呼ばれる者である」
何気ない文のように見えるが、実は衝撃的な背景があり、いきなり濃密な解説が必要な文である。「吾」の時代考証は前述したが、問題なのは「天照大神と呼ばれる者である」。
「吾」が天照大神だ、とは言っていない。天照大神と所謂「中の人」が同じでも、「天照大神」でない立場で神託を発しているのであれば、このような奇妙な表現に納得がいく。自分が「天照大神」の呼ばれ方が嫌だけど、この名乗りをどうしても使う必要があるのではないか。「天照大神と呼ばれる者」の解釈はものすごく重要なテーマであるので、6節で詳しく取り上げる。
「次代の天皇には愛し子の愛子を指名する」
「すめらみこと」は6世紀末~7世紀初めに定まったとされる、「天皇」の読み方である。それ以前は「天皇」でなく「大王」である。「天皇」の最も古い読み方を使うことで、遠い過去との繋がりを示唆しているのではないか。
「愛し子」(いとしご)は「特に可愛がっている、自分の子のような存在」である。ファンタジーの世界では、神、精霊、龍などの超自然的存在の愛し子をいじめると、超自然的なとんでもない仕返しが返ってくる話が多い。「愛し子」宣言は、そういうことなのであろう。
「愛し」は「めぐし」とも読めるが、その読みの可能性は排除されている。
「愛子」は愛子内親王のことで間違いないであろう。天照は、天皇を男性に限る現行の制限を外すことを求めている。本論では現在の皇位継承問題に深入りするつもりはない。
「吾が意に背くものは吾が子に在らず」
この「意」は、天皇の指名に関する件としか読み取れない。愛子天皇の実現を妨げようとするものは、自分の「子」と見なさない、と明確に読める。
もちろん、現代人は天照と直接の親子関係にはない。会社の社長が社員を「うちの子は皆が優秀だ」と表現するような、擬制的親子関係を示している。天照大神を日本の最高神として扱う立場を取れば、天照の子でなくなることは、もう日本人として見なされない、どうなってもよい、と烙印を押されることを意味する。
「もの」と「者」の使い分けには留意すべきだ。神勅の中でここだけ、「者」でなく「もの」となっている。意に背くと人間扱いされなくなるのだ。