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第一話 転入生

俺は偏差値50の普通科高校に通う一年生、田中太郎。


「転校してきた 朱亜(しゅあ)です。宜しくお願いします」


朝の朝礼で流暢な日本語でそう名乗った彼女は、長い黒髪に大きな目、小柄で美しかった。

アジアンビューティーで、おとなしそうな見た目。

黒板に、『李 朱亞」と書く。


「李さん、それは中国の漢字だから……」

「ああ、そうでした」


担任教師とこそこそ言いながら、彼女は文字を書き直した。


『李 朱亜』


クラスメイトはひそひそざわつきだす。


「外国人? でも日本語が上手だぜ?」

「綺麗な名前……」

「っていうか美人」


それを見た先生が、こほん、と注目させる。

李さんは顔を赤くしていた。


「李さんはお父さんが中国人で、お母さんが日本人だ。


 今までは中国で生活していたが、

 お父さんの仕事の関係で日本に住むことになった。


 このクラスで外国ルーツの生徒は初めてだが、

 皆、仲良くするように」


俺は、なんだかうずうずした。

それには理由があるが……


朝礼後――


彼女の周りには人だかりができていた。

カースト上位の女子3人が取り囲む。

その中の一人、れいが彼女を褒める。


「ねえ李さん! 日本語上手だね!

 中国にいたとは思えない!」


「ありがとう。


 家ではお母さんが日本語を話していたから、

 そのおかげ」


「そうなんだ! 凄いね。


 次の授業は生物実験室だから、

 教科書を持って行ったほうがいいよ」


「ありがとう。

 でもまだ生物の教科書届いていないんだ」


「じゃあノートだけでも」


 うなずいた彼女は鞄から数冊のノートや本を取り出した。

 本にはタイトルが書かれている。


我的男朋友わたしのかれし


 と、そこには、中国語のタイトルが表示されていた。

 玲が指差して質問する。


「これってどういう意味?」


「ああ、私の彼氏って意味だよ。

 最近ははまってる小説なの」


「へえ、中国語って難しいね。


 漢字が一緒だから読めるのかなって思ってたけど、

 全然わからないや」


 李さんは笑って、


「そうでしょう?

 結構違うんだよ」


と、中身を見せる。


「うわあ……漢字がいっぱい!」

「正直、目がちかちかする~」


李さんはほっと溜息をついて、


「あははっ! そっかそっか、そうだよね。

なんか安心したわ」


「何が?」


「ああ、いや。行こうか!

 待たせてごめんね」


彼女がぱたんと本を閉じると、女子たちは急いで教室を出た。

俺は一人教室に取り残されていた。


「嘘……だろ?」


俺は一人でつぶやく。

動揺を隠すのに必死だった。


「はは、まさか、まさか」


見間違いであって欲しい。


実は俺は、中国語ができる。

両親は元々中国人だが、

日本人に帰化しているので、現在国籍は日本だ。


5歳から日本で育っているので

ルーツこそあれど、中身は完全に日本人。

外国ルーツがあるなどと誰にも気付かれたことはない。

だけど家では中国語だけで会話するから、

中国語は流暢。

読み書きもできる。


だからちらっと見えたことで、

少しわかってしまったのだ。


あの小説の中身が――


まさか、あんなに美人で清純そうな彼女が、

あんなにHな小説を読んでいるだなんて!

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