第八話 前世とは
「じゃあ次僕からいいですか?」
「はい、どうぞ。」
お互いの頬の赤みが取れてきた頃、今度は皇が自分が話していいかと確認をしてきた。アリスが頷くと皇は「変な事聞くんですけど……。」と前置きを置いてからアリスに質問を投げかけてきた。
「さっき気を失っている時に変な夢とか見ませんでしたか?」
「変な夢?」
「知らない景色とか、知らない人とかそういうのがあれば……。」
わやわやと的をえない説明をされて首を傾げる、確かにいつも見る変な夢はあるがさっき気を失っている時は見なかったはず。よく思い出そうと目を覚ました時のことを思い出そうとするとずきりと頭に痛みが走った。
「っ!」
「大丈夫ですか!?」
突然頭を押さえた皇が慌ててアリスの背中を撫でる。アリスはすぐに「なんでもないです。」と顔を横に振るが、皇は気が気でなさそうだったがアリスが大丈夫とにこにこしてみせると少し安心した様で胸を撫でおろし話の続きを始めた。
「こういう話。亜久里さんはこういう話は嫌がると思うんですけど、さっき気を失う直前亜久里さんから「レティシャ。」と呼ばれたんです。レティシャという名前に心辺りはありますか?」
「レティシャ……、ごめんなさい。わかんないです。」
「僕の前世の時の名前なんです。」
「前世……。」
「何言ってるかわからないですよね。」とから笑いをする皇の話を、一時間前のアリスなら遮って聞かなかったであろう。だが、今は命の恩人であると同時に彼が嘘をつく様な人間じゃないと何故かわかっている脳が今のアリスに静かに話を聞かせていた。
「前世でとても愛した人がいたんです、僕とその人は身分が違ったので一緒になることはなかったんですけどちょっと事情があって二人で逃げ出して静かに穏やかに暮らしていました。」
「……どんな人だったんですか?」
「世界で一番美しい方でした。特に真っ白の髪が光にあたりキラキラとに姿が僕はとても……。」
皇がアリスを愛おしそうに見つめた。ただその皇の目はどこか遠くを、その"美しい誰か"を見ている様でアリスは何故かとても嫌な感じがした。
でも、とアリスは皇が言っていたことをふと思い出す。皇はあの時確か「来世では。」と言っていた。話を聞いているだけで、皇が彼女のことを深く深く愛していたのが伝わってくるのに。
「その人と最後どうなったんですか?」
「最後は……。」
皇が話そうとした瞬間、アリスの脳裏にごうごうと燃え盛る赤黒い炎がうつる。いつも見るあの夢の炎が。そしてまた同時に無線機が鳴り出した。皇は立ちあがるとすぐに無線機に返事を返す。
「はい、此方皇。はい。はい。了解です。交番に戻り次第すぐに現場に向かいます!」
無線機との会話が終わると皇は慌てた様子でアリスに貸してジャケットを返してもらう。アリスもただならぬ様子の皇の姿に今度はすんなりと渡した。
「近くでボヤがあったみたいなんだ。放火かもしれないから現場に向かうね。亜久里さんも危ないからすぐに家に帰るんだよ。」
「はい。」
皇は返事をしたアリスの頭を満足そうに撫でると、ジャケットを着てすぐに公園の外に走っていってしまった。
一人取り残されたアリスもしばらくはその勢いに圧倒され呆然としていたが、皇に言われた通り家に帰ろうと立ち上がる。レティシャという名前、燃える炎、自分と同じ白い髪の誰か。前世とか色々言われても自分はさっぱりわからない。時折見るあの夢がその前世というものに関係しているのかすらもわからない。
わからない事だらけのアリスだったが、自分に重ねて誰かを見ている皇が何故か非常に腹立たしくなって来たことだけはわかった。