第三話 生活指導室で二人
さっきの言葉が脳内を駆け巡る。
してみたい……してみたいだと!?
確かにあの小説は、
高校の日直同士であんなことやこんなこと、
そんなことをする小説だった。
それをしてみたいだなんて言ったら、
まさに今日、俺達は――
「はい、黒板消し」
「ありがとう」
李さんは何事も無かったかのように
黒板を消している。
俺の思い上がりか?
そうだよな、そうだよな。
でも、確かあらすじでは
朝礼の後、生活指導室に二人で行って
あんなことやこんなことを、
「田中くん、この後はどうすればいいの?」
「ああ、生活指導室行かなきゃ。
日誌と今日の宿題、
あそこに置かなきゃいけないんだよね」
「ふーん……そうなんだ。
この分量だと二人で行かなきゃ……ね」
李さんはにやりと笑った。
生活指導室に二人きり――
これはまさに、小説と全く同じ
シチュエーションではないか。
こんなの落ち着かないにも程がある。
「行こ、行こ」
彼女は宿題のノートの束を取ると、
俺に半分渡した。
「重いから分担しようね。
生活指導室の場所教えて」
「う、うん……」
二人で廊下を歩く。
他のクラスの生徒たちが、
李さんを見て振り返っていた。
ヒソヒソ会話をしているつもりなんだろうが、
天井に反響してよく聞こえる。
「あれが転入生?
中国から来たらしいね」
「そうそう、綺麗な子だよね」
「隣のあいつ、なんて名前だっけ?
なんで一緒に歩いてんの?」
「日直とかじゃないの?
特に意味ないでしょ」
俺は傷つきながらも、
李さんの先を歩く。
「ここだよ」
「ああ、結構遠かった。
はあ、疲れた」
彼女は机に宿題のノートを置くと、
近くにあったソファーに腰かけた。
彼女のスカートがひらりと舞う。
「生活指導室……か。
いいね、ここ。
ひっそりしてて」
「……ああ、そうでしょ」
彼女は目を閉じ、すうっと眠り出した。
心地よさそうに、でもうっとりしながら
眠っているように思える。
美しい、今にも触れてしまいたい。
でも手なんか伸ばしたら――
「……李さん?」
俺は声をかける。
だけど全然目を覚まさない。
「这个很可爱」
寝言でそんなことを言うから、
自分に言われているようで心臓がばくばくする。
キーンコーンカーンコーン――
チャイムをきっかけに、
彼女は目を覚ました。
「はぁーっ、寝ちゃった。
……気持ち良かった、……凄く」
彼女はぼんやりしながらも、
にんまりと笑う。
夢の中で何してたの?!
そんなことは聞けるはずもなく。
「行こっか、次数学だよね」
何事も無かったかのように
生活指導室を飛び出した。
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