第二話 して、みたい。
夜――
帰宅しても俺は、あのことが忘れられなかった。
あんなに清純な彼女なのに、
あんなことを考えているだなんて!
「太郎,吃饭了~」
「……好的」
それでも俺は、何事も無かったかのように
日常生活を送らなければならない。
俺は母と食事を摂る。
「你这次考试顺利吗?」
「……」
「太郎?」
「啊? 刚才说什么?」
話に集中できなくて、母には心配された。
「好像累了啊」
この晩は眠れなくて、
色々なことを妄想してしまった。
気になって仕方ない。
スマホで彼女が読んでいた小説のタイトルと著者名を検索し、
あらすじを読んでみた。
「大学生の男女4人が交じり合ってあんなことや
こんなこと……!?
えええ! 野外であんなことまで!」
益々眠れなくなった。
翌朝――
「おはよう、田中くん!」
「李さん……おはよう」
なんと李さんが話しかけてきた。
初めてのことに戸惑う。
しかもなんだか距離が近い! 近い!
なんか距離感バグってるよ、この人。
「今日日直らしいんだけどよくわかんないから
教えて!」
至近距離でにっこりと微笑まれて、
俺は目を逸らすしかない。
「どうして俺?」
「そりゃあ……田中くんも日直だからねえ」
黒板の右下には、
『日直 李 田中』と書かれていた。
「そうだった。すっかり忘れてた」
「もう、田中くんたら。早速日誌の書き方教えて」
李さんは日誌を差し出す。
「ああ、一日の時間割を書いて、
テキトーにコメントしておけばいいんだよ」
「テキトーに?」
「そうそう、テキトーにね」
俺が見本を見せると、
「なるほどね」
とコツを掴んだ様だった。
「朝礼の欄は、『朝読書』って書いておけばいいよ」
「朝読書? って何?」
「毎朝10分間、簡単な朝礼の後に読書をしようっていう
取り組みが、うちの学校にはあるんだ。
何か特別なことが無い限りは毎朝これだよ」
「へえ、何読んでもいいの?」
「うん。読むものは自由だよ」
はっ――!!
もしかして、李さんは昨日の続きを読むんじゃ……!
俺の心臓はバクバク言い出す。
「色々教えてくれてありがと。
またなんかわかんないことがあったら
聞くね」
「う、うん」
朝読書の時間――
「では、今日の朝読書を始めたいと思います。
この時計で40分までね」
皆一斉に読みたい本を取り出した。
俺はサイコホラー小説を取り出す。
しかし、そんなことは頭には無い。
すぐに彼女が何を読んでいるのか確認した。
この前とは別の小説だ。
タイトルは――
『别多心』
俺はすぐにタイトルと著者名をネットで検索する。
おおお!
またもや官能小説!
高校の日直同士であんなことや
こんなことまで!?
えええ! 人が訪れているのに!?
嘘だろう!? 嘘だろう!?
李さんの表情を見ると、
「……」
ただただじっと読み、ページをめくっている。
そして時たまにやける。
俺は汗が止まらない。
自分が読んでいる小説が、全く頭に入らない。
そして、ぼそり、
「我也想体验一下」
えっ――!?
してみたい……?
キーンコーンカーンコーン♪
「はい、そこまで。
じゃあ日直、黒板消すの頼むな!」
「はーい」
李さんは何事もなかったかのように
小説を閉じると、
「田中くん、行こ!」
俺を誘い、黒板へと向かう。
「はああ」
ドキドキが止まらない。
「なんだこいつ。きも」
クラスの男子には気味悪がられた。
でもこんなのどうしようもないだろう!